国立フィルムセンターで行われている「チェコの映画ポスター展」を12日に見た。非常に面白かったので、その日に紹介記事を書きたいと書いておいた。特定秘密保護法案の記事で遅くなったけど、12月1日までなので紹介しておきたい。

僕が紹介するのは、この展覧会の面白さを多分多くの人がまだ知らないのではないかと思うからだ。8月28日からやってるけど、映画や美術、あるいはチェコ文化に関心がある人でも見てない人がほとんどだろう。その理由の一つは、場所が映画上映が中心のフィルムセンターの7階にある展示室だからだろう。そこは実質は「日本映画博物館」で、日本の映画の歴史、貴重な映画のビデオ上映、映写機材、脚本やポスターなど映画史の展示を行っている。とても面白い博物館で、映画ファンなら一度は行っておきたい場所だ。その展示室の最後に特別企画コーナーがあり、このポスター展をやっている。そこでは年間3回程度の企画展示を行い、前回はスチル写真展、次は「小津映画の図像学」である。
入場料は200円だけど、上映がある日の映画半券を見せると100円になる。(大学生、シニアは70円のところが、40円。高校生、障害者無料。映画上映は3時と7時だが、展示室は6時で閉まるので、午後3時上映を見た場合しか意味がないが。)フィルムセンターの上映は、会場の改修で8月から10月いっぱいまで中止されていた。僕が12日に見たのは、その日の3時の回の上映を見たからなのである。常設展示は何度も見てるから、最近は大体いつも軽く通り過ぎる。チェコやチェコ映画に関心はかなりあるのだが、常設展示は見なくてもいいので、上映再開まで見に行かなかったわけである。
それはまた、展示内容に誤解があったのである。それは「チェコ映画のポスター」展と思い込んでいたのである。チェコ映画は僕は20本くらい見てるのではないかと思う。それでもチェコの映画だけかなと思うと、見なくてもいいような気がしてしまう。チェコは戦後長くソ連圏にあり、1968年の「プラハの春」の悲劇を経て、1989年の「ビロード革命」で民主化されるまで長く苦難の時代が続いた。今国立近代美術館でやってる写真家クーデルカ、東京五輪の女子体操金メダルのチャスラフスカなどの記事を以前に書いたことがある。
映画では、後にハリウッドに行き「アマデウス」を監督するミロス・フォアマン、チェコに居続け困難な中で映画製作をつづけたイジー・メンツェルなどの監督を生んだ。しかし、それ以上に有名なのは、チェコアニメの素晴らしさで、カレル・ゼマン、イジー・トルンカなどの巨匠がいる。今回の展示ではそれらのチェコの名匠の映画ポスターもある。それらはとても興味深い。しかし、チェコ映画より興味深いポスターがいっぱいあったのである。「チェコ」の「映画ポスター展」なのである。例えば次のポスターは何の映画だと思うだろうか。

何と前者は黒澤明監督の「羅生門」である。後者は羽仁進監督の1965年公開「ブワナ・トシの歌」。東アフリカに研究で赴いた日本人をドキュメンタリー的に描いた作品で、主演は渥美清。渥美清の顔と牛が発想のもとにあるイメージかと思うと、実に面白い。「羅生門」も、日本人なら三船敏郎、黒澤明、芥川龍之介などの顔がすぐに浮かんでくるので、ここまでシンプルなポスターは作らないだろう。これは日本映画にインスパイアされた「現代美術」と呼んだ方がいい。では、次。

最後は画像と字から判る人もいるだろう。「ターミネーター」である。でも、前の二つは難しい。前者はフェリーニの「甘い生活」、真ん中はゴダールの「女は女である」。実に面白いポスターだと思う。そもそもこの展覧会のポスターに使われている「髪の毛に覆われた女」、これは何の映画かと言えば、ロベール・ブレッソンの「やさしい女」という作品。ドストエフスキーの原作だけど、映画や原作を超えた素晴らしい幻想画だと思う。(もっとも映画は見ていないが。)
このように、この展覧会はチェコ映画の展示ではなく、映画を発想のもとにした素晴らしい現代美術、ポスターの展覧会なのである。日本映画ももっとたくさんある。「ゴジラ」「切腹」「怪談」など、50年代、60年代の作品がほとんど。世界映画も「シェルブールの雨傘」「イージーライダー」などあっと思うような作品である。映画に詳しい人なら、ポスターを見て映画題名を当てる一人ゲームを楽しめる。日本の60年代には、ATGの映画や寺山修司、唐十郎などの演劇のポスターに、今見ても素晴らしい熱気を感じる作品が多い。同時代のチェコでも同じような熱気があふれ、多分それは「プラハの春」につながる地下水となったのではないか。これらのポスターを作っていた人の思いを深く感じる展覧会だと思う。是非、映画にもチェコにもあまり関心がない人にも、絵やイラストが好きな人には見逃せない企画。


