尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

ゴーン事件考②有価証券報告書編

2020年01月10日 22時30分27秒 | 社会(世の中の出来事)
 ゴーン元日産会長は、2018年11月19日に金融商品取引法違反容疑で東京地検特捜部に逮捕された。直接の容疑は「有価証券報告書の虚偽記載」である。自らの報酬を少なく見せかけるために、有価証券報告書に虚偽記載をさせた容疑である。同じ容疑で対象年度を変えて2回逮捕され、起訴された。過小記載は8年間で約91億円とされている。起訴内容に沿って、日産は有価証券報告書を訂正した。
(今までの虚偽記載事件)
 金融商品取引法違反は「懲役10年以下か、罰金一千万円以下」であり、それをもって重罪だとする人があるが、そんな重罰は極めて悪質なインサイダー取引とか長年の粉飾決算の場合だけだろう。今までの例に照らせば、確実に執行猶予が付く案件である。普通は会社トップが直接虚偽記載の実務を行うはずがなく、下からの捜査を積み上げてトップに迫るのが通常の方法だ。いきなりトップを逮捕したのは、言うまでもなく事前に日産と「司法取引」を行っていたからである。

 そこがゴーン側から「クーデター」と言われるところである。その詳細な内情は知らないけれど、当時の報道によれば、日産内部では捜査当局が金融取引取引法で逮捕したのは驚きだったと書かれていたと思う。つまり、これは「一種の形式犯」であり、本来は「特別背任」が本命だったはずだということだろう。結局、後に特別背任容疑で再々逮捕、再々々逮捕と繰り返された。僕は当時、この容疑が事実なら「投資家に影響を与える可能性」は大きいと思った。元々ゴーン会長の報酬が多すぎるという議論は度々あった。そして実際は倍も貰っていたのかと思ったわけである。

 ところで不思議なことに日産は有価証券報告書の中で、取締役の報酬部分だけを訂正して、財務諸表を訂正していない。それはこの「隠された報酬」は実は支払われていなかったからである。つまりゴーン側に不明朗な報酬が渡り、その支出を隠すために決算を粉飾するという悪質なものではなかったのである。その未払い部分は退任後に支払うという決まりだったという。なんだ、貰っていたのに隠していたのではなかったのである。退任後の追加報酬がどこまで正式に決定されていたか現時点では判らないが、仮に細かく取り決めてあったとしても、実際には支払われてない以上「報告書に書くべきかどうか」は法的に議論の余地があると思う。

 それ以上に問題だと思うのは、日産は自ら解任したゴーン元会長にこの約束した報酬を支払うんだろうか。もちろん支払わないだろう。今では会社側と対立関係にある人物に巨額の追加報酬を支払うというのは、到底株主の理解を得られない。しかし、有価証券報告書を訂正してしまった以上、届け出た通りの報酬額を支払う義務があるのではないか。結局は払わないと言うんだったら、前の報告書の報酬が正しかったことになり、再訂正をしないとおかしい。しかしながら、再訂正をして元通りにしてしまったら、「有価証券報告書の虚偽記載」というもの自体が存在しなくなる。

 僕にはどうも、そのような「背理」問題があると思うんだが、誰も何も言わないのはどうしてだろう。日産が「泥棒に追い銭」しない限り、形式的に犯罪が存在しなくなるような気がする。司法取引をして日産の内部資料を見られたはずの検察側が、このような「まだ貰ってない報酬」をもって「虚偽記載」として長期に拘束したわけである。ということは「本丸」であるはずの「特別背任」に関しても、弁護側の反証をよく聞かない限り検察側の主張を鵜呑みにするのは危険だということを示しているんじゃないだろうか。(なお「特別背任」事件の方は、関係証拠が完全に示されない限り、有罪無罪の判断は僕には無理だ。もしかしたら証拠を見ても無理かもしれない。)
コメント
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