若竹七海の「世界で一番不運な女探偵」、葉村晶シリーズは時々出るたびに楽しんで読んできた。12月に文春文庫新刊「不穏な眠り」を読んだけど、本屋で見たら葉村シリーズも入ってる短編集「暗い越流」(光文社文庫)があった。表題作は日本推理作家協会賞(短編部門)受賞作である。本屋にズラッと並んでたから、何か理由があるのかと思ったら帯に出てた。1月24日から金曜夜にNHKドラマで放送されるという。主演はシシド・カフカで、若くて魅力的過ぎるかなと思うけど…。
「葉村」って何かありそうな名前だけど、一発で変換できなかったからないのかもしれない。若竹七海は1991年の「ぼくのミステリな日常」でデビュー以来、様々なジャンルのミステリーを書いてきた。「プレゼント」「依頼人は死んだ」「悪いうさぎ」は、それぞれ1996、2000、2001年の作品だから、初期の葉村晶はまだ若かった。ちゃんと(?)探偵事務所に勤めてたし。僕が読んでたのは「依頼人は死んだ」だけだったから、ほとんど印象はなかった。その後ずっと長く書かれなくて、2014年に突然「さよならの手口」(2016)で戻ってきたときには、ずいぶん年齢を重ねていたが相変わらず独身で「不運」だった。
今回読んだ「暗い越流」の中に「道楽者の金庫」には「昭和の頃はどこの家にも武者小路実篤の印刷色紙とこけしがあったような気がする」とある。作者は1963年生まれだから、かろうじて「昭和最末期」の香りを知ってるのである。この短編は「こけし」コレクターが関係するミステリーなので、そういう叙述が出てくる。武者小路とこけしという取り合わせに膝を打って納得する世代がある。ぼくはまさにそれである。葉村晶は「国籍日本、性別女」だが、いろいろあって女がレアな探偵業を続けている。
今、文庫本には社を越えて「葉村晶シリーズガイド」が入っている。そこに「女探偵が歩く街」という作者によるエッセイが入っている。ミステリーファンには見逃せない文章で、欧米の主な女性探偵が紹介されている。日本では殺人事件も少ないし、戸籍制度などもあって、人捜しだけなら圧倒的に警察が有利だ。私立探偵を依頼する人などほとんどいないし、ましてや女性で探偵をする人もそんなにいないだろう。まあDVやいじめ事件の調査などには女性の方が有利な場合もあるかと思うが、現実に調査を依頼する人がどれだけいるだろう。
そういう社会の中で、一人暮らしの女性がどれだけ活躍できるのか。そのためにどういう工夫を作者がしているのか。そこも読みどころだ。葉村晶はどんどん私生活でも「不運」が積み重なって、調布のアパートで共同生活をするも取り壊され、探偵事務所もなくなる。仕方なく吉祥寺のミステリー専門書店でアルバイトして、時々知り合いから依頼される事件調査をしている。住む場所もなくなって、書店に二階に居候するようになり、冗談半分に「白熊探偵社」という看板を掲げるに至っている。
そのため、ミステリー書店向けの仕事、例えば物故者の遺産整理で本を任せられたりするようになった。そこから事件に発展するケースもある。事件じゃなくても、ミステリー関係のうんちくを自然に入れられるようになった。そして東京西部、吉祥寺を中心にした土地をめぐりながら、人間の心に潜む悪に向き合って行く。短編が多いが、近年書かれた「錆びた滑車」の展開とアイディアにはうならされた。最高傑作だと思う。新刊の「不穏な眠り」は多少出来不出来があると思うが、読んでて楽しいのはいつもと同じ。特に「鉄道ミステリフェア」を企画した中で起きる事件を描く「逃げ出した時刻表」が面白かった。
人間には裏があるということがよく判るような作品ばかり。でも読んでいて嫌にならないのは、葉村晶が不運を一手に引き受けてくれることもあるが、キビキビした文章による読みやすさも大きい。探偵と共にどんどん事件をくぐり抜けていくことになり、息を継ぐ暇もない。まずはテレビで評判になる前に一冊読んでみてはいかがか。今一番安定していて面白いシリーズだから。
「葉村」って何かありそうな名前だけど、一発で変換できなかったからないのかもしれない。若竹七海は1991年の「ぼくのミステリな日常」でデビュー以来、様々なジャンルのミステリーを書いてきた。「プレゼント」「依頼人は死んだ」「悪いうさぎ」は、それぞれ1996、2000、2001年の作品だから、初期の葉村晶はまだ若かった。ちゃんと(?)探偵事務所に勤めてたし。僕が読んでたのは「依頼人は死んだ」だけだったから、ほとんど印象はなかった。その後ずっと長く書かれなくて、2014年に突然「さよならの手口」(2016)で戻ってきたときには、ずいぶん年齢を重ねていたが相変わらず独身で「不運」だった。
今回読んだ「暗い越流」の中に「道楽者の金庫」には「昭和の頃はどこの家にも武者小路実篤の印刷色紙とこけしがあったような気がする」とある。作者は1963年生まれだから、かろうじて「昭和最末期」の香りを知ってるのである。この短編は「こけし」コレクターが関係するミステリーなので、そういう叙述が出てくる。武者小路とこけしという取り合わせに膝を打って納得する世代がある。ぼくはまさにそれである。葉村晶は「国籍日本、性別女」だが、いろいろあって女がレアな探偵業を続けている。
今、文庫本には社を越えて「葉村晶シリーズガイド」が入っている。そこに「女探偵が歩く街」という作者によるエッセイが入っている。ミステリーファンには見逃せない文章で、欧米の主な女性探偵が紹介されている。日本では殺人事件も少ないし、戸籍制度などもあって、人捜しだけなら圧倒的に警察が有利だ。私立探偵を依頼する人などほとんどいないし、ましてや女性で探偵をする人もそんなにいないだろう。まあDVやいじめ事件の調査などには女性の方が有利な場合もあるかと思うが、現実に調査を依頼する人がどれだけいるだろう。
そういう社会の中で、一人暮らしの女性がどれだけ活躍できるのか。そのためにどういう工夫を作者がしているのか。そこも読みどころだ。葉村晶はどんどん私生活でも「不運」が積み重なって、調布のアパートで共同生活をするも取り壊され、探偵事務所もなくなる。仕方なく吉祥寺のミステリー専門書店でアルバイトして、時々知り合いから依頼される事件調査をしている。住む場所もなくなって、書店に二階に居候するようになり、冗談半分に「白熊探偵社」という看板を掲げるに至っている。
そのため、ミステリー書店向けの仕事、例えば物故者の遺産整理で本を任せられたりするようになった。そこから事件に発展するケースもある。事件じゃなくても、ミステリー関係のうんちくを自然に入れられるようになった。そして東京西部、吉祥寺を中心にした土地をめぐりながら、人間の心に潜む悪に向き合って行く。短編が多いが、近年書かれた「錆びた滑車」の展開とアイディアにはうならされた。最高傑作だと思う。新刊の「不穏な眠り」は多少出来不出来があると思うが、読んでて楽しいのはいつもと同じ。特に「鉄道ミステリフェア」を企画した中で起きる事件を描く「逃げ出した時刻表」が面白かった。
人間には裏があるということがよく判るような作品ばかり。でも読んでいて嫌にならないのは、葉村晶が不運を一手に引き受けてくれることもあるが、キビキビした文章による読みやすさも大きい。探偵と共にどんどん事件をくぐり抜けていくことになり、息を継ぐ暇もない。まずはテレビで評判になる前に一冊読んでみてはいかがか。今一番安定していて面白いシリーズだから。