照る日曇る日 第1565回
26歳の若さで難病で夭折した歌人の、短歌を中心に俳句や詩、詩論も集めたアンソロジーを読みました。
表題は作者の「えーえんとくちからえーえんとくちから永遠解く力を下さい」という短歌からとられたものだが、このなにやら呪術めいた言葉遊びの歌を口の中で転がしていると、ルネ・クレマンの名作「太陽がいっぱい」のラストシーンをおもい出さずにはいられない。
アラン・ドロンが殺したモーリス・ロネの死体が、ヨットの下からゾロゾロと姿を現してくる不気味な謎解きの姿であります。
けれども作者の本領は、そういう谷川俊太郎的な言葉遊びにあるのではなくて、「山川草木悉皆成仏」という「涅槃経」の考え方というか、生き方そのものを歌に乗せたところにあるのではないでしょうか。
しっとりとつめたいまくらにんげんにうまれたことがあったのだろう
わたがしであったことなど知る由もなく海岸に流れ着く棒
「すばらしい天気なものでスウェーデンあたりのひとになってます。父」
ひとりでにりぼんむすびになっていてひもの痛みの、はかりしれない
廃品になってはじめて本当の空を映せるのだね、テレビは
「わたしのきらいなひとがしあわせであるといい わたしをきらいなひとがしあわせであるといい」と説かれる「無題」という詩では、作者の住む世界は、宮沢賢治のそれに限りなく近づいているようです。
すこしずつ「存在をしてゆきたいね なにかしら尊いものとして
あたたかい電球を持つ(ひかってたひかってました)わかっています
魂がいつかかたちを成すとして あなたははっさくになりなさい
さあここであなたは海になりなさい 鞄は持っていてあげるから
とびはねている犬 こども 全世界共通語 ねえ、ひかりましょうよ

春だからわたしギフチョウになりました 早く恋人を見つけなくちゃ 蝶人