照る日曇る日第663回
毎年思うことですが、梅が散って桜が咲くまでの時間はそうとう長い。
この長編小説は昭和27年に四国新聞の夕刊に連載されたらしいが、題名も内容もその媒体にふさわしくのんびりしていていわば春風駘蕩としており、朝寝して宵寝するまで昼寝して、時々起きて居眠りしたくなる、そんな長閑な季節に読むのにふさわしい時代ものでした。
作者が解説しているとおり、これは徳川時代の末期に御三家のひとつがイスパニアと提携して政権の転覆と乗っ取りをたくらもうとしているのに気付いた5人の正義感が立ち向かうというお話です。
こういう東映の旗本退屈男風のロマンチックと弓なりのスローカーブ、考証や傍証を抜きにした荒唐無稽さは、何事につけてもせちがらい当節ではもはやユネスコ文化遺産並みに貴重なものと申せましょう。
なにゆえに梅が散っても桜が咲かぬ下手な鶯お稽古するため 蝶人