「特定秘密」とは何だろうか。「その漏えいが我が国の安全保障に著しく支障を与えるおそれがあるため、特に秘匿することが必要であるもの」だとされる。(日弁連のサイトから。)その「特定秘密」を保護する法律がないと、漏えい事件が起きやすくなるという。それでは、「我が国の安全保障に著しい支障」が今までに何回も起きているんだろうか?
政府は重大な秘密漏えいは過去15年間に5回あったと説明しているという。(東京新聞11月9日付朝刊)その5件は、最高でも懲役1年、3件は起訴猶予だった。以下に列挙すると、
①2000年 ボガチョンコフ事件
海上自衛隊三佐がロシア大使館の海軍武官に資料提供(懲役10月)
②2007年 イージスシステムの情報漏えい
海上自衛隊三佐が別の三佐にデータを送付(懲役2年6月、執行猶予4年)
③2008年 内閣情報調査室職員の情報漏えい
内調職員がロシア大使館書記官に情報提供(起訴猶予)
④2008年 中国潜水艦の動向の情報漏えい
防衛庁情報本部の一佐が記者に口頭で伝達(起訴猶予)
⑤2010年 尖閣沖漁船衝突事件の情報漏えい
海上保安官が捜査資料のビデオ映像をインターネットに流出(起訴猶予)
このうち、⑤の尖閣沖衝突事件のビデオ流出以外を覚えている人はいるだろうか。しかも、この尖閣沖衝突事件のビデオ映像は「特定秘密」には当たらない。安倍内閣はそのように政府見解をまとめ、10月30日には菅官房長官も認めている。ロシアや中国がらみの事件が起きてはいるが、起訴猶予になる場合もある。一番重大とされるのは、2000年の①ボガチョンコフ事件だけど、だれか覚えてる人はいるか?これが流出した結果、「我が国の安全に著しい支障」があったのか。それなら国民皆が覚えていてもよさそうなもんだが。少なくとも僕はこの不思議な名前のロシア人(だろうけど)に全く記憶がない。
しかし、この何十年かの間に「我が国の『国民』の安全保障に著しい支障」が出たケースはいくつもあった。「国」ではなく「国民」にである。それはごく最近にもあった。伊豆大島で。1995年には、大地震とカルト宗教教団により、「国民の安全」は大きく揺らいだ。2011年には、大津波と原発事故により、「国民の安全」は著しく揺らいだ。今も揺らいでいる。地震や台風はまた必ず日本を襲う。しかし、原発や宗教教団は人間が作ったものだから、人間によって危険を防止することができるはずである。今の日本では、「次の大地震」と「原発をどうするか」かこそが、「我が国の安全保障」にもっとも重大な意味を持っているのではないか。外交や防衛の秘密がどうのこうのと議論していること自体が、ことの軽重を間違えている。
もう一つ、重大な問題がある。世界の経済は緊密な相互依存を深めていて、直接的な「外交」「防衛」が「安全保障」に占める割合が低くなっている。経済指標の大部分は公開されているので、世界情勢の相当部分は公開情報をどう読むかにかかっている。しかし、それでも重大な影響を及ぼす国の経済政策がどうなるかは、世界の最も大きな関心事である。今ならば、米国FRB(連邦準備制度理事会)が金融緩和政策を変更するかどうか、である。その他、米国の経済指標(失業率や小売売上高、鉱工業生産、住宅販売件数などなど)も重要な意味がある。それらの発表により、ウォール街の株式が上がったり下がったりする。(それは単に「良ければ上がり、悪ければ下がる」というだけのものではない。良くても「予想より低かった」として下がることもあり、悪くても「織り込み済み」として下がらないこともある。)米国の株式市場はかなりの割合で、東京市場に連動してくる。
だから、僕なら日本や外国の外交、防衛情報よりも、もし何かスパイできて秘密を知ることができるんだったら、アメリカの経済指標を公表前に知りたい。しかし、いくらアメリカ経済が順調に回復しつつあると言っても、こんどまた来年2月に「債務不履行(デフォルト)」が本当に起こってしまったら、どうなるのか。日本や世界経済に測り知れない悪影響を与えるだろう。それには、ホワイトハウスの情報分析だけでなく、共和党内のティーパーティグループの動向を正確につかんでおくことが必要である。もし、デフォルトが本当に起きたら一時的にせよ株の暴落は避けられないだろう。だが事前に知っていれば、売ってしまうなり空売りするなりの対応を取れる。これは日本の経済政策にも同様に言えることである。日銀の金融緩和政策がどれほど証券市場に影響を与えたかを思い出せば判るだろう。今の日本にとって、経済情報を防衛することの方が、実際には大きな意味があるのではないか。
このように、「我が国の安全保障」を考えるときに、この「特定秘密保護法」なるものが実にトンチンカンな「軍事偏重」の産物かがよく判ると思う。もう一つ、日本に関する重大な「秘密」がある。日本は2007年から2013年まで、毎年総理大臣が変わった。2007年の第一次安倍内閣の突然の総辞職からすべては始まった。これは後で説明されたところでは、「安倍首相の病気」が理由であった。その病気は実は難病指定されるようなものだったが、良い薬が入手できるようになり、今は全く心配ないということだった。去年暮れの総選挙ではそう説明され、今年になって外国訪問を繰り返しているから、確かに健康状態には今のところ問題ないのかと思う。自民党の総裁は1期3年、2回までだから、最長で安倍政権は2018年秋まで続く。今のところ安倍政権は盤石に見えるが、健康状態が崩れるということは本当にないのか。米中ロなどが一番知りたい「日本の秘密」は首相の健康問題だろう。日本に取り、真に重大な「秘密」とは、実はそういう問題なのである。
