音楽千夜一夜 第425回
毎日毎日人が死ぬ。自分より若い人もじゃんじゃん死んでいく。おらっちもいつ死ぬか分からない。
んで、死に土産に、こいつらも聞いておきたいと思って、お金も時間も置き場所もないのに、トチ狂ってクナッパーツブッシュの203枚組、カラヤンの70年代88枚組、クリュイタンスの65枚組、VIVARTEvol2の60枚組などのボックスCDを衝動買いしてしまったあ嗚呼!
されど、これらを聴く前に無数の在庫があるから、まずこいつらを退治しておかればと思って、いくつか聞いてみました。
1)ジョセフ・カイルベルト指揮ワーグナー「指輪」全曲12枚組
これは1953年のバイロイト音楽祭のライヴ録音ですが、いかにも真面目な指揮者らしい謹厳実直、というよりひたむきに誠実な演奏。神々の黄昏の終曲でもあんまり盛り上がらないけど、それはそれでこの人らしくていいのです。
その前にクレメンス・クラウス指揮の13枚組の「指輪」も聞いたのですが、カイルベルトほど面白くはなかった(これも53年のバイロイトライヴとなっているが、カイルベルトとの関係はどうなっていたのか不明)。
2)カルロ・マリア・ジュリーニ指揮「THE CHICAGO YEARS」4枚組
誠実といえばカイルベルトにちょっと似た真摯な紳士、ジュリーニが、シカゴ響の首席客演指揮者を務めていた時代に、手兵と録れたベト7、マラ1、ベルリオーズの「ロメ&ジュリ」、ストラビンスキーの「火の鳥」などですが、ブラームスの4番とブルックナーの9番が素晴らしい。
この曲の良さを、じっくりじっくり確かめながら棒を振っているのが、よく分かります。
全4枚とも75分を超える名演が、こんなに安くていいのかというワーナー廉価版ずら。
3)「ギュンター・ヴァント・ライヴ」全33枚組
2002年2月14日にスイスで亡くなった稀代の名指揮者ギュンターヴァントの名曲名演をライヴで収録したものですが、まことに宝物のように貴重なCDセット。気まぐれで移り気な小生が近頃これくらい夢中になって聞いたCDも珍しい。
お馴染みのブルックナーをはじめ、ブラームス、モザール、シューベルト、シューマン、ベートーヴェンを、大半が子飼いのNDR「北ドイツ放響)、あとはベルリンフィルを駆使して淡々と振っていくのですが、その淡々が曲者なり。
淡々が耳から入って胸元からポトポトと肺腑に落ちる頃には、自分自身がブルックナーその人!であるかのような錯覚に陥ってしまう。
わたくしはヴァント翁の仲立ちで、ブル氏と果てしなき玄妙な対話を交わしているのです。
「野獣」業を卒業したる柔道家アイスクリーム屋さんを始めたとか 蝶人