こんな気持ちでいられたら・・・一病理医の日々と生き方考え方

人生あっという間、私の時間もあと少し。
よりよく生きるにはどうしたらいい?

限界集落から出たモンスター(癌化編)がんは何のためにがんになるのか?(スピンオフ)

2019年04月16日 | 料理・グルメ

(昨日からのつづき)

下山「おい、沢田、一体そこでなにおかしな火山みたいなのを作っているんだ。それに、何だそいつらは?」

沢田「下山さんよ、悪いな。俺はあんたたちのように何もしないまま死んでいくなんてことはガマンできない。俺は俺で生きることにしたんだ。不死身となって外の世界に出ていくんだ。こいつらは俺のクローンだ。もう数千はいる。」

下山「おいおい、そんなことやめておけ、やがて自分の首を絞めることになるぞ。頭頸部のやつらだってあっというまに見つかって一網打尽にされたじゃないか。お前だって、もう立派なボルニだ、そんなんじゃすぐに内視鏡で見つかっちまうぞ。そもそもそんなことして、一体誰の得になるっていうんだ。」

沢田「ふん、そんなことあんたには関係のないことだろ。この限界集落と化した街をもう一度昔の活気ある街に戻すんだ。いや、この街だけでなくて、この世界すべてを元気にするんだ。そもそもこれまでに失敗した奴らと俺は違う。」

沢田の作戦は綿密だった。禁止されているテロメラーゼの独自合成に成功し、不死化能を獲得した。さらに、T細胞と不可侵条約を結んで、自分だけは攻撃してこないようにしたのだった。著しい増殖能に対応するための血液補給路も十分整備していた。

沢田「誰が何と言おうと、俺はこのまま黙って死んでいくなんて嫌なんだ。俺はもっと生き延びたいんだ。そのために不死化の技術を手に入れたし、T細胞とも手を結んだ。というか俺はもともとここの住民だ。ここで生まれてここで育ったんだ。T細胞の奴らだって俺のことが一方的に悪いとは考えていないんだ。」

下山「私たち細胞の寿命の限界分裂数は概ね50回って決まっているんだ。それを過ぎたらだんだんと年老いてやがて死ぬんだ。それが人間を支える私たち細胞の運命なんだ。運命を受け入れろ、沢田。テロメアを元に戻すんだ。」

沢田「ふざけるな!このまま、分裂回数に支配されて生きてなにが待っているっていうんだ。下山さんよ、あんたはこのまま黙ってこの街で消えるように死にたえろというのか!」

下山「ああ、そうだ。そんなに長生きしたかったんなら心筋細胞にでもなっときゃよかったじゃないか。」

沢田「ふん、胚盤胞になる頃には俺の運命は決まっていたんだ。それに心筋梗塞でこの間一気に大量死になって、いまじゃリハビリ中じゃないか。あんなに働きづめに働いて、動脈硬化なんて自分とは全然関係ないことで被害を受けるなんて全くやってられないね。」

下山「それはそれでしょうがない。心臓もあの時の一件でずいぶんへたってきているけど、それなりに頑張っている。最後の力を振り絞って動いているじゃないか。沢田、お前もあいつらのように自分の持ち場で最後まで働くんだ。癌になるなんて、やめておけ。」

 

沢田「いやだ、俺は癌細胞に生まれ変わって、この街から出ていく。心配するな下山さんよ、あんたら結腸の他の部位には迷惑をかけない。オペになっても、部分切除で終わるはずだ。そして、俺は、地下に潜る。」

下山「それって言うことは、遠隔転移。お前、MMP(マトリックスメタロプロテアーゼ)まで手に入れていたのか?」

沢田「そう。もう静脈侵襲は終わっている。」

下山「手遅れだったか。」

沢田「それにもう、肺に行った奴らの何人かはそれぞれ定着しつつある。もう、俺自身の手にも負えなくなっているんだ。」

下山「それでもな、沢田。そんなことしてもそいつらも結局見つかっちまう。放射線を当てられて終わりだぞ。そうしたらお前の苦労も水の泡じゃないか。」

沢田「はは、そんなことはとっくにわかっているさ。その代わりに、俺の遺志を継いだ何万という癌細胞がいろんなところで新しい”街”をつくってくれる。肺だけじゃない、肝臓でも、脳でも。そして、この国を再び若さに満ちた楽園に変えてくれるんだ。」

下山「沢田・・・お、おまえ、狂っている。モンスターだ。」

沢田「なんとでも言え、俺はもう、以前の俺じゃないんだ。」

 

(つづく)

明日、完結編

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