がんの病理診断をしていたら、”がんは何のためにがんになるのか?”という疑問が頭に急に浮かんだ。
がんがなぜ発生するのか、それまで正常に振舞っていた細胞がなぜがん化するのかということに関する研究、すなわち発がん研究というのはこれまでにたくさんされてきている。がん”研究”の専門家ではない私が知らないことはやまほどあるだろうから、この先の話に不備というのであれば助言してくださる方がいると助かる。
それはさておき、がん化すなわち発がんのメカニズムがわかれば、がんを未然に防ぐことが可能となる。最近ではがん化した細胞が暴れることを抑え込む方法もわかってきた。さらには、がん細胞がどうやって体の中で生き延びているのかということもくわしくわかってきている。そういうことの積み重ねで、多くの人をがんによる死から救うことが可能となりつつある。
がんにもいろいろあるからそれぞれのがんの発症メカニズムは異なる。単純に考えたら正常の組織の、そのうちのただ1個の細胞が、遺伝子異常を獲得してがん細胞となる。1個のがん細胞は次々と分裂し、巨大化していく。巨大化すなわち増殖するうちに様々な姿をとり、やがて、がん細胞は周囲組織へ浸潤し、血管を破壊し、リンパ管を破壊し、神経を蝕んで、そののちに肺や肝臓、脳などに転移して、自分の住処である人間を殺してしまう。
私たち病理医の仕事は、このあたりの診断を行うことだ。すなわち、生検やある時は細胞診などの最初のがんの病理診断で、そのがんが癌なのか肉腫なのかを判断する(癌と肉腫の違いについては超微形態学的診断に関する総論的事項2013年07月23日 をお読みください)。そして、それが癌だとすれば、病変を手術で切って、そのがんが乳癌として合致するか、大腸癌として合致するか、肺がんとして・・・、とそれぞれの臓器のがんとして合致するかを確認し、脈管侵襲の有無、リンパ節転移の有無をチェックして診断していく。この後もフォローアップとか再発診断などが行われるし、患者さんが亡くなったら病理解剖を行うこともある。
ということで、病理医は病理診断を行なって、ほぼ毎日がんの臓器、がん細胞と顔を突き合わせている。
で、ある日、顕微鏡のレンズの向こうにいるがん細胞が何を考えてこんな姿になったのかという疑問が湧いてきたのだ。
(つづく)
君たちはそこで何をやっているの?