きんちゃんのぷらっとドライブ&写真撮影

「しんぶん赤旗」の記事を中心に、政治・経済・労働問題などを個人的に発信。
日本共産党兵庫県委員会で働いています。

軍事依存経済 宇宙編② 民間人を殺すドローン

2016-02-12 23:06:38 | 平和・憲法・歴史問題について
軍事依存経済 宇宙編② 民間人を殺すドローン

宇宙の軍事利用が世界に何をもたらすか。日本の軍事同盟国である米国が実例を示しています。
宇宙を利用した米国の戦争は近年、国際的な論争を呼び起こし、非難の的ともなっています。立命館大学の藤岡惇教授はそれを「新型戦争」と呼びます。
2014年3月11日、国連人権理事会で、無人機による民間人殺害の事例が報告されました(「テロ対策中の人権および基本的自由の保護に関する特別報告」)。

学校にミサイル
06年10月30日、精密誘導ミサイルが神学校を爆破しました。場所はパキスタンのバジャール部族特区。ミサイルを発射したのは米国の指揮下にある無人航空機(ドローン)とみられます。最大80人が即死。2人が重傷を負い、短時間のうちに病院で死にました。死者のうち69人は18歳以下の子どもであり、うち16人は13歳以下でした。目撃者によれば、犠牲者の大多数は神学校の生徒でした。戦闘と関係のない民間人だったのです。
09年6月23日、パキスタンの南ワジリスタンで営まれていた大規模な葬儀の会場を、精密誘導ミサイルが爆撃しました。攻撃したのは米国指揮下の無人機だとみられます。会葬者には反政府組織タリバンの活動家が含まれていた一方、かなりの数の民間人がいたと目撃者は証言しました。殺されたのは最大83人。10人の子どもと部族の長老4人が死にました。
11年10月31日、パキスタンの北ワジリスタンで精密誘導ミサイルが自動車と民家を爆撃し、4人を殺害しました。作戦を遂行したのは米国指揮下の無人機だとみられます。死者のうち2人はタリク・アジズとワヒード・ウラーという名の10代の若者と確認されました。所属するサッカーチームのメンバーと合流するために移動している最中に、攻撃を受けたのです。交友関係や活動に関する調査の結果は、2人が民間人だったことを強く示しています。他の2人の犠牲者の実像は不明です。
12年7月6日、パキスタンの北ワジリスタンにあるゾウィ・シッジ村を精密誘導ミサイルが爆撃しました。米国指揮下の無人機が発射したとみられます。最初のミサイルはテントに命中し、8人を殺しました。集まっていたのは一日の仕事を終えた労働者のグループでした。直後に2度目の攻撃がありました。合計18人が死亡し、22人が負傷しました。犠牲者の交友関係や活動に関する調査の結果は、殺された全員が民間人だったことを示しています。
以上はごく一部の事例です。



基地を離陸する米国の無人機プレデター(米空軍のホームページから)

7千人超す死者
英国のNPO「調査報道局」は米国の無人機攻撃の回数を集計しています。対象は02年以降、パキスタン、アフガニスタン、イエメン、ソマリアで行われた攻撃です。
同団体が把握したものだけでも、無人機攻撃は最大1021回に及び、7538人が死亡しています。死者のうち、民間人は最大1369人、子どもは281人にのぼっています(9日現在)。
「米国の新型戦争は『宇宙を拠点にしたネットワーク中心型戦争』になっている」と藤岡教授は話します。
人工衛星編隊を使って戦力をネットワークでつないでいる、という意味です。一つの表れが、戦場から遠く離れた安全な施設に自国兵士を潜ませたまま、衛星を介して無人機やミサイルを操り、「標的」に選んだ人物を殺害する「ドローン戦争」です。
安倍晋三政権が15年1月9日に決定した「第3次宇宙基本計画」は、「米国の要求をそのまま書いたもの」だと藤岡教授は指摘します。
「米国の新型戦争システムを支えるために、日本の資源や技術を総動員する計画です」
(つづく)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2016年2月10日付掲載


個人所有のドローン。公共施設や行政施設に降り立ち、騒ぎを起こしています。
でも、それは可愛い方。
中東では、ドローンこと無人攻撃機で民間人が誤爆による犠牲になっています。

