尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

中棚荘と花屋旅館-東信旅行④

2013年11月24日 00時07分05秒 |  〃 (温泉)
 最後に泊った宿の話。1日目は小諸の中棚荘、2日目は別所温泉の花屋旅館。どちらも「大正ロマン」風のレトロな造りと文化の香りで全国的に有名な宿である。どちらも一度行きたいと思っていたところで、やっと初めての宿泊。助成を使えたので、久しぶりに「いい宿」に泊った。

 小諸は山の方にいい宿があり、今まで市内は通り過ぎてしまった。山へ登ると、高峰温泉という日本最高級の露天風呂がある標高2千メートルの秘湯がある。夜は天体観測ができるし、タヌキが訪れるという自然に親しむ宿。また、鉄分の色がすごい天狗温泉浅間山荘という浅間登山口の温泉がある。中棚荘は小諸城址の片隅、地名で言えば「小諸市古城」にある一軒宿。中棚温泉は、昔は鉱泉と言っていたように、温度が低く加温している。中の風呂は循環併用だが、露天は掛け流し。風呂が遠いけど、長い通路を上っていくと冬季のみリンゴを浮かべた「初恋りんご風呂」。
 
 なんで「初恋」かと言えば、ここは「藤村ゆかりの宿」なのである。島崎藤村、というより彼を小諸に招いた小諸義塾の木村熊二が見つけた鉱泉がもとで、藤村も泊った。僕が泊った部屋の真ん前が「藤村の間」だった。ロビーには藤村の本を集めたコーナーもある。藤村の詩「初恋」(まだあげ初めし前髪の 林檎のもとに見えしとき…)の書き出しは、読んでなくてもどこかで聞いたことがあるのではないか。ということで、「初恋」が発表された日の「10月30日」が「初恋の日」ということに、中棚荘申請で日本記念日協会が認定している。「初恋はがき大賞」なんてのもやっている。藤村などが集った「水明楼」という建物が宿のすぐ近くに現存している。木村熊二の建てたものである。次の日に訪れたが、建物が多くなり千曲川がよく見えないのが残念。
   
 僕が泊ったのは、大正館という古い所で、トイレや風呂が部屋に欲しければ平成館もある。でもレトロ感を味わえる大正館で十分。今回は2階に泊った。でも駐車場からフロントが遠く、さらに部屋までは一端建物を出て大正館へ、さらに風呂へ行くには平成館に戻って大分歩いて行く。雨や真冬だとつらいかな。今回もかなり寒かった。まあ、そういうのも込みで、文学的香気を味わう旅情と思えるかどうかで、そこが日本の温泉旅館の楽しみ方だろう。部屋や建物はかなりレトロ趣味。
   
 今はどこもいい食事を出すけど、ここは中でも美味しかった。「浅間嶽」の大吟醸がものすごく上等でうまかった。夕食は「はりこし荘」という食事処だったが、どこ行くにも移動が大変。朝食は大正館で取ったけど、山羊乳かリンゴジュースが選べるという。山羊乳にしたけど、クセもなく美味しい。昨日、車で宿に入った時、長い坂道の最初にまず山羊が目に入った。へえと思ったけど、ホントに山羊乳が出るとは。出る前に庭を散歩すると、案外奥が深く、そこに山羊の家が。池にはカモもいる。玄関近くには犬もいる。名前は「チビ」。予約すれば散歩に行けるという。そういう個性豊かな宿で、オリジナルのワインやはちみつなど自家製のお土産も多い。一度は行きたいおすすめの宿。
   
 次の日の別所温泉はいろいろ泊まり歩き、今度は花屋。この宿は完全にレトロな風情(「大正浪漫」)で売ってる。宿を歩くだけで楽しい。どこ行くにも外に面した回廊を通るから、今からの季節は寒いけど。
   
 風呂は大理石風呂若草風呂(伊豆の若草石というのを使ってる)を朝夕で男女別に。他に露天風呂。この大理石風呂(男は夜10時まで)が素晴らしい。入り口は二つあるが、脱衣所は一緒。だけど風呂はまた二部屋になる。片方は風呂が二つあり、もう片方は一つ。という不思議な造りで、昔はここだけだったんだろうなと思う。全部源泉掛け流し。露天風呂が外の廊下をかなり歩くので、遠いのが難だけど。
   
 ここは動物はいないけど、建物や庭の風情を楽しむ宿。こういうところに若い時にグループで一度行く、あるいは夫婦で少しゆとりができると行ってみる体験が日本文化には必要だと思う。日本の温泉宿は、近くにある国宝めぐりや文学散歩などに必須のセットで、日本文化そのものだと思う。自然散策や秘湯の宿もいいけど、今回は文化の旅ということで。浅間が望める風景がどこでも心に残る。最後に部屋から見た風景を少し。後の2枚は、朝になって部屋から外を、点灯、消灯で撮ってみた。
  
コメント
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