西暦2020年霜月蝶人酔生夢死幾百夜
私が命を救ってやったその少女が、ブランシア党の首領となって、私の生涯最大の危機を救ってくれようとは、誰も思わなかったろう。11/1
大阪城から降下して住民に大阪都構想の賛否を聞いたら、意外なことに多くの人々が否定的だったので、私は安心して引き返した。11/2
お上に逆らうと、後ろ手に縛られて土中の穴深くに埋められるので、私らは戦々恐々としていた。11/3
私は、中国の田舎で、人知れず秘かに一生を終えようとしていた。11/4
米国の大統領選挙でトランプに負けそうになったバイデンが、尾羽うち枯らして意気消沈しているので、誰も声を掛けるのを躊躇っている。11/5
その怪しい男が、私の衣服にションベンを引っかけたので、私は彼奴をひっとらえて半殺しの目に遭わせてやった。11/6
「なんでベートーヴェンの協奏曲の3番4番5番を弾かないの?」と聞くと、「だって1番と2番が好きなんですもの」と、アルゲリッチは答えるのだった。11/7
電通が雇ったフリーのコピーライターが筆禍事件を引き起こしたので、急遽雇われたやはりフリーランスの私だったが、なるへそさすが電通、こういう時には、わざと社外のライターを起用するんだな、と舌を巻いた。11/8
映画配給に携わるわが社では、このたび業種を問わず、全社員を対象に、配給する映画を試写することにした。11/9
そのアルプスの山の家には毎日2人の老人、一人はアルピニスト、もう一人は写真家、がやって来て、ロープウエイに乗って南壁に出かけ、夕方まで帰ってこなかった。11/10
オモロイ女が秘密の部屋に閉じこもったので、今日一日は、垂木から吊り下げて弄ぶ楽しみがでけたずら。11/11
権堂は、今北を抜擢して、彼岸退治の先兵に就けたのだが、その効果はさっぱりだったので、即罷免されてしまったずら。11/12
五齢の蛹の中の私は、外界に出る時をじっと待ちかまえていたが、その好機はついに訪れなかった。11/13
その夜、シュワちゃんになった私が、空前絶後の大破壊活動を終えたのは、ちょうど1843時間後のことだった。11/14
「ジュゲムジュゲム」と念仏を唱えながら、私はいろんな動物の頭を撫ぜた。11/15
ライオン、トラ、シマウマ、キリン、サイ、ブタ、私らはいろんな動物の顔のパンを焼いた。11/16
トビー野てふ原っぱに何が隠されているのか気になって、一晩中捜索していたんだが。11/17
凶暴な雀蜂が、私の右腕に止まって刺そうとしている。今度刺されたら私は死ぬが、幸い彼奴は、止まってから刺すまでにほんの少しだけ時間をかけるので、その間に左腕で叩き潰そう。11/18
ハシモト画伯は、コロナ禍で新作発表を諦めていたが、急にギャラリーからお呼びがかかったので、売れ残りの旧作をすべて出展することにした。11/19
強力瞬間冷凍銃をやっつけるために、私は強力瞬間沸騰銃を発明したが、まだどこからも注文が来ないずら。11/20
3個所をいっぺんに抑えなければ、その怪物は捕まらないので、私は朝から晩までそいつと格闘しているのだ。11/21
その日の午後、私が指揮棒で紡ぎだした青空と緑の野原と森の風景は、げに懐かしくも美しいものだったので、なんとかして永久保存したいと願ったほどだった。11/22
そのフレンチ・レストランでは、イタリア製のコーヒーマシンが故障してしまったので、「本日のランチメニュー」が提供できなくなってしまったよ。11/23
みんなで野球を楽しんでいたが、いつの間にか球が無くなってしまったのでみんな途方に暮れている。11/24
虫の居所が悪かったので、なんも悪いことをしていない子を怒鳴りつけてしまい、謝ろうとしたがとき既に遅く、またしてもおらっちは、人世で一番大切な心の平安を台無しにしてしまった。11/25
「残菊や凡人小事のうれしさよ」という句が誉められたので、「ああ珍しや、ひと様から誉められたのは何年ぶりだろう」と指を折って勘定しようとするのだが、1本も折れないのは一度も誉められたことがないからではないかと思うと、おちおち眠ってはいられない気持ちになったりするのだった。11/26
ロシアのプラハ大使館だか、チェコ大使館だかに出入りしている老人は、乗馬の名人という話だが、誰もその乗馬姿を見た者はいない。11/27
村の衆に悪さばかりしていたので、私は、とうとう検非違使連中にとっつかまって、裁判もなしに処刑されようとしている。11/28
弁護士が我われ共同相続人に説明している間に、彼女は死んでしまったので、その家系の全財産を、私が相続することになったのよ。11/29
私が頼まれた洋服のデザインが出来ないので困っていたら、おばあちゃんが、勝手に作って会社に届けたので、もっと困ってしまったずら。11/30
ヒトなんてあっと言う間に死んじまう体が知った3・11 蝶人