照る日曇る日第992回
中央公論新社が創業130周年を記念して2015年5月から毎月1冊のハイペースで江湖に送ってきた谷崎潤一郎全集全26巻の大尾は、昭和33年7月11日から38年2月4日までわずかな間隙を置いて書かれた日記と年譜、著作・著書目録を中心に、谷崎研究家とファンにとっては逸すべからざる内容となっている。
しかし「日記」は、谷崎本人の手になる個所はそう多くはない。大半が夫人や家族や秘書の手で代書されたもので、昭和33年11月末に高血圧で倒れた結果痛めた右手の痛みがいかに作家の活動を阻害したかが如実に分かる。昭和34年に発表された「夢の浮橋」以降、すべての作品は口述筆記せざるを得なかったのである。
さて全巻を通じての感想は、この作家こそ鴎外、紅葉に続く日本文学の正統であることを私なりに再確認できたことであったが、本全集に谷崎の代表作である「細雪」はあっても、彼が3次にわたって改定したもうひとつの畢生の大著、「源氏物語」の翻訳が欠如しているのは許しがたい暴挙であり、全集最大の欠陥と言わなければならない。
この全集はいわば看板に偽りのある「不完全全集」なのである。
もうひとつの欠点は、巻末の「解題」のお粗末である。それは作品の意義や内容の解説にはまったく触れないおざなりで表面的なものでとてもプロの仕事とはいえない。この際、千葉、明里、細江の3編集委員には、是非ともインスクリプト版の「中上健次集」の行き届いた解題を熟読して、今後の参考にして頂きたいものである。
ということで、私としてはできれば版元を岩波書店あたりに出し直してもらいたい残念な全集であった。
民進と小池のゆるさを見てとって安倍蚤糞は総選挙に出る 蝶人