西暦2021年睦月蝶人狂言綺語輯&バガテル―そんな私のここだけの話第356回
○ 得意先招待旅行/社長のあいさつ
平素は、わが鳩麦焼酎に多大のご愛顧を賜りまして、ありがたくお礼申し上げます。*1
お陰をもちまして、弊社の業績と株価はこの不景気な世の中にあって奇跡的に上昇を続け、業界七不思議に数えられております。口さがない世間の人はいろんなことを言うでしょう。
しかしながら、世の中に根拠のない奇跡と不思議はございません。
弊社が焼酎というマイナーな商品の企画、製造、販売そして宣伝において、どのような苦労をしながら売り込んだか。血ヘドを吐きながらどうやってウイスキーや日本酒やビール市場に殴り込みをかけたか。ここにいらっしゃる皆さまはよくご存知です。
いかにして大手酒造会社との全面戦争を回避しながら、都会の若者をターゲットとしたニッチマーケットを巧妙に切り拓いたか。皆さまだけがご存知です。*3
誰が大石内蔵助かは別にしまして、私どもと皆さまとは何故か47人の赤穂浪士のような気がしてなりません。さて夜も更けてまいりました。本懐遂げて、いざ熱海へ温泉旅行と参りましょう。
○ アドバイス
* 1成績好調の焼酎会社の社長さんが、苦楽をともにした販売店の店主の接待旅行に出かけようとしている。
* 2大手メーカーの締め付けに耐えて、マイナー商品を辛抱強く育ててくれた店主と社長は同志的な友情と連帯感で結ばれているらしい。
* 3あいさつは、最後に浪花節的なフィナーレを迎えて盛り上がる。
作風は個性なればいたずらに変えるは自我の破滅ならずや 蝶人