(昨日のつづき)
がん患者をがん細胞に対する宿主、というのは正確な言い方ではないと思う。宿主というのは寄生生物が寄生する相手の生物のことであって、がん細胞の場合はもともとというか、最後まで自分の細胞なので、寄生しているわけではない。ウイルス感染に伴うがんなどはウイルスを寄生生物と考えたらそうでもないかもしれないが、基本的にがん細胞は自分自身である。そして、がんに対する治療を何もせずに放っておいたら、最終的にはその個体、担がん者を死に至らしめてしまう。
がん細胞にとって、これでは自殺行為ではないか。何のために、そんなことをするのか。何か理由があるはずだ。がん細胞はがんになりたくてなるのか、ほんとうはなりたくなかったのか、そこがわからない。
発癌のメカニズムにあまり興味がない病理医ががんの話をするのは、おこがましいことかもしれないが、なんで、がん細胞は、あんなに醜い姿をして、ものすごい勢いで増えて、周囲臓器に浸潤していくのだろうと思うのだ。がん細胞を見ると、それぞれの細胞の叫び、というか何かを語りたがっているのではないか、という気持ちになってしまった。
国民の二人に一人はがんになるといわれる時代。その理由は社会全体の高齢化が原因だ。私の勤務先でも、以前ならば症例報告もののような、高齢者の様々な手術検体が病理診断に頻繁に出てくるのをみてたびたび驚く。90歳を越えていても、大きな手術に挑戦する人は少なくない。80歳を過ぎるようになればがんが生じても何らおかしなことはない。だから、高齢化社会が続けばがん患者がどんどん増えていく。高齢者だけでみたら、がん患者は二人に一人どころでは済まないのではないか。というか、心筋梗塞、脳出血とか感染症がなければ最後はみんながんで死ぬのではないだろうかと思う。
老化に伴ってDNAに傷がついてがんが生じる、そのメカニズムにのっとれば高齢者に癌が多いのは頷けるのだが、果たしてそれだけなのだろうか。若い人に生じるがんも、何らかの傷がDNAについて生じたのだろう。小児がんの場合は、先天的な遺伝子異常が原因となることが知られている。この場合は一般的ながんとは、発症のメカニズムがちょっと違うから、今回は取り上げない。それにタバコが原因の肺とか舌など頭頸部の扁平上皮癌とか、ウイルス感染が原因である子宮頸癌とか発症メカニズムが明らかとなっているがんについては、今回は取り上げない。
(つづく)
防ぐことのできるがんは防ぎましょう