ポーランドの巨匠、イエジー・スコリモフスキ(1938~)の新作、「イレブン・ミニッツ」が公開中。映画の話題もたくさんあるので、続けて書いてしまう。これはあっと驚く仕掛けの映画で、こういうのを思いついたから作ってしまおうという78歳の監督の若さが凄い。一体成功しているんだかどうかは判断が難しいけど、こういう怪作は見ておきたいという向きには見逃せない。

映画に限らず、演劇や小説など「物語」系では、大体「ある程度のまとまった時間」が描かれる。そうじゃないと、人間や社会の深さをじっくり追及できない。男と女が出会って、それで終わりっていう映画じゃ、誰も満足できない。「その後」が知りたいだろ。映画では、むしろ「長い時間」をいかにうまく処理するか、時間を行ったり来たりしたり、画面が暗くなっていく(フェイド・アウト)など、様々な時間処理法が開発されてきた。でも、「イレブン・ミニッツ」では、ある日の「5時から5時11分」までのたった11分しか描かれない。題名の由来である。
時間の「同時進行映画」だったら結構ある。アニェス・ヴァルダ監督の「5時から7時までのクレオ」という映画では、名前の通り5時から7時までの時間が描かれている。そういうのは前にもあったけど、たった11分しか映画内で時間が進行しないというのは、あっと驚く手法である。いくつかのエピソードが同時並行的に描かれ、何が何だか判らないけど、最後に一つにまとまる。ある町(ポーランドの首都ワルシャワ)のホテルや町の中心部を描き、何でこうなっちゃうの?っていうラストだけど…。
しかも映像がぶっ飛んでいる。普通の映画カメラだけではなく、監視カメラ、Web カメラ、カメラ付き携帯、CGなんかの様々な映像が散りばめられている。ローアングルやスローモーションなど多様な撮影技法、いろんな都市のノイズなど、この映画は多様な方法で「11分間」を描き分けている。出てくる人物も、変というか嫌なやつが多い。女好きの映画監督はホテルの一室で女優に出演交渉(それ以上?)をしている。ホテル前には出所したばかりのホットドッグ屋、またある一室では不倫しているバイク便の男、ポルノ映画を見ているカップル、そしてちょうど通りかかるバスの乗客たち。そんな様々な人物をモザイク状に描き分けていく。はっきり言って、何が何だかよく判らずに映画は進行する。
そして、最後の一瞬にすべてがつながってしまう。「グランドホテル形式」というのがある。ある一点(ホテルなど)にいる様々な人物のエピソードをモザイク状に語っていく形式だけど、「イレブン・ミニッツ」は全く無関係の人物を同時進行で描いていく。これは確かに脚本、監督のイエジー・スコリモフスキの発明じゃないか。
スコリモフスキは、ポランスキーの「水の中のナイフ」の共同脚本で認められ、ポーランドで「身分証明書」で監督デビュー、続いて「不戦勝」「バリエラ」と撮った。次にベルギーでジャン=ピエール・レオ主演の「出発」を撮り、ベルリン映画祭で金熊賞。今ではこれらの映画も日本で見られるが、案外に「前衛的」で「ヌーヴェルヴァーグ風」の作風だから、社会主義時代のポーランドにはいられない。外国で撮るようになるが、日本初公開はイギリス映画「早春」(1971)という少年の年上女性への憧れを厳しくも美しく描いた映画。小規模な公開だったけど、鮮烈な映像美に心を囚われた。
以後も世界で撮りながら、映画祭で受賞したりしているが、日本公開は恵まれない。「ザ・シャウト」とか変な内容の映画が多い。そのうち、監督を休んで俳優ばかりやるようになった。2008年に17年ぶりの映画「アンナと過ごした4日間」を撮って、東京国際映画祭にやってきた。審査員特別賞を得て、ベストテンにも入ったけど、これはまた陰鬱なポーランドの田舎町を舞台に、異常な愛の形を描いていた。次の「エッセンシャル・キリング」(2010)はヴェネツィア映画祭で審査員特別賞。これもテロリスト風の男がただ逃げて逃げて逃げ回る強烈な映画だった。こうしてみると、監督人生をかけて変な映画ばかり作ってきたような人である。「イレブン・ミニッツ」もまた、内容も形式もぶっ飛んだ映画だった。大作とか名作よりも、変な映画を偏愛する向きには、落とせない映画だ。

