照る日曇る日 第1331回
河出書房新社から出版されていたナボコフ選集もとうとう5巻目が刊行され、これが最後かと思うと、なんとなく寂しいものがある。
「ロリータ」は新潮版と同じ若島正氏の訳であるが、今回はナボコフによるロシア語版との異同が付録についているが、いずれにしても、本作がナボコフの代表作であることは変わりない。
少女への性愛志向は残念ながら私にはないが、誰にそれがあっても仕方がないし、法令は別として、それをとやかくいうてもはじまらないだろう。
しかしここで作者が褒め称える天使の美しさと妖しい蠱惑の言語表現は、それ自体が芸術の別乾坤として燦然と屹立していて、それまでの文学にとっては未踏の領域であった。
この原作は鬼才スタンリー・キューブリックによって映画化されたが、肝心のヒロインに魅力がなく、米国映倫規制で性愛シーンが峻拒されたためにひどく見劣りする出来栄えに終わってしまって残念だ。
人も世もたそがれてゆく師走なり泣くも笑うもこの時なるぞ 蝶人