照る日曇る日第660回
著者による「うつぼ舟」シリーズ最終巻の第5巻は、世阿弥の次男元雅の悲劇に迫る。
室町幕府の将軍義満に愛され義持の庇護を受けて数々の名作を後世に遺した世阿弥父子だったが、甥の音阿弥を贔屓にする義教によって元雅は伊勢の国で暗殺され、世阿弥は佐渡へ追放される。
恐らくは怨みを呑んで瞑目したであろう元雅の菩提を弔い、魂魄御霊を鎮めるようにして、著者は若くして泉下の人となったこの天才の「藤戸」「俊寛」「天鼓」「隅田川」「弱法師」などの名作能を丁寧に読み明かすのである。
特に身に沁みたのは平家物語を本説とする「維盛」で、重盛の長男として将来を嘱望されながら富士川の戦いに惨敗し、屋島から高野山に逃げ、最後はとうとう那智の浦で入水して果てた平維盛と、源氏に殺されたその子六代の非業の死が、観阿弥・世阿弥を超える才能の持ち主と伝えられる元雅の悲劇に重なって仕方が無い。
ちなみに六代は、いま私の家内が通っている逗子スポーツクラブの近くの田越川で殺され、松の根方には立派なお墓が立っている。

なにゆえに国はどんどん右傾化するのか「ま、そのおー」左脳方面が衰えているので 蝶人