〇九州国立博物館 特別展『室町将軍-戦乱と美の足利十五代』(2019年7月13日~9月1日)
3連休に職場の一斉休業が2日ついて、5連休になった。土曜の日中は所用があったので、土曜の夜に福岡へ飛び、九博と大宰府。日曜の夜に大阪(伊丹)に飛んで2日間遊び、火曜帰京。今日(水曜日)は東京で休息、という予定を立てた。まず九州に飛んだのは、この展覧会がどうしても見たかったから。いま何かと話題の室町時代に注目し、室町幕府の栄枯盛衰と個性あふれる将軍たちの魅力に迫り、多彩な芸術文化を紹介する。こんな面白い特別展を九博だけでやる(巡回なし)のはほんとにズルい。
私は、この展覧会を九州でやる意味がよく分からなかったのだが、冒頭に大宰府に滞在中の尊氏が軍勢を立て直し、政権奪取のため進発することを記した『足利尊氏御教書』(建武三年/1336)があって、「室町幕府の始まりは大宰府から」ということが分かった。その尊氏の肖像画が2種。長らく尊氏像とされてきた『騎馬武者像』(京博)は高師直あるいはその子師詮という説が有力になっているという。しかし大太刀を肩にかつぎ、顔の見えないほどたてがみの乱れた黒馬にまたがる姿は勇壮でカッコいい。髭が濃く、少し月代を剃ったざんばら髪なのが、蒙古武者を思わせる。一方、広島・浄土寺に伝わる、束帯姿の『足利尊氏像』は初めて(?)見た。耳と鼻が大きく、ふっくら丸みのある顔立ちで、温厚篤実な人柄を感じさせる。手紙などから覗える尊氏のイメージにはこちらのほうが近いかも。広島・浄土寺って、尾道の浄土寺か!
京都・宝筐院の『足利義詮像』も同じようにふっくらした顔立ちで、浄土寺の尊氏像によく似ている(なぜ上目遣い)。実は尊氏像ではないかという指摘もあるそうだ。京都・鹿苑寺の僧形の『足利義満像』も出ていた。衣や袈裟は華やかだが、なぜこんなに困り顔なのか。
本展は、このほかにも歴代将軍の肖像画が集められていて興味深かった。4代・義持は父親譲りの困り顔。12代・義晴は、死の前日に描かれたスケッチ、あるいはそれをもとに描かれた肖像(土佐派絵画資料)が残っていて、まるでイメージのなかった将軍だが、忘れられなくなってしまった。あばたの残る13代・義輝のスケッチは人間味がある。
義満・義持の日明貿易に関連して、勘合貿易の「勘合」の複製(内容は橋本雄先生の創作)と体験式の詳しい説明があったのも面白かった。なるほどこういうシステムなのか。そして文書がデカい(新聞紙くらい)。永楽帝が義満に与えた金印の「日本国王之印」は失われてしまい、実際に使用された模造の木印が山口・毛利博物館に伝わっている。
美術品もいろいろ来ていたが、展示ケース内に違い棚を拵え、唐物の名品を組み合わせた展示が目を引いた。徳川美術館の『古銅鴨形香炉』に福岡市美術館の『唐物肩衝茶入(松永)』に東博の『禾目天目』。選ぶ仕事も楽しいだろう。東博の『出山釈迦・雪景山水図』も3幅揃いで久しぶりに見た。その前に青磁の花入一対と銅製の三具足があって、宋~明のものだろうと思ったら、三具足が江戸時代の国産品(池坊総務所所蔵)だったのにはびっくりした。しかしよくできていた。能阿弥の『蓮図』、青磁輪花茶碗の『馬蝗絆』が出ていたのも嬉しかった。大和文華館の『雪中帰牧図』や山梨・久遠寺の『夏景山水図』もあって驚く。伝・牧谿筆『双鳩図』(個人蔵)は初見のような気がする。よくふくれていて可愛かった。
最後に京都・等持院の歴代将軍像が並んでいて、写真撮影可(ただしあまり彫像に近づけない)になっていた。本展のポスターにも使われている義満像。
展示室入口に15代将軍の劇画調イラストが掲げてあって、これも撮影可だった。初代・尊氏、2代・義詮、3代・義満はこんな感じ。足利将軍家への理解と愛情が感じられて好きだ。
※九博ホームページに、担当学芸員が展示会場内を紹介する動画あり。ほんと、東京に来てほしい展示だったなあ…。