トランプ政権の話も飽きてしまったので、そろそろ別の話。国立西洋美術館で開かれている「スケーエン デンマークの芸術家村」展を見た。世界遺産登録後初めて行ったことになる。スケーエンなんて言っても、ちょっと前まで聞いたこともなかったんだけど、これはとても興味深い展覧会だった。デンマークと日本の外交関係樹立150周年記念の展覧会で、スケーエン美術館が所蔵する59点が紹介されている。あまり大きくない展覧会だけど、だからこそ常設展の料金で見られる。5月28日まで。
スケーエンというのはデンマーク北端の村で、19世紀末ごろに最初に画家たちが住み着いたときには、荒々しい自然と貧しい漁民の村だった。チラシの言葉を引用すると、「潮風が舞う荒野、白い砂浜、どこまでも広がる空と海」が画家たちを魅了したのである。特に、働く漁民たちが漁や遭難などに向き合うさまをリアリズムで描いたミカエル・アンカーという人の絵が非常に迫力があった。そのうち近辺はリゾート地として開発されていき、都会の女たちも訪れるようになる。アンカーの「海辺の散歩」はそういう変化を確かな技量で写し取った傑作である。

そういえば日本でも初めて近代絵画が描かれたころには、海を主題にした絵がいっぱいあった。この絵をみていると、そこにどういう事情があったのか判らないけど、「一瞬の幸福」が永遠に画面の中に封じ込められている感じを受ける。1896年の絵だから、もうモデルになった女性は誰も生きていないに決まってる。でも、第二次世界大戦のドイツ侵略時にはまだ存命だった人も多いだろう。一体どのような人生をこの女性たちは歩んだのだろうなどとつい考え込んでしまう。
実はユーロスペースで開かれていた「ノーザンライツフェスティバル」という北欧映画祭で、まさにスケーエン芸術家村の映画を見た。「マリー・クロヤー 愛と芸術に生きて」という映画で、展覧会の招待券もくれたのである。その映画に出てきたペーター・セヴェリン・クロヤーの絵もいっぱい出ている。夫人のマリー・クロヤーをモデルにした絵もいっぱいあり、映画に出ていた女優と驚くほど似ていた。
(1枚目は肖像画、2枚目は映画の場面)
マリーも画家だったが、夫から才能がないと言われ諦めてしまう。でも才能がないのではなく、夫のP・S・クロヤーがデンマークを代表する大画家だったのである。映画を見ると、夫のクロヤーはだんだん精神的に不安定になり精神病院への入退院を繰り返す。危険を感じたマリーは娘を置いて家を出るが、その後も波瀾万丈の愛情人生を送っていく大メロドラマになる。「智恵子抄」の逆の物語。
映画はデンマークの巨匠、ビレ・アウグスト監督の2013年作品。とても重厚な歴史、芸術映画で、美しい風景の中に人生の真実を求める様に感銘を受けた。ぜひ正式に公開されて欲しい。ビレ・アウグストはデンマークを舞台にした「ペレ」(1987)とベルイマンの子ども時代を描く「愛の風景」で2度のカンヌ映画祭パルムドールを取った。(それは今村昌平、クストリッツァ、ダルデンヌ兄弟、ミヒャエル・ハネケ、ケン・ローチと並ぶ記録である。)その後、世界的に活躍し、イザベル・アジェンデ原作の「愛と精霊の家」や「マンデラの名もなき看守」などを撮っている。「マリー・クロヤー」はデンマークの監督らしい題材で、安定した技量で映画をまとめ上げて感銘深い映画になっている。
ところで、映画を見ていると、当時は女性画家が活躍するには早すぎた時代だったかと思ってしまうのだが、展覧会にはミカエル・アンカーの妻だったアンナ・アンカーの絵がたくさん展示されていた。本人の才能も大事だが、「夫の協力」があれば女性画家がこれほど活躍できたのである。そして、題材には村の女性たちの「家事労働」を多く描いている。女性画家の歴史という意味でも、非常に興味深い。
また、最後のデッサンがまとまって展示されている。それを見ると、展覧会のために描きなおされた大作と違って、デッサンに批評的な力がみなぎっているように思った。アンカー夫妻の場合、デッサンの方が村人たちを鋭くとらえていると思う。それを絵に仕上げるときに、漁民は多少英雄的に描かれたように思う。そも意味でデッサンも大事に見る必要がある。それも興味深い。
スケーエンなんて全然知らなかったわけだけど、グーグルで「スケーエン」で画像検索してみると、驚くほど美しい写真がズラッと出てくる。こんな気持ちのいい町があったのかという感じである。まあ冬は厳しいんだろうけど、夏の間の短い輝きはきっと素晴らしいんだろうと思う。今も小さな町らしいが、美術館もあって知られているという。一度は行ってみたいと思う町がまた一つ。
スケーエンというのはデンマーク北端の村で、19世紀末ごろに最初に画家たちが住み着いたときには、荒々しい自然と貧しい漁民の村だった。チラシの言葉を引用すると、「潮風が舞う荒野、白い砂浜、どこまでも広がる空と海」が画家たちを魅了したのである。特に、働く漁民たちが漁や遭難などに向き合うさまをリアリズムで描いたミカエル・アンカーという人の絵が非常に迫力があった。そのうち近辺はリゾート地として開発されていき、都会の女たちも訪れるようになる。アンカーの「海辺の散歩」はそういう変化を確かな技量で写し取った傑作である。

