こんな気持ちでいられたら・・・一病理医の日々と生き方考え方

人生あっという間、私の時間もあと少し。
よりよく生きるにはどうしたらいい?

限界集落から出たモンスター(黄昏の街編) がんは何のためにがんになるのか?(スピンオフ)

2019年04月15日 | 料理・グルメ
85年前に造成された郊外の、かつてのニュータウン。歴史はそこそこ古い。一昔前だったらとっくにゴーストタウンとなっていても不思議ではない。さる大手デベロッパーの手によるもので、少々地盤が緩かったが、何とかこれまで住民皆力を合わせてやってきた。他のニュータウンと同様、住民が皆同世代というのがよかったことは言うまでもない。
街の大きな事件といえば、80年前に街はずれの岬の展望台に向かう橋が台風で流されてかけて復旧までのしばらくの間、展望台には遠回りしていくことになったことがある。それと、隣町から不良のグループが入ってきて、まだ若かった住民の何人かがそのグループに入ってしまったということもあった。不良や暴力団が平和なこの街を襲ってくることは、ほぼ毎年起こっていたことだけれど、住民は皆それらが去るのをじっと耐えた。それでもどうにもならない時には、同盟国に爆撃を頼むこともあった。
50年ほど前には街から出ていく若者が多かったが、そのうち何人かは成人して街の衛星都市を作ってくれてもいる。18年前のトンネル事故は深刻な被害を生んだがなんとか乗り切った。住民はみなもう思い残すことはないと考え始めている。このまま、静かに街の歴史が終わってくれたらいいと思っていた。
下山「この間、神田さんが亡くなったね。」
横路「ええ?あの人まだ若かったのではないの?」
下山「ああ、まだ40回だって」
横路「40回か、分裂数40回じゃあ、まだ若いな」
下山「ああ、最近は細胞分裂回数の限界も少しは伸びたっていう噂もあっただけにね。」
横路「やっぱり、平均分裂回数の50回は軽くクリアしたいね。どうすりゃいいんだろう。コエンザイムとか?」
下山「詳しいことはわからないけど、あれは、ミトコンドリア用じゃないのか?お前のところにもいるだろ?」
横路「ああ、ずいぶん頑張ってくれているよ。ミトコンドリアにはずいぶん助けてもらっている。彼らがいなかったら我が家もすぐにエネルギーが枯渇してやっていけないからな。だから、元気を出してもらうのがいいのかと思ったのだけど。」
下山「ミトコンドリアには助けてもらっているけど、彼らは彼らで何とかやっていくんじゃないのか?それより問題は分裂回数だよ。あんたはこれまで何回した?」

 

横路「僕はもうすぐ50回だ。」
下山「ええ?そうするとそろそろ。」
横路「そういうことだ。まあ、長生きしたいんだったら脳の神経細胞とか、心筋細胞、タコ足細胞みたいに、分裂回数を減らすしかないんだけど、あいつらは一発やられたらそれっきりだから、それはそれでどうかな。この前も、左室前壁がやられていただろう。」
下山「ああ、結構大変だったみたいだな。この辺りも低酸素で苦労した。」
横路「iPSを作って補充するといっても、技術的にはもう少し時間がかかるし。奇形腫になられても困るし。まあ、僕らのような細胞はそれはそれいいんじゃないのか。分裂して生まれ変わるとスッキリするし。じっとしているのもなんだし。それにしても、みんな年取ったな、あんただって、そろそろ50回じゃないのか?」
下山「はは、実はね、私は先月50回をすぎたんだ。テロメアもほとんど残っていないさ。」
横路「そうか、それは悪いことを聞いたな。」
下山「いや、これが自然の摂理だよ。この街に生まれてきてよかったし、この街も含めて世界が終わる頃に消えていくことができて幸せさ。」
横路「まあ、そうだな。僕だって、あんたと同じようなものさ。もしかするとこっちの方が先に逝っちまうかもしれない。遅かれ早かれ、この街ももうすぐ終わりだしね。」
下山「そうだな、まだまだ頑張っている人はたくさんいるけど、もうみんな限度が近づいてきているな。いわば限界集落。」
横路「もう、若いのも出てこないしね。この間、精巣でも次世代細胞の生産ラインをストップさせたらしい。」
下山「だろうな。そもそも使い道もなかったし、最近じゃあ歩留まりもずいぶん悪かったって聞いていたしな」
 
 
 
横路「ところで、最近沢田さんの様子が変だと思わない?」
下山「え?あのS状結腸の?なんだか、不死化の術を見つけるとかいって意気込んでいたけど、なにかみつけたのかな?」
横路「なにか、いやなことでも起こさなければいいけど。」
下山「まったくだ。おや、もうこんな時間だ。そろそろ食物が流れてくる頃だ。仕事に戻らなくちゃ、副交感神経にどやされちまうな。じゃあ、また。」
 
 
(つづく)

全3回

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