あまでうす日記

あなたのために毎日お届けする映画、本、音楽、短歌、俳句、狂歌、美術、ふぁっちょん、詩とエッセイの花束です。

古井由吉著「この道」を読んで

2019-02-23 12:03:40 | Weblog


照る日曇る日 第1203回


これは、2017年8月号から隔月で昨18年10月号まで「群像」に連載した8本の短編を集成したもので、当年とって81歳になる老文学者の最新作です。

作者は歌人奥村晃作氏とほぼ同年ですが、さすがに加齢や病気の話柄は増えたものの、創作の源泉は今なお山間の湧き水のように健在で、さすがに噴水の勢いは失せたものおん、途切れることなくホトホトと漏れて出るのは慶賀の至りです。

「季節が人の心身の内まで分け入り、そして姿となってあらわれるということが、今の世にはよほどしくなくなったのだろうか」

季節や時候の推移を叙事する随筆の趣から始まった文章は、おおかた過去に傾くのですが、その思い出の一断片が、単なる回想に堕す瞬間に思いがけない連想と飛躍によって一転して別乾坤へと飛躍し、一閃して斬新なイマージュと哲学的観想をまき散らします。

けれども、やがて全ては、作家その人を思わせる語り手とともに無為と化し、ある
かなきかの一筋の道は、薄明のうすら闇の中に、行方も知らずに消えてゆくのです。


  夢というはその起点から逆のぼりゆくを見ると喝破せしは古井由吉 蝶人

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