照る日曇る日 第1207回
村上隆の人と作品について、この国の人々の評価は、かつての村上隆と同様、(もう一人のムラカミである村上龍はいつのまにテレビ局の裏口に消えてしまったが)毀誉褒貶の只中にある。
本書では、世界の芸術家を目指す人たちがぶち当たってしまう国内の壁、そして海外に勇躍したときにぶつかってしまう欧米本流の壁…これらの障害物に対して著者が実際にどう対処してきたか、が克明に語られている。
欧米の強大な壁に対決すべき日本独自の「可愛い」と「おたく」の2大ソフトを、著者がいかに練磨してきたか、これからいかにその資本蓄積を世界に向って独占するべきか、そして最後に彼の後に続く者は、著者の達成を踏まえて、どのように思想的・戦略的に対応すべきか、が、前後の脈絡もなく必死に語られているのはきわめて興味深い。
渋沢七郎の「風流夢譚」と大江健三郎の「セブンティーン」以降、本邦のほとんどの芸術家が、天皇及び天皇制について沈黙を守っているが、この人物が2005年に制作し、現在パリのエマニュエル・ペロタン画廊に収まった「THE EMPEROR´S NEW CLOTHES」は、おそらくナポレオンを対象にした作品ではなく、この国の裸の「皇帝」へのユーモラスで皮肉な一瞥なのである。
35歳になるのに、コンビニの裏口で弁当もらうために屈辱に耐えて待っていたムラカミ。
ゴッホ、ピカソ、ウオーホルはマチスほどの天才ではない。と、暗に自分を準天才グループに位置づけてしまうムラカミ。
私の作品は1億、2億は当然だ、それだけの付加価値がちゃんとつけてある、と豪語するムラカミ。
そしてそんなムラカミを、私はけっして嫌いではない。
雀部姓と佐々木姓は同じなりき長年の疑問がいっきに氷解 蝶人