長時間労働 電通過労死で問われるのも① 働きすぎの「文化」が原因なのか 残業青天井の「36協定」
電通社員の過労自殺事件は、日本の長時間労働がいかに異常かを示しました。長時間労働の是正は政府も「働き方改革」の重要な課題としています。なぜ日本は長時間労働の国なのか、その原因と是正の方向を考えます。
(昆弘見)
「日本人は働きすぎだ」「どうして死ぬまで働くのか」。電通の女性新入社員の過労自殺が報じられたときの海外の反響です。
また電通の石井直社長は、同社が労働基準法違反の疑いで書類送検された昨年12月28日夜、記者会見で「企業風土の悪い面に手を打てていなかった」と語りました。
「働きすぎ文化」「企業風土」。過労死問題の背景として、これまでもこの議論がくりかえされてきました。
しかし過労死という深刻な問題を文化や風土だけの問題に解消するわけにはいきません。
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午後10時まで照明がともる電通本社ビル=東京都港区
残業の拒否は解雇の対象に
日本では、労働者が過酷な労働に追いやられている特別な事情があります。その典型が会社の残業命令を拒否した場合、懲戒解雇の対象になることです。実際にあった事例を紹介します。
1967年9月、日立製作所武蔵工場で、上司からの残業命令を拒否した労働者が出勤停止処分を受け、その後も反省の姿勢が見られないとして懲戒解雇された事件がおこっています。
労働者はこれを不当として裁判に訴えましたが、東京地裁は勝訴でしたが、東京高裁で敗訴。最高裁が1991年11月28日、労働者の訴えを退け、懲戒解雇を有効とした判決を出しました。
その理由は、労働基準法にもとついて「三六(サブロク)協定」が締結され労働基準監督署に届け出ていること、就業規則に「三六協定」の範囲で労働時間延長の規定がもりこまれていることをあげ、その内容が合理的である限り労働者は「時間外労働をする義務を負う」というものです。
法律上の体裁が整っている限り、労働者は会社の残業命令に「義務」として従わなければならず、拒否したら違法行為になって懲戒解雇される。これが最高裁の判決ですから重大です。現在の法律のもとでは、労働者は長時間労働からわが身を守る方法がないということです。
残業時間規制運動の発展を
問題は「三六協定」の仕組みです。
労働基準法は、「週40時間」「1日8時間」を超えて労働者を働かせてはならないと明記しています(32条)。これだけならヨーロッパ並みです。
ところが労使協定を結んで行政官庁に届ければ、労働時間を延長し、休日労働をさせることができるという別の規定があります。それが36条です。これにもとつく協定なので「三六協定」と呼びます。
これによって32条の規定は建前だけになって、実際は「三六協定」にもとつく残業込みの時間が労働時間になっています。
残業時間は、「大臣告示」で「週15時間」「月45時間」「年360時間」という限度基準がありますが、「特別条項」によって特別な事情があれば無制限に延長できます。
労働者はこういう仕組みで、残業が当たり前の長時間労働が義務とされ、残業を断れば解雇が待っているのです。文化や風土を論じる前に、この異常な法制度に目を向けた改善議論が必要です。
民進、共産、自由、社民の4野党が共同して「長時間労働規制法案」を国会に提出しています。残業時間の上限規制をめざしています。これを実現する国民運動の発展が期待されています。
(つづく、4回連載)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2017年1月12日付掲載
事実上、残業時間の上限の制限のないザル法になっている「三六協定」。ここを正さないといけません。
電通社員の過労自殺事件は、日本の長時間労働がいかに異常かを示しました。長時間労働の是正は政府も「働き方改革」の重要な課題としています。なぜ日本は長時間労働の国なのか、その原因と是正の方向を考えます。
(昆弘見)
「日本人は働きすぎだ」「どうして死ぬまで働くのか」。電通の女性新入社員の過労自殺が報じられたときの海外の反響です。
また電通の石井直社長は、同社が労働基準法違反の疑いで書類送検された昨年12月28日夜、記者会見で「企業風土の悪い面に手を打てていなかった」と語りました。
「働きすぎ文化」「企業風土」。過労死問題の背景として、これまでもこの議論がくりかえされてきました。
しかし過労死という深刻な問題を文化や風土だけの問題に解消するわけにはいきません。
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午後10時まで照明がともる電通本社ビル=東京都港区
残業の拒否は解雇の対象に
日本では、労働者が過酷な労働に追いやられている特別な事情があります。その典型が会社の残業命令を拒否した場合、懲戒解雇の対象になることです。実際にあった事例を紹介します。
1967年9月、日立製作所武蔵工場で、上司からの残業命令を拒否した労働者が出勤停止処分を受け、その後も反省の姿勢が見られないとして懲戒解雇された事件がおこっています。
労働者はこれを不当として裁判に訴えましたが、東京地裁は勝訴でしたが、東京高裁で敗訴。最高裁が1991年11月28日、労働者の訴えを退け、懲戒解雇を有効とした判決を出しました。
その理由は、労働基準法にもとついて「三六(サブロク)協定」が締結され労働基準監督署に届け出ていること、就業規則に「三六協定」の範囲で労働時間延長の規定がもりこまれていることをあげ、その内容が合理的である限り労働者は「時間外労働をする義務を負う」というものです。
法律上の体裁が整っている限り、労働者は会社の残業命令に「義務」として従わなければならず、拒否したら違法行為になって懲戒解雇される。これが最高裁の判決ですから重大です。現在の法律のもとでは、労働者は長時間労働からわが身を守る方法がないということです。
残業時間規制運動の発展を
問題は「三六協定」の仕組みです。
労働基準法は、「週40時間」「1日8時間」を超えて労働者を働かせてはならないと明記しています(32条)。これだけならヨーロッパ並みです。
ところが労使協定を結んで行政官庁に届ければ、労働時間を延長し、休日労働をさせることができるという別の規定があります。それが36条です。これにもとつく協定なので「三六協定」と呼びます。
これによって32条の規定は建前だけになって、実際は「三六協定」にもとつく残業込みの時間が労働時間になっています。
残業時間は、「大臣告示」で「週15時間」「月45時間」「年360時間」という限度基準がありますが、「特別条項」によって特別な事情があれば無制限に延長できます。
労働者はこういう仕組みで、残業が当たり前の長時間労働が義務とされ、残業を断れば解雇が待っているのです。文化や風土を論じる前に、この異常な法制度に目を向けた改善議論が必要です。
民進、共産、自由、社民の4野党が共同して「長時間労働規制法案」を国会に提出しています。残業時間の上限規制をめざしています。これを実現する国民運動の発展が期待されています。
(つづく、4回連載)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2017年1月12日付掲載
事実上、残業時間の上限の制限のないザル法になっている「三六協定」。ここを正さないといけません。