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尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

ゴーン事件考③日本の司法制度編

2020年01月11日 23時10分43秒 | 社会(世の中の出来事)
 カルロス・ゴーンはレバノンで「日本の司法制度は不正」と批判を繰り返している。その指摘をどう考えればいいんだろうか。よく裁判のニュースで「不当判決」と書いた紙を持った弁護人が出てくることがある。2019年に最高裁の「大崎事件再審の逆転棄却決定」は、ここでも批判したけれど、間違いなく「不当決定」だと考える。それは「正しくない」ものだから「不正決定」と言ってもいいはずだが、普通は「不当決定」と表現するだろう。「個別事件の判断の誤り」だから、日本の司法制度全体が「不正」であるという判断とは違う。「不正」というと賄賂でも貰って判断を変えたようなイメージになる。

 僕は今まで冤罪事件死刑制度についてたびたび書いてきた。日本は死刑制度を存置しているから、ヨーロッパ諸国は日本には容疑者を引き渡さない。世界では死刑廃止国の方が多いわけだから、そういう日本の司法制度を「不正」と表現することもありうる。しかし、司法制度に限らず、世界には様々なシステムがある。例えばアメリカの連邦最高裁だって、裁判官が終身で務めるというのも日本から見れば変である。でも「不当」とは言わないだろう。一党独裁の中国とは違うんだし、現実に弁護人の主張が通って無罪判決が出ることはそれほど珍しくはない。

 だから、日本の司法制度全体を不正なものだというのは言いすぎというものだ。このように、僕はつい先頃までは判断していた。ところが、よほど頭に血が上ったか、法務省や検察庁のゴーン事件への反応を見ると、どうもおかしなことが多すぎる。特にゴーン会見を受けて、森雅子法務大臣が2回も談話を出して法務省の主張を展開した。それを見て、僕は考えを変えざるを得なかった。日本の司法制度は不正なものだと言われてもやむを得ない

 森法相談話は法務省のホームページですぐ見られるが、一番問題だと思う部分を示しておきたい。
 「有罪率が99%であり,公平な判決を得ることができないとの批判がなされたが,我が国の検察においては,無実の人が訴訟負担の不利益を被ることなどを避けるため,的確な証拠によって有罪判決が得られる高度の見込みのある場合に初めて起訴するという運用が定着している。また,裁判官は,中立公平な立場から判断するものである。高い有罪率であることを根拠に公平な判決を得ることができないとの批判は当たらない。」

 法相の論理(法相のみならず、テレビニュースで解説している弁護士などは大体同じようなことを言ってる)では、「的確な証拠」があるもののみを起訴しているから、高い有罪率なんだという。ところで、カルロス・ゴーンはまさに起訴されている。よって論理的に、ゴーン被告に関する証拠は的確なものであり、「有罪判決が得られる高度の見込みがある」わけである。その確率は99%と明示されている。

 起訴されたんだから、カルロス・ゴーンは99%有罪なんだと法務行政のトップが世界に向かって明言しているのである。まさに「推定有罪」である。これが「不正な司法制度」でなくて何なのか。それなのに野党もマスコミも、この森談話を批判しない。国家主義的思考に染まっているんだろうし、もともと論理力が不足しているのかもしれない。お前は有罪だ、なぜなら起訴されているから、と明言する法務大臣がいる国では、誰だって裁判を受けたくないだろう。

 他にもおかしなことがいろいろあるが、逮捕するには令状主義が徹底されているなどと自賛している。別に当たり前のことで、どこか独裁国などと比べれば「人権保障」が出来ていると自慢しているんだから始末が悪い。そして、あろうことかキャロル夫人に対する逮捕状まで取ってしまった。「令状主義」は生きているが、こんな逮捕状を認める裁判官もいるのである。公判が始まる前の段階で「偽証罪」って、どうなってるんだろう。
(キャロル夫人に逮捕状)
 確かに「公判前の証人尋問」は例外的に可能である。(刑訴法226条)宣誓しているんだろうから、偽証は罪になるが、今回は「記憶にない」という証言だという。実は知ってたとしても、夫をかばっただけである。捜査に大きな影響を与えるものではなく、実際に何の不都合も起きなかった。だから誰も今までそんな証言がされていたことも知らないだろう。訴追するまでもなく「起訴猶予」レベルのものだ。今後キャロル夫人が夫の代弁者として振る舞うことを防ぐためなんだろうけど、「嫌がらせ」もここまで来ると、どうも焦りや腹いせという感じだ。
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