「精密誘導ミサイル」と言いながら、テロとは関係のない神学校を爆撃。何が「精密」かと疑われます。

軍事依存経済 宇宙編① むしばまれる平和利用

2016-02-11 15:10:07 | 平和・憲法・歴史問題について
軍事依存経済 宇宙編① むしばまれる平和利用

長く平和目的に限定されてきた日本の宇宙開発がいま、急速に軍事色を強めています。安倍晋三政権が進める宇宙の軍事化によって岐路に立つ宇宙開発の実態を追います。
(佐久間亮、杉本恒如が担当します。11回連載の予定)

昨年12月に金星の周回軌道に入った宇宙航空研究開発機構(JAXA)の探査機「あかつき」の旅は、困難の連続でした。2010年5月の打ち上げ後、同年12月の軌道投入時に主エンジンが故障。探査機は軌道を大きく外れました。JAXAは本来軌道制御には使わない別のエンジンで軌道を修正し、5年越しの再挑戦で投入に成功したのです。
安倍首相は1月22日の施政方針演説で「あかつき」の姿を自らに重ね、「未来へ挑戦する国会」を訴えました。世界が注目する日本の宇宙技術。その裏で安倍政権は宇宙の軍事化を急いでいます。



金星探査機「あかつき」のイメージ(c) 池下章裕

日米同盟を強化
昨年1月に決定された「第3次宇宙基本計画」は、宇宙政策の目標の1番目に「宇宙安全保障の確保」を位置づけました。通信、情報収集などの宇宙システムを自衛隊の部隊運用に直接活用できるようにすることや、宇宙協力を通じた日米同盟の強化をうたっています。
JAXAも変質しています。JAXAの予算総額は統合前の旧宇宙3機関(宇宙開発事業団、航空宇宙研究所、宇宙科学研究所)の時代を含め、この20年間、2200億円前後で大きく変化していません。内実は軍事にむしばまれています。
1998年に情報収衛星(軍事スパイ衛星)の導入が閣議決定されて以来、JAXAの第2宇宙技術部門は情報収集衛星の開発を担当。年度ごとの開発費は決算ベースで300億~600億円に上ります。宇宙開発の平和部分が軍事に圧迫されています。
名古屋大学の池内了名誉教授は、「あかつき」や小惑星探査機「はやぶさ」のプロジェクトを手がけるJAXA内の宇宙科学研究所の業績が、「JAXA全体の軍事への関与を覆い隠す『宇宙開発の広告塔』の役割を担うようになっている」と語ります。

首相が直接指示
第3次計画には「安全保障」という言葉が61回登場。情報収集衛星の拡充など、大幅な宇宙の軍事化路線を打ち出しています。
「09年の第1次計画はさまざまなテーマを列挙しただけ。第2次計画でも安全保障はテーマの一つだった。今回は最初から最後まで安全保障だ」
際立つ軍事偏重に、ある安全保障関係者はそう戸惑いを口にします。「自衛隊はこれまで、宇宙を使わなくても国を守れるという建前でやってきた。宇宙を利用する人員も体制も無い。計画実現には巨大な予算が必要だ」
宇宙の軍事化の背景には、地球規模で自衛隊を展開させることを目指す安倍政権の意向があります。内閣府の小宮義則宇宙戦略室長は、14年7月の集団的自衛権の行使を容認する閣議決定後、第3次計画策定を安倍首相が直接指示したと明かしています。
「9月に宇宙開発戦略本部が開かれ、そこで安倍総理から、わが国の安全保障政策を十分に反映し、かつ、産業界の『投資の予見可能性』を高め宇宙産業基盤を強化するため、10年間の長期的・具体的整備計画として新たな『宇宙基本計画』を策定せよとのご指摘をいただきました」(『時評』15年5月号)
(つづく)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2016年2月9日付掲載


JAXAは、「はやぶさ2」や「あかつき」などの探査機の活躍の陰に隠れて、軍事開発に手を染めている。
憲法9条をもつ日本が、みずから宇宙の平和利用から逸脱する行為はやめるべき。

「経済の好循環」に背を向ける 経団連「経労委報告」を読む③ 内部留保 社会的活用を

2016-02-09 22:11:10 | 働く権利・賃金・雇用問題について
「経済の好循環」に背を向ける 経団連「経労委報告」を読む③ 内部留保 社会的活用を

労働総研顧問 牧野富夫さん

大企業は2年続けて史上最高の利益を上げへ内部留保がここ3年で38兆円も増え、ついに300兆円を超えました。労働者・労働組合などが内部留保の一部(数パーセント)を社会保障や賃上げに回すように要求していますが、企業はそうした要求に耳を貸さず、ひたすらその積み上げを増大させています。