そういえば日本でも初めて近代絵画が描かれたころには、海を主題にした絵がいっぱいあった。この絵をみていると、そこにどういう事情があったのか判らないけど、「一瞬の幸福」が永遠に画面の中に封じ込められている感じを受ける。1896年の絵だから、もうモデルになった女性は誰も生きていないに決まってる。でも、第二次世界大戦のドイツ侵略時にはまだ存命だった人も多いだろう。一体どのような人生をこの女性たちは歩んだのだろうなどとつい考え込んでしまう。
実はユーロスペースで開かれていた「ノーザンライツフェスティバル」という北欧映画祭で、まさにスケーエン芸術家村の映画を見た。「マリー・クロヤー 愛と芸術に生きて」という映画で、展覧会の招待券もくれたのである。その映画に出てきたペーター・セヴェリン・クロヤーの絵もいっぱい出ている。夫人のマリー・クロヤーをモデルにした絵もいっぱいあり、映画に出ていた女優と驚くほど似ていた。


マリーも画家だったが、夫から才能がないと言われ諦めてしまう。でも才能がないのではなく、夫のP・S・クロヤーがデンマークを代表する大画家だったのである。映画を見ると、夫のクロヤーはだんだん精神的に不安定になり精神病院への入退院を繰り返す。危険を感じたマリーは娘を置いて家を出るが、その後も波瀾万丈の愛情人生を送っていく大メロドラマになる。「智恵子抄」の逆の物語。
映画はデンマークの巨匠、ビレ・アウグスト監督の2013年作品。とても重厚な歴史、芸術映画で、美しい風景の中に人生の真実を求める様に感銘を受けた。ぜひ正式に公開されて欲しい。ビレ・アウグストはデンマークを舞台にした「ペレ」(1987)とベルイマンの子ども時代を描く「愛の風景」で2度のカンヌ映画祭パルムドールを取った。(それは今村昌平、クストリッツァ、ダルデンヌ兄弟、ミヒャエル・ハネケ、ケン・ローチと並ぶ記録である。)その後、世界的に活躍し、イザベル・アジェンデ原作の「愛と精霊の家」や「マンデラの名もなき看守」などを撮っている。「マリー・クロヤー」はデンマークの監督らしい題材で、安定した技量で映画をまとめ上げて感銘深い映画になっている。
ところで、映画を見ていると、当時は女性画家が活躍するには早すぎた時代だったかと思ってしまうのだが、展覧会にはミカエル・アンカーの妻だったアンナ・アンカーの絵がたくさん展示されていた。本人の才能も大事だが、「夫の協力」があれば女性画家がこれほど活躍できたのである。そして、題材には村の女性たちの「家事労働」を多く描いている。女性画家の歴史という意味でも、非常に興味深い。
また、最後のデッサンがまとまって展示されている。それを見ると、展覧会のために描きなおされた大作と違って、デッサンに批評的な力がみなぎっているように思った。アンカー夫妻の場合、デッサンの方が村人たちを鋭くとらえていると思う。それを絵に仕上げるときに、漁民は多少英雄的に描かれたように思う。そも意味でデッサンも大事に見る必要がある。それも興味深い。
スケーエンなんて全然知らなかったわけだけど、グーグルで「スケーエン」で画像検索してみると、驚くほど美しい写真がズラッと出てくる。こんな気持ちのいい町があったのかという感じである。まあ冬は厳しいんだろうけど、夏の間の短い輝きはきっと素晴らしいんだろうと思う。今も小さな町らしいが、美術館もあって知られているという。一度は行ってみたいと思う町がまた一つ。

