
茫洋物見遊山記第145回 &鎌倉ちょっと不思議な物語第311回
冬の鎌倉で2つの展覧会をみました。
ひとつは今年生誕110年を迎えた小津安二郎の回顧展です。
会場には昭和27年から北鎌倉に住み続けたこの名監督ゆかりの遺品がいろいろ陳列されていましたが、小さな手帳に蠅の頭ほどの小さな文字で几帳面に書かれた彼のメモワールには驚かされました。
でも考えてみれば「なるほどいかにも小津なら」という感じで、彼の作品の演出ノートなどは、まるでミクロの決死圏のような物凄い精緻さで考えつめられていたことがわかります。
ところが一方彼が愛用したカーディガンや手机の色は燃えるような緋色で、それらを見詰めていると、彼の映画への愛や燃えるような情熱の象徴のように映じてくるのでした。
鏑木清方展では珍しい「女歌舞伎」の下絵が公開されています。例の出雲阿国のデビューを素材にした歴史画はスケッチだけで無彩ですがその大胆な構図は興味深いものです。
「小津安二郎展」は来る4月20日、「作品に見る清方の美意識」展は4月13日までそれぞれの会場で寂しく開催されています。
なにゆえに渾身のワンカットが生まれるのか深紅のカーディガンと細字の手帳より 蝶人