無見識の総本山
利潤の極大化を本質とする個別企業・個別資本ならいざ知らず、企業とくに大企業・財界の総本山である経団連は、日本経済の全体を見渡し高い立場から物事を判断し個別企業を指南するなど総資本としての見識・矜持(きょうじ)を有する存在のはずです。
一般論ではなく、経団連は「報告」でも「経済の好循環」を強く求めています。そうであれば、大幅賃上げと社会保障の拡充という対策が待ったなしです。労働者の生活が直接賃金(企業などが支払う賃金)と間接賃金(社会保障などの公的サービス)の二つで支えられているからです。
ここを温めれば、必ず内需が増えます。内需が増えれば、企業の投資も増えます。投資が増えれば雇用も増え、賃金も増えるという「経済の好循環」が回りだすのは必定です。
このような好循環を予見して、経団連が傘下の企業その他に内部留保の活用を強いリーダーシップを発揮して呼びかけるべきです。それでこそ経団連です。そう思うだけに「報告」での言説には驚きを禁じえません。引用します。
「わが国企業全体の内部留保が増加していることを捉えて、それを原資とした賃金引上げを求める主張がある…企業経営者は、内部留保が持続的成長・競争力の強化に不可欠な『成長投資』のための貴重な原資であることを積極的に発信することで、内部留保をめぐる誤解を解くとともに、正しい理解を求める努力を一層行っていく必要がある」
これを読むと、膨大な内部留保を正当化したうえ、労働組合などが内部留保のすべてを賃金の引き上げなどに回せ、と要求しているかのようにゆがめています。そのような要求・提言をした労働組合や政党はありません。ありもしない要求を捏造(ねつぞう)し、それを口実に正当で控えめな要求を退ける経団連に財界の総本山としての役割を期待することはできません。
経団連が「報告」を公表した翌日(1月20日)、労働総研(労働運動総合研究所)が提言を発表しています。それは「これ以上内部留保を増やさないだけで月額5万9000円の賃上げが可能」というものです。
その提言は、安倍政権で悪化した生活を、それ以前に戻すには6・13%(1万9224円)の賃上げが必要だとして、それには内部留保を取り崩すまでもなく、これ以上内部留保を増やさない経営にするだけで、月5万9000円の賃上げが可能になると算定している。



経団連会館に向かいシュプレヒコールする16春闘闘争宣言行動の参加者=1月13日、東京都千代田区

新しい国民春闘
かたくなな経団連を相手に、内部留保の活用に関する交渉をしてもらちが明かないことがはっきりしました。いままさに春闘の真っただ中です。ここを舞台に、内部留保活用の一点共闘を起こし、これを市民運動としても発展させ、労働運動も参加していく、ということになれば「新しい国民春闘」の実質的なスタートになるでしょう。
「新しい国民春闘」は市民参加の文字通りの国民春闘なのです。ここに内部留保の活用を要求として掲げるとすれば、直接賃金でなく、社会保障・教育関連など間接賃金にウエイトをおくべきでしょう。
将来的に拡充すべきは直接賃金以上に間接賃金であること(労働力の再生産費の社会化)、また企業規模でも差が大きい内部留保の直接賃金への還元には困難が多いことからも間接賃金重点で追求すべきでしょう。
こうした問題はなおこれから深めるとして、異常なまでに積み上げられた内部留保の社会的活用の問題は、国民的なたたかいのテーマに十分なりうるはずですし、意識的に追求すべきです。頑迷な経団連や安倍政権を動かすことができるのは反戦争法で燃え上がっているような大きな社会的なパワーだと思います。
(おわり)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2016年2月6日付掲載


経団連が傘下の企業その他に内部留保の活用を強いリーダーシップを発揮して呼びかけるべき。
日本経済の全体を見渡し高い立場から物事を判断し個別企業を指南するなど総資本としての見識・矜持(きょうじ)を有する存在のはず。

