鎌倉ちょっと不思議な物語第475回&バガテル-そんな私のここだけの話第433回
13年前に亡くなった義母だが、じつはその数年前に1度死んでいる。
彼女がだんだん弱ってきて親戚一同が十二所の実家に集まってきた時のこと。急遽駆け付けた確かドクターゴンという診療所の若手医師が、おばあちゃんを忙しなくあれこれ診察し、さいごに脈を診るなり「ご臨終です」といってから、時計を見て「何時何分です」と宣告した。まるでテレビドラマのワンシーンのようだった。
その場には私ら夫婦を含めて6、7人が固唾をのんで見守っていたのだが、いきなりの臨終宣告に悲しみよりも驚きに圧倒されて呆然としていた。その時だった。従兄弟のリョウちゃん(具体的には私の妻の姉の次男)が、「おばあちゃん!おばあちゃん!」と大声で叫びながら彼女の上半身を2、3度ふさぶるような仕草をした。
すると見よ、奇跡が起こった!
死んだはずのおばあちゃんは、驚いたようにパッチリ目を覚ますと、何の騒ぎかとでも言いたげに、我々のほうを見たのである。
早すぎた死を宣告したくだんの医師が、死から生への一瞬の帰還を目の当たりにして、一転歓喜の場と化したその場から、看護師共々いつの間に姿を消したのはいうまでもない。
しかしながらもしもあの時、あの場に我らがリョウちゃんが不在で、咄嗟に勇気ある振舞いをする人物が一人もいなかったら(その可能性は大いにある)、おばあちゃんはいったいどうなっていただろうと時々思わずにはいられない。
その後しばらくしてから、くだんの医師は独立して長谷に立派な診療所を開き、妙に義理堅いおばあちゃんはその後も実際に死ぬまでその病院に通っていたのだが、臨終宣告をした医師と患者の間でどんなやり取りが交わされていたかを想像するといささかの感慨無しとしない。
義母が2度目の死を死んだ後、私たち家族は、毎週土曜日に図書館へ行くたびにその診察所の前を車で通り過ぎるのだが、けっこう繁盛しているようだ。
このたびは地球を潰すつもりでやるだろうともかく1回死んでいるから 蝶人