映画に限らず、演劇や小説など「物語」系では、大体「ある程度のまとまった時間」が描かれる。そうじゃないと、人間や社会の深さをじっくり追及できない。男と女が出会って、それで終わりっていう映画じゃ、誰も満足できない。「その後」が知りたいだろ。映画では、むしろ「長い時間」をいかにうまく処理するか、時間を行ったり来たりしたり、画面が暗くなっていく(フェイド・アウト)など、様々な時間処理法が開発されてきた。でも、「イレブン・ミニッツ」では、ある日の「5時から5時11分」までのたった11分しか描かれない。題名の由来である。
時間の「同時進行映画」だったら結構ある。アニェス・ヴァルダ監督の「5時から7時までのクレオ」という映画では、名前の通り5時から7時までの時間が描かれている。そういうのは前にもあったけど、たった11分しか映画内で時間が進行しないというのは、あっと驚く手法である。いくつかのエピソードが同時並行的に描かれ、何が何だか判らないけど、最後に一つにまとまる。ある町(ポーランドの首都ワルシャワ)のホテルや町の中心部を描き、何でこうなっちゃうの?っていうラストだけど…。
しかも映像がぶっ飛んでいる。普通の映画カメラだけではなく、監視カメラ、Web カメラ、カメラ付き携帯、CGなんかの様々な映像が散りばめられている。ローアングルやスローモーションなど多様な撮影技法、いろんな都市のノイズなど、この映画は多様な方法で「11分間」を描き分けている。出てくる人物も、変というか嫌なやつが多い。女好きの映画監督はホテルの一室で女優に出演交渉(それ以上?)をしている。ホテル前には出所したばかりのホットドッグ屋、またある一室では不倫しているバイク便の男、ポルノ映画を見ているカップル、そしてちょうど通りかかるバスの乗客たち。そんな様々な人物をモザイク状に描き分けていく。はっきり言って、何が何だかよく判らずに映画は進行する。
そして、最後の一瞬にすべてがつながってしまう。「グランドホテル形式」というのがある。ある一点(ホテルなど)にいる様々な人物のエピソードをモザイク状に語っていく形式だけど、「イレブン・ミニッツ」は全く無関係の人物を同時進行で描いていく。これは確かに脚本、監督のイエジー・スコリモフスキの発明じゃないか。
スコリモフスキは、ポランスキーの「水の中のナイフ」の共同脚本で認められ、ポーランドで「身分証明書」で監督デビュー、続いて「不戦勝」「バリエラ」と撮った。次にベルギーでジャン=ピエール・レオ主演の「出発」を撮り、ベルリン映画祭で金熊賞。今ではこれらの映画も日本で見られるが、案外に「前衛的」で「ヌーヴェルヴァーグ風」の作風だから、社会主義時代のポーランドにはいられない。外国で撮るようになるが、日本初公開はイギリス映画「早春」(1971)という少年の年上女性への憧れを厳しくも美しく描いた映画。小規模な公開だったけど、鮮烈な映像美に心を囚われた。
以後も世界で撮りながら、映画祭で受賞したりしているが、日本公開は恵まれない。「ザ・シャウト」とか変な内容の映画が多い。そのうち、監督を休んで俳優ばかりやるようになった。2008年に17年ぶりの映画「アンナと過ごした4日間」を撮って、東京国際映画祭にやってきた。審査員特別賞を得て、ベストテンにも入ったけど、これはまた陰鬱なポーランドの田舎町を舞台に、異常な愛の形を描いていた。次の「エッセンシャル・キリング」(2010)はヴェネツィア映画祭で審査員特別賞。これもテロリスト風の男がただ逃げて逃げて逃げ回る強烈な映画だった。こうしてみると、監督人生をかけて変な映画ばかり作ってきたような人である。「イレブン・ミニッツ」もまた、内容も形式もぶっ飛んだ映画だった。大作とか名作よりも、変な映画を偏愛する向きには、落とせない映画だ。