あまでうす日記

あなたのために毎日お届けする映画、本、音楽、短歌、俳句、狂歌、美術、ふぁっちょん、詩とエッセイの花束です。

アゴタ・クリストフ著・堀茂樹訳「悪童日記」を読んで

2021-04-09 13:24:44 | Weblog

照る日曇る日 第1562回

世界大戦の前後でヒトラー独逸とスターリンソ連に蹂躙されたハンガリーの少邑に意地の悪い祖母と住む双子の少年の物語。
彼らは希望も絶望もせず、絶対的所与の過酷な現実のあわいを縫って、幸福は不幸かと問われればむしろ幸福そうな顔をして、されど心の底では泣きながら、うわべだけはしたかかに生き抜いていく。その鮮やかな軌跡がこの本だ。
本書が終わりに近づいて、独逸が敗れ、勝者たるソビエトの解放軍が侵入してきたとき、爆撃で死んだ母親を訪ねて、はじめて父親が登場するのだが、このあたりの叙述は西部劇やアクション映画より百層倍も激烈で、土葬にされた母親と少年たちの妹の死体を掘り返し、その骸骨を屋根裏部屋の梁に吊す光景はあまりにも惨たらしすぎて超現実的な絵画のように映ずる。
この本を読みながら、私は小学生時代に大本教のみろく殿に通じる田町の急な坂道の途中の巨大な枳殻の木に覆われたあばら家に住んでいた、食うや食わずの凶暴な少年の、汚れた顔のど真ん中にキラキラと輝く2つの瞳を思い出した。


 ことごとくピンクのはずが赤白黄種屋が悪いかチューリップが悪いか 蝶人
コメント
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