政府は重大な秘密漏えいは過去15年間に5回あったと説明しているという。(東京新聞11月9日付朝刊)その5件は、最高でも懲役1年、3件は起訴猶予だった。以下に列挙すると、
①2000年 ボガチョンコフ事件
海上自衛隊三佐がロシア大使館の海軍武官に資料提供(懲役10月)
②2007年 イージスシステムの情報漏えい
海上自衛隊三佐が別の三佐にデータを送付(懲役2年6月、執行猶予4年)
③2008年 内閣情報調査室職員の情報漏えい
内調職員がロシア大使館書記官に情報提供(起訴猶予)
④2008年 中国潜水艦の動向の情報漏えい
防衛庁情報本部の一佐が記者に口頭で伝達(起訴猶予)
⑤2010年 尖閣沖漁船衝突事件の情報漏えい
海上保安官が捜査資料のビデオ映像をインターネットに流出(起訴猶予)
このうち、⑤の尖閣沖衝突事件のビデオ流出以外を覚えている人はいるだろうか。しかも、この尖閣沖衝突事件のビデオ映像は「特定秘密」には当たらない。安倍内閣はそのように政府見解をまとめ、10月30日には菅官房長官も認めている。ロシアや中国がらみの事件が起きてはいるが、起訴猶予になる場合もある。一番重大とされるのは、2000年の①ボガチョンコフ事件だけど、だれか覚えてる人はいるか?これが流出した結果、「我が国の安全に著しい支障」があったのか。それなら国民皆が覚えていてもよさそうなもんだが。少なくとも僕はこの不思議な名前のロシア人(だろうけど)に全く記憶がない。
しかし、この何十年かの間に「我が国の『国民』の安全保障に著しい支障」が出たケースはいくつもあった。「国」ではなく「国民」にである。それはごく最近にもあった。伊豆大島で。1995年には、大地震とカルト宗教教団により、「国民の安全」は大きく揺らいだ。2011年には、大津波と原発事故により、「国民の安全」は著しく揺らいだ。今も揺らいでいる。地震や台風はまた必ず日本を襲う。しかし、原発や宗教教団は人間が作ったものだから、人間によって危険を防止することができるはずである。今の日本では、「次の大地震」と「原発をどうするか」かこそが、「我が国の安全保障」にもっとも重大な意味を持っているのではないか。外交や防衛の秘密がどうのこうのと議論していること自体が、ことの軽重を間違えている。
もう一つ、重大な問題がある。世界の経済は緊密な相互依存を深めていて、直接的な「外交」「防衛」が「安全保障」に占める割合が低くなっている。経済指標の大部分は公開されているので、世界情勢の相当部分は公開情報をどう読むかにかかっている。しかし、それでも重大な影響を及ぼす国の経済政策がどうなるかは、世界の最も大きな関心事である。今ならば、米国FRB(連邦準備制度理事会)が金融緩和政策を変更するかどうか、である。その他、米国の経済指標(失業率や小売売上高、鉱工業生産、住宅販売件数などなど)も重要な意味がある。それらの発表により、ウォール街の株式が上がったり下がったりする。(それは単に「良ければ上がり、悪ければ下がる」というだけのものではない。良くても「予想より低かった」として下がることもあり、悪くても「織り込み済み」として下がらないこともある。)米国の株式市場はかなりの割合で、東京市場に連動してくる。
だから、僕なら日本や外国の外交、防衛情報よりも、もし何かスパイできて秘密を知ることができるんだったら、アメリカの経済指標を公表前に知りたい。しかし、いくらアメリカ経済が順調に回復しつつあると言っても、こんどまた来年2月に「債務不履行(デフォルト)」が本当に起こってしまったら、どうなるのか。日本や世界経済に測り知れない悪影響を与えるだろう。それには、ホワイトハウスの情報分析だけでなく、共和党内のティーパーティグループの動向を正確につかんでおくことが必要である。もし、デフォルトが本当に起きたら一時的にせよ株の暴落は避けられないだろう。だが事前に知っていれば、売ってしまうなり空売りするなりの対応を取れる。これは日本の経済政策にも同様に言えることである。日銀の金融緩和政策がどれほど証券市場に影響を与えたかを思い出せば判るだろう。今の日本にとって、経済情報を防衛することの方が、実際には大きな意味があるのではないか。
このように、「我が国の安全保障」を考えるときに、この「特定秘密保護法」なるものが実にトンチンカンな「軍事偏重」の産物かがよく判ると思う。もう一つ、日本に関する重大な「秘密」がある。日本は2007年から2013年まで、毎年総理大臣が変わった。2007年の第一次安倍内閣の突然の総辞職からすべては始まった。これは後で説明されたところでは、「安倍首相の病気」が理由であった。その病気は実は難病指定されるようなものだったが、良い薬が入手できるようになり、今は全く心配ないということだった。去年暮れの総選挙ではそう説明され、今年になって外国訪問を繰り返しているから、確かに健康状態には今のところ問題ないのかと思う。自民党の総裁は1期3年、2回までだから、最長で安倍政権は2018年秋まで続く。今のところ安倍政権は盤石に見えるが、健康状態が崩れるということは本当にないのか。米中ロなどが一番知りたい「日本の秘密」は首相の健康問題だろう。日本に取り、真に重大な「秘密」とは、実はそういう問題なのである。