
蝶人物見遊山記第228回
久方ぶりの東京でしたが猛烈な風に閉口しました。これが春一番ならいいのですが。
歌舞伎はやはり開始直後よりも千穐楽やテレビ中継が入る日がいいようです。全然空気と台詞の入り方が違います。たとえばいまでは完全に死んだ形態模写と化してしまった演技の最後で見得を切るところの気合い、など。
ということで、今回もわざわざ楽日を選んでの見物でしたが、尾上菊五郎、中村時蔵の両御大に加えて、今回は大友家の遺児、若菜姫に扮した尾上菊之助の再度にわたる「筋交い」(斜の)宙乗りを見物することができました。
客席の上を細い鋼線によって全身の安全を託して飛翔し、上下左右に移動しながら踊り、語り、あまつさえ怪しの蜘蛛糸を四方に投げつけるなどという行為は、やはりバンジージャンプに似た命懸けの投身行為で、その自己投企の美学に酔うからこそ、役者も観客も興奮するのでしょう。
国立劇場にあんな巨大な化け猫の造り物が在庫しているというのも驚きで、これに比べたらピコ太郎の乱入など下らないおためごかしの一語に尽きます。
ぬいぐるみの「くろごちゃん」とかこういうファッドにはあまりかかわらないほうが、国立劇場らしくてよろしいのではないでしょうか。
それはともかく正月興行ということで、猛烈に美しい綺麗どころがロビーにさんざめいており、嗚呼やはり大和撫子の着物姿と襟足は世界一エロチックだなあ、と見惚れてしまったことでした。
「アメリカ第一」などと抜かしているが結局は「てめえ第一」の権力亡者 蝶人