日本で訴追され保釈中だったカルロス・ゴーン(Carlos Ghosn、1954.3.9~)元日産会長が、2019年末に日本から密かに出国していた。レバノンで声明を発表し、それが大晦日に突然報道されたわけである。このニュースにはさすがに驚いた。今までゴーン事件は一回も書いてない。真相は僕にはよく判らないし、あまり「現在進行形」の事件は書かないことにしている。(何十年もたった再審事件などは別。判決の論理がおかしいなと思った今市事件は例外である。)
(レバノンで会見を開いたゴーン氏)
しかし、今回の展開で2020年春に始まるとされた裁判は通常の予定では進行しないことがはっきりした。だから僕の感じたことを忘れないうちに書き留めておきたいと思う。まず正直に言ってしまえば、「やるなあ」とでもいう感想。「無実なら裁判で訴えよ」なんてタテマエをいう人が多いが、さっさと逃げ出すという選択肢があったのか。まあお金があったからこそ出来ることで、そんなことは普通の人には出来ない。そうなんだけど、お金があればここまで日本政府をコケに出来るのか。ここまで日本政府をコケにした事件と言えば、1978年の成田空港管制塔占拠事件以来かもしれない。
アメリカのミステリー風に言うなら、「日本国対カルロス・ゴーン事件」となる。今回の出来事で判ったのは、思いがけなく「日本国」の立場にしか立てない人が多いことだ。カルロス・ゴーンは日本に来た時から、傲慢なやり方で好きではなかったが、刑事事件になった以上は「一市民」として公正な人権保障が認められなければならない。「保釈した裁判官が悪い」などと八つ当たりする人がいるが、この程度の事件でずっと保釈しないことはあり得ない。もし今まで勾留を続けていたとしたら、諸外国からの批判は今のようなレベルでは済まない。もっともっととんでもない大騒ぎになっていただろう。
もう一つ、プライベートジェット機が出国するときの検査が甘かったのではないかと入国管理当局(法務省である)を非難する向きも多い。これは全くおかしい。飛行機に乗るときに厳しい検査があるのは何故だろうか。まずは「テロ、ハイジャック防止」である。それはプライベートジェットの場合、ほとんど関係ない。もともと雇い先の命じるまま、どこでも行ける飛行機なんだから。また日本への入国に際し、違法薬物、コピー商品などの持ち込みを禁じるのも検査の大きな目的だ。プライベートジェットを使うような大物でも、薬物を持ち込む人はいそうだから入国審査はそれなりに見てるんだろう。しかし、日本から持ち出す方はあまり検査する必要がないと考えても無理はない。
なぜなら、プライベートジェットを優遇するというのが国策だったからである。東京新聞1月8日付の記事(こちら特報部)によれば、関空、成田、羽田、中部など主要な空港でプラーベート機専用ターミナルを設けたり、優先的に駐機できる場所を増やしてきたという。そのため、2018年には5719回の発着があり、2012年と比べて倍増した。国土交通省も「企業の経営者にとっても時間が有効活用され、わが国の国際競争力強化に資する」と推進してきた。(以上、東京新聞記事による。)
検索してみると、経団連が2014年1月に発表した「日本経済の発展の道筋を確立する」という提言に以下の項目があるのが見つかった。別表5に「◦国際空港の容量拡大・稼働率向上等(発着枠の拡大、空港使用料の引き下げ、プライベートジェットへの対応強化等)」と明記されている。つまり、「日本を世界で一番企業が活躍できる国にする」という政権があって、それを後押しする財界の要望があった。そのような「アベノミクス」の一翼を担ったのが「プライベートジェット」優遇だったのである。
その中で関空は首都圏に比べて、プライベートジェットの発着は少なかったという。従って、公務員削減策のもと、人手不足だっただろうことは推察できる。出国したとされる12月29日は、日本人にとっては年末の出国ラッシュだし、クリスマスから新年にかけては外国人観光客も多いだろう。折しも関西では山口組分裂に伴う抗争が激しくなりつつある。それに絡む出入国の監視の方が重要だろう。手薄なところを狙われたんだろうが、もとは国策で優遇していた以上、現場を責めるのは酷じゃないか。
日産事件は無実を主張できるが、この「密出国」は間違いなく「有罪」に違いない。出入国管理及び難民認定法の25条違反で、71条によると「1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは30万円以下の罰金」だから、それほど重くはない。しかし、僕が疑問なのは保釈後の検察の対応だ。検察側は「逃亡または証拠隠滅の恐れ」を理由に保釈に反対していた。それなら保釈後も「行動確認」を続けるだろう。人権上問題もあるかもしれないが、やるはずだ。数年前のパソコン遠隔操作事件では、保釈後も行動確認(尾行)を続け、まさに証拠隠滅しているところを逮捕した。
今回はどうしていたんだろうか。してないはずはないと思うけど。警察官も公務員だから、年末には少し態勢が緩くなったのか。防犯カメラで追えるから、それに任せていたのか。それにしても関係者が何度も来日して、各空港を調べるなどしていたという。どうして事前につかめなかったのか。もしロシア関係者と接触し北海道から密出国するといったプランだったら、多分事前に判明したんじゃないだろうか。今回は協力者が元米軍関係者だったらしいから、日本警察にはアンタッチャブルな領域だったのかもしれない。そんな想像もしてしまう。僕は裁判所や入管ではなく検察の失敗だと思っている。