僕が紹介するのは、この展覧会の面白さを多分多くの人がまだ知らないのではないかと思うからだ。8月28日からやってるけど、映画や美術、あるいはチェコ文化に関心がある人でも見てない人がほとんどだろう。その理由の一つは、場所が映画上映が中心のフィルムセンターの7階にある展示室だからだろう。そこは実質は「日本映画博物館」で、日本の映画の歴史、貴重な映画のビデオ上映、映写機材、脚本やポスターなど映画史の展示を行っている。とても面白い博物館で、映画ファンなら一度は行っておきたい場所だ。その展示室の最後に特別企画コーナーがあり、このポスター展をやっている。そこでは年間3回程度の企画展示を行い、前回はスチル写真展、次は「小津映画の図像学」である。
入場料は200円だけど、上映がある日の映画半券を見せると100円になる。(大学生、シニアは70円のところが、40円。高校生、障害者無料。映画上映は3時と7時だが、展示室は6時で閉まるので、午後3時上映を見た場合しか意味がないが。)フィルムセンターの上映は、会場の改修で8月から10月いっぱいまで中止されていた。僕が12日に見たのは、その日の3時の回の上映を見たからなのである。常設展示は何度も見てるから、最近は大体いつも軽く通り過ぎる。チェコやチェコ映画に関心はかなりあるのだが、常設展示は見なくてもいいので、上映再開まで見に行かなかったわけである。
それはまた、展示内容に誤解があったのである。それは「チェコ映画のポスター」展と思い込んでいたのである。チェコ映画は僕は20本くらい見てるのではないかと思う。それでもチェコの映画だけかなと思うと、見なくてもいいような気がしてしまう。チェコは戦後長くソ連圏にあり、1968年の「プラハの春」の悲劇を経て、1989年の「ビロード革命」で民主化されるまで長く苦難の時代が続いた。今国立近代美術館でやってる写真家クーデルカ、東京五輪の女子体操金メダルのチャスラフスカなどの記事を以前に書いたことがある。
映画では、後にハリウッドに行き「アマデウス」を監督するミロス・フォアマン、チェコに居続け困難な中で映画製作をつづけたイジー・メンツェルなどの監督を生んだ。しかし、それ以上に有名なのは、チェコアニメの素晴らしさで、カレル・ゼマン、イジー・トルンカなどの巨匠がいる。今回の展示ではそれらのチェコの名匠の映画ポスターもある。それらはとても興味深い。しかし、チェコ映画より興味深いポスターがいっぱいあったのである。「チェコ」の「映画ポスター展」なのである。例えば次のポスターは何の映画だと思うだろうか。


何と前者は黒澤明監督の「羅生門」である。後者は羽仁進監督の1965年公開「ブワナ・トシの歌」。東アフリカに研究で赴いた日本人をドキュメンタリー的に描いた作品で、主演は渥美清。渥美清の顔と牛が発想のもとにあるイメージかと思うと、実に面白い。「羅生門」も、日本人なら三船敏郎、黒澤明、芥川龍之介などの顔がすぐに浮かんでくるので、ここまでシンプルなポスターは作らないだろう。これは日本映画にインスパイアされた「現代美術」と呼んだ方がいい。では、次。



最後は画像と字から判る人もいるだろう。「ターミネーター」である。でも、前の二つは難しい。前者はフェリーニの「甘い生活」、真ん中はゴダールの「女は女である」。実に面白いポスターだと思う。そもそもこの展覧会のポスターに使われている「髪の毛に覆われた女」、これは何の映画かと言えば、ロベール・ブレッソンの「やさしい女」という作品。ドストエフスキーの原作だけど、映画や原作を超えた素晴らしい幻想画だと思う。(もっとも映画は見ていないが。)
このように、この展覧会はチェコ映画の展示ではなく、映画を発想のもとにした素晴らしい現代美術、ポスターの展覧会なのである。日本映画ももっとたくさんある。「ゴジラ」「切腹」「怪談」など、50年代、60年代の作品がほとんど。世界映画も「シェルブールの雨傘」「イージーライダー」などあっと思うような作品である。映画に詳しい人なら、ポスターを見て映画題名を当てる一人ゲームを楽しめる。日本の60年代には、ATGの映画や寺山修司、唐十郎などの演劇のポスターに、今見ても素晴らしい熱気を感じる作品が多い。同時代のチェコでも同じような熱気があふれ、多分それは「プラハの春」につながる地下水となったのではないか。これらのポスターを作っていた人の思いを深く感じる展覧会だと思う。是非、映画にもチェコにもあまり関心がない人にも、絵やイラストが好きな人には見逃せない企画。