そういう見方をしたことはありませんでしたが…。国民と労働者の闘いで、そうせざるをえないようにさせていきましょう。

「経済の好循環」に背を向ける 経団連「経労委報告」を読む② 賃金抑制策に怒りを

2016-02-07 09:41:38 | 働く権利・賃金・雇用問題について
「経済の好循環」に背を向ける 経団連「経労委報告」を読む② 賃金抑制策に怒りを

労働総研顧問 牧野富夫さん

いま大企業は史上最高の収益を上げ、空前の内部留保を積み上げています。にもかかわらず、その総本山である経団連は、今春闘でも賃金抑制策を指南しています。大もうけしながらの賃金抑制策なので、うそつきの冗舌と似て、わかりにくくなっています。

うその道具立て
賃金闘争は春闘の中心です。「報告」の賃金抑制策をトータルに診断しましょう。その基本・「哲学」は、日経連時代の「報告」と変わりません。変わったのは、基本を覆う道具立てです。16年の「報告」では、「デフレからの脱却」「経済の好循環」「企業の持続的成長」などが主な道具立てです。これらのスローガンに水戸黄門の印籠(いんろう)のような神通力を持たせようと懸命です。たとえば「デフレからの脱却」という印籠をみせ、労働側の要求を抑え込む、という寸法です。
労使協調主義の労働組合では、幹部がそれを受け売りして、労働者の要求を借り物の印籠で抑え込み、小さな自粛要求をつくる、というケースもめずらしくありません。
関連して一言したいのは、メディアの春闘報道です。経団連「報告」が公表された1月19日をもって春闘が始まったかのように報道していますが、事実に反します。春闘の大半は労使間の「考え方のたたかい」、つまりイデオロギー闘争です。それはすでに昨秋から本格化していました。「頭の中のたたかい」で経団連は政権やメディアなどを動員し、小さな春闘予想相場をつくりあげ、これを「国民的な常識」にまで仕立て上げるのです。この世論化された「小さな相場」に労働者・労働組合も影響を受けがちです。
労働側が春闘で勝利するには、イデオロギー闘争に勝たねばなりません。「頭の中のたたかい」で負け、萎縮した心でたたかっても勝ち目はありません。大企業が大もうけしているのに、その富のつくり手である労働者の賃金は実質的に下がり、厳しい生活をよぎなくされているではありませんか。思いきり怒りを企業・財界・政権にぶつけるときです。



「職場・地域から春闘を全力でたたかいぬこう」と決意しあった国民春闘総決起集会=1月26日、東京都中野区

手前勝手な主張
「経営側の基本スタンス」として「報告」は、3点あげています。
第1に、「賃金は…適切な総額人件費管理のもと、自社の支払能力に基づき、労使による真摯(しんし)な交渉・協議を経て、企業が決定することが原則」だとし、そのさい重視すべきは「デフレからの脱却と持続的な経済成長の実現に向け、経済の好循環を回すという社会的要請がある」というのです。
その前半部分は、財界の年来のいい分です。「総額人件費管理」や「自社の支払能力」なるものはゴムのモノサシのように弾力的で、どうにでもいい逃れができます。また、企業が賃金を決定するのが原則だと暴論を吐いています。
労働基準法第2条の「労働条件は、労働者と使用者が対等の立場において決定すべきものである」に公然と背を向けています。後半にずらりと「印籠」が登場し、それらは「社会的要請」だと「権威づけ」ています。
第2に、「賃金引上げの方法は、定期昇給の実施(賃金力ーブの維持)といった月例賃金の制度昇給はもとより、月例賃金の一律的な水準引上げ(全体的なベースアップ)に限られず、さまざまな選択肢が考えられる」と述べています。
賃上げの方法はベースアップ以外にもいろいろあるよといい、後腐れのない「その年かぎり」の賃上げへと傘下の企業などを誘導しているのです。
第3に、「賃金引上げには、自社の付加価値の増大が不可欠であることから、労使で絶えず労働生産性の向上に取り組んでいくことを改めて確認すべきである」としています。これは「パイの理論」そのものです。賃上げの前提として、まず労使が協力してパイを大きくすることが必要だとし、生産性の向上に労働者を誘い込み、労使協調主義を浸透させ、搾取強化をはかる、という寸法です。
以上のように、経団連などの賃金抑制の策動は前年秋には本格化し、「報告」が公表される1月中・下旬は春闘中盤と考えるべきでしょう。(つづく)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2016年2月5日付掲載


「デフレからの脱却」を本気で言うなら、労働者の賃金を上げるのが筋ですが…。
財界は、相も変わらず「総額人件費管理」や「自社の支払能力」という論理で賃金を抑え込もうとしています。