しかし、今回の展開で2020年春に始まるとされた裁判は通常の予定では進行しないことがはっきりした。だから僕の感じたことを忘れないうちに書き留めておきたいと思う。まず正直に言ってしまえば、「やるなあ」とでもいう感想。「無実なら裁判で訴えよ」なんてタテマエをいう人が多いが、さっさと逃げ出すという選択肢があったのか。まあお金があったからこそ出来ることで、そんなことは普通の人には出来ない。そうなんだけど、お金があればここまで日本政府をコケに出来るのか。ここまで日本政府をコケにした事件と言えば、1978年の成田空港管制塔占拠事件以来かもしれない。
アメリカのミステリー風に言うなら、「日本国対カルロス・ゴーン事件」となる。今回の出来事で判ったのは、思いがけなく「日本国」の立場にしか立てない人が多いことだ。カルロス・ゴーンは日本に来た時から、傲慢なやり方で好きではなかったが、刑事事件になった以上は「一市民」として公正な人権保障が認められなければならない。「保釈した裁判官が悪い」などと八つ当たりする人がいるが、この程度の事件でずっと保釈しないことはあり得ない。もし今まで勾留を続けていたとしたら、諸外国からの批判は今のようなレベルでは済まない。もっともっととんでもない大騒ぎになっていただろう。
もう一つ、プライベートジェット機が出国するときの検査が甘かったのではないかと入国管理当局(法務省である)を非難する向きも多い。これは全くおかしい。飛行機に乗るときに厳しい検査があるのは何故だろうか。まずは「テロ、ハイジャック防止」である。それはプライベートジェットの場合、ほとんど関係ない。もともと雇い先の命じるまま、どこでも行ける飛行機なんだから。また日本への入国に際し、違法薬物、コピー商品などの持ち込みを禁じるのも検査の大きな目的だ。プライベートジェットを使うような大物でも、薬物を持ち込む人はいそうだから入国審査はそれなりに見てるんだろう。しかし、日本から持ち出す方はあまり検査する必要がないと考えても無理はない。
なぜなら、プライベートジェットを優遇するというのが国策だったからである。東京新聞1月8日付の記事(こちら特報部)によれば、関空、成田、羽田、中部など主要な空港でプラーベート機専用ターミナルを設けたり、優先的に駐機できる場所を増やしてきたという。そのため、2018年には5719回の発着があり、2012年と比べて倍増した。国土交通省も「企業の経営者にとっても時間が有効活用され、わが国の国際競争力強化に資する」と推進してきた。(以上、東京新聞記事による。)
検索してみると、経団連が2014年1月に発表した「日本経済の発展の道筋を確立する」という提言に以下の項目があるのが見つかった。別表5に「◦国際空港の容量拡大・稼働率向上等(発着枠の拡大、空港使用料の引き下げ、プライベートジェットへの対応強化等)」と明記されている。つまり、「日本を世界で一番企業が活躍できる国にする」という政権があって、それを後押しする財界の要望があった。そのような「アベノミクス」の一翼を担ったのが「プライベートジェット」優遇だったのである。
その中で関空は首都圏に比べて、プライベートジェットの発着は少なかったという。従って、公務員削減策のもと、人手不足だっただろうことは推察できる。出国したとされる12月29日は、日本人にとっては年末の出国ラッシュだし、クリスマスから新年にかけては外国人観光客も多いだろう。折しも関西では山口組分裂に伴う抗争が激しくなりつつある。それに絡む出入国の監視の方が重要だろう。手薄なところを狙われたんだろうが、もとは国策で優遇していた以上、現場を責めるのは酷じゃないか。
日産事件は無実を主張できるが、この「密出国」は間違いなく「有罪」に違いない。出入国管理及び難民認定法の25条違反で、71条によると「1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは30万円以下の罰金」だから、それほど重くはない。しかし、僕が疑問なのは保釈後の検察の対応だ。検察側は「逃亡または証拠隠滅の恐れ」を理由に保釈に反対していた。それなら保釈後も「行動確認」を続けるだろう。人権上問題もあるかもしれないが、やるはずだ。数年前のパソコン遠隔操作事件では、保釈後も行動確認(尾行)を続け、まさに証拠隠滅しているところを逮捕した。
今回はどうしていたんだろうか。してないはずはないと思うけど。警察官も公務員だから、年末には少し態勢が緩くなったのか。防犯カメラで追えるから、それに任せていたのか。それにしても関係者が何度も来日して、各空港を調べるなどしていたという。どうして事前につかめなかったのか。もしロシア関係者と接触し北海道から密出国するといったプランだったら、多分事前に判明したんじゃないだろうか。今回は協力者が元米軍関係者だったらしいから、日本警察にはアンタッチャブルな領域だったのかもしれない。そんな想像もしてしまう。僕は裁判所や入管ではなく検察の失敗だと思っている。