「経済の好循環」に背を向ける 経団連「経労委報告」を読む① 搾取強化のイデオロギー

2016-02-06 22:12:31 | 働く権利・賃金・雇用問題について
「経済の好循環」に背を向ける 経団連「経労委報告」を読む① 搾取強化のイデオロギー

経団連が1月19日に発表した、春闘の経営側指針である「経営労働政策特別委員会報告」について、労働運動総合研究所(労働総研)顧問の牧野富夫さんに分析を寄せてもらいました。

労働総研顧問 牧野富夫さん

先般、経団連の春闘方針=「経営労働政策特別委員会報告」(以下「報告」)が公表されました。副題は「人口減少下での経済の好循環と企業の持続的成長の実現」となっています。人口減少という厳しい情勢下で、なんとしても「経済の好循環」を回し、企業の持続的成長を実現させたい、これが副題の含意でしょう。

政財の蜜月時代
安倍政権の「新3本の矢」の一つである「GDP600兆円」が、その先に想定されていることは、つぎの経団連会長の発言からも明らかです。
経団連の榊原定征会長は「報告」の序文で、「政府が達成しようとしている日本の将来の姿は、経団連ビジョン(「『豊かで活力ある日本』の再生」2015年1月1日発表)で提示した、2030年までに目指すべき国家像と多くの面で一致して(いる)」と述べています。安倍政権の「新3本の矢」は、基本的に経団連ビジョンのコピーですから、それを経団連が高く評価すると自画自賛になってしまいます。
「報告」は3章構成です。第1章のタイトルは「多様な人材の活躍と働き方改革によるイノベーションの創出」です。安倍政権の「1億総活躍社会」と重なります。企業を成長させるには労働力の「量」と「質」の両面からの確保・維持が不可欠だとして、女性・若者・高齢者・障害者・外国人など「多様な人材の活躍推進」が不可欠だとされています。戦時下の「国家総動員法」を想起させます。
第2章は「雇用・労働における政策的な課題」です。「働き方・休み方の改革推進」に役立つ労働基準法「改正」案や、「改正」労働者派遣法への対応が示されています。残業代ゼロ制度導入をにらんで、「労働時間と成果とが必ずしも比例しない仕事が増加するなか、労働時間に比例して成果も上がる労働を前提とした現行の労働時間規制に替わる新たな仕組みが求められている」としています。いずれも「生産性向上の基盤整備」に収斂(しゅうれん)する問題です。
第3章は「2016年春季労使交渉・協議に対する経営側の基本姿勢」であり、「労使パートナーシップ対話」促進の重要性が強調されています。この章のテーマは春闘賃上げですから、次回(中)、くわしく論評します。

「パイの理論」で
以上からこの「報告」は、「GDP600兆円」という経団連と安倍政権の「共同目標」を展望し、「経済の好循環」と「企業の持続的成長」を実現するには今春闘で何をなすべきか、という中長期の視点で作成されていると読み取れます。そうであっても、基本=「哲学」は日経連時代の「報告」いらい一貫しています。ベースに「パイの理論」が鎮座しています。
この「理論」は、労使が協調して生産性を上げれば、パイ(付加価値)が大きくなり、パイの労使への分配も増え、労使ウイン-ウインの関係となる、というものです。ゆえに、この「理論」は生産性向上に貢献し、労使協調主義を培養し、搾取強化に役立つイデオロギーです。
この「理論」は、労使がたたかうこと=春闘は生産性向上に有害なもの・阻害要因として排除されます。ですから、「報告」に春闘という表現・言葉は一つもありません。すべて「春季労使交渉・協議」と言い換えられています。言葉を忌避しているだけではありません。経団連は、たたかう労働組合・ナショナルセンターも忌避し、忌み嫌います。忌避されるのはまともな労働組合の証しであり、名誉なことです。
ふり返って、労働者・労働組合がストをかまえ意気高くたたかっていた時代には春闘で大幅賃上げが続きました。労働運動の一潮流が財界と仲良くなってからは「管理春闘」が支配し、労働側の連敗が続いています。歴史の教えは明快です。(つづく、3回連載)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2016年2月4日付掲載


「多様な人材の活躍と働き方」と聞くと良い様に聞こえますが、要は派遣労働と高齢者などの安価な労働力の活用。
そして、現役労働者には、昔ながらの「パイの理論」で賃金の押さえつけ。