「ゴーン事件」は被告の逃亡で裁判の行方はどうなるのだろうか。そもそも「ゴーン事件」とは何だったのだろうか。レバノンで行った「ゴーン会見」は日本では「新しいことは何もなかった」という評がほとんどだが、そういう理解でいいのだろうか。そんなことを最後に書いておきたい。
会見に新味がなかったというのは、それ自体は正しいと思うが、それは「すでに事件の概要を知っていた」からだ。事件について書かれた文献の多くは日本語だから、世界の人は読めない。会見に出席したジャーナリストたちも、日産とルノーの問題は知っていたかもしれないが、日本の司法制度はほとんど知らなかっただろう。日本で逮捕されるということがどういうことか。それは有無を言わさず手錠を掛けて連行され、弁護人の同席もなく一日8時間にも及んで「自白」を迫られるという体験だった。
いや8時間もやってない、弁護人とは面会できるとか、法務大臣が2回も反論(釈明?)の談話を出したこと自体、制度的な側面に関しては世界に知られたくないことが語られたということだ。ゴーン捜査の実情は知らないけれど、会見で語られた取り調べの実態はほぼ事実だと思う。違っていたとすれば、それはゴーンが要人として優遇されたということで、普通はもっとひどいだろう。日本では「代用監獄」(留置場)が存在するなど、刑事司法の国際水準からはほど遠い。「弁護人の同席」が国際レベルだろうが、「弁護人と面会」できるなどとヌケヌケと言っていて、恥ずかしいレベルというほかない。
注目すべきは、1月8日にあった安倍首相の謎の発言だ。それは「日産のなかで片付けてもらいたかった」というものである。キャノンの御手洗会長との会食時に出た言葉だという。そもそもゴーン事件は、日産から司法取引で特捜部に持ち込まれたものだとされる。安倍首相発言を見ると、やはり日産内部で解決すべき問題を無理に刑事事件化したという側面があったのか。司法取引が認められてから、大きく注目される大事件はまだ手掛けていなかった。「司法取引」によって、ここまで大きな事件を摘発できるのか。それを検察当局が狙った側面は否定できないだろう。
2回にわたって「金融商品取引法」で逮捕され、2回目の逮捕では10日間の勾留延長が認められなかった。その後、「特別背任」で再逮捕、保釈後にオマーンでの「特別背任」でまた逮捕された。数多くの書類を精査して、ようやく事件化できるものを見つけ出したということだろう。「特別背任」は重大ではあるけれど、日産=ルノーの経営を揺るがすようなものではなかった。会社が倒産して、調べてみたら長年にわたって不明朗な支出がなされていたと言った事件ではない。会社が破綻した場合だったら、悪質性を問われて実刑判決が出る可能性があるが、ゴーン事件では「執行猶予」が確実だ。
日本政府はゴーンに2004年に藍綬褒章を贈っている。解任されたから、「再犯可能性はゼロ」である。それを考慮すると、有罪でも実刑は考えられない。とことん闘って無罪になったとしても、今後日本でゴーンを経営者として迎える企業はなかっただろう。だから、もう日本はゴーンにとって何の意味もない。この程度の事件で何年も家族に会えないなど、ゴーンからすれば常識外れの迫害だ。事実上、裁判前に無期懲役刑になったようなものだった。
日本では「司法取引」を制度化したときに、「有罪答弁取引」は取り入れなかった。司法取引というのは、争いの片方には「不起訴」など有利な扱いをするわけだから、慎重な扱いが必要だ。相手の責任にして自分は罪を免れる冤罪が起こりやすい。だから、争いのもう片方の側にも「取引」の可能性を認める方が公平だと思う。この場合は、日産から入手した資料を開示して、「執行猶予付き有罪」を認めるように取引するわけである。もう日本にいても仕方ないんだから、さっさと終わらせるために受け入れた可能性はあると思う。
まあ、それはともかく、今後レバノンから日本へ移送されることはない。引き渡しを求めるなら、順番はまず岡本公三の方が先だろう。誰だって言う人は自分で調べて欲しい。亡命を認めて今はレバノン国籍も取ったという岡本公三を保護している国が、元々国籍を所有しているゴーンを引き渡すわけがない。レバノンでは昨年来反政府デモが続いていて、ゴーンを擁護する人ばかりではないともいう。だが、だからこそレバノン政府に強い圧力を加えても、かえって日本に引き渡すことは出来ないだろう。
何でもレバノンの面積は岐阜県程度だという。テレビ番組なのでは、日本を出ても今度は「レバノンという牢獄」を出られないなどと言ってる人がいる。日本の保守派はすぐに「国」「家族」というくせに、ゴーンが自分の祖国に逃げ帰って家族に会いたいという気持ちが判らないのだろうか。僕はこの程度の事件で裁判がどうなろうとあまり関心はない。ゴーンが言ってる日本の司法制度批判に関しては、非常によく判ると思っている。逃げたヤツが何を言うかなどという八つ当たり的反応は間違っている。
ゴーンの逃亡を批判できるとしたら、それは一緒に逮捕されたグレッグ・ケリーだけだろう。一体彼はどこで何を思っているのだろうか。自分を置き去りにして逃げたゴーンに怒っているんじゃないか。まあ、その程度の権力者にくっついていた自分の責任ではあるけれど。ケリー被告は逃げてないんだろうから、今後いつの日か裁判が待っている。特別背任は無関係で、金融商品取引法の従犯なんだから、今さら内容を争わず「すべてはゴーンの指示」とでも言って裁判は早期に終わるんじゃないか。そんな気がするが、ケリーの立場から見たら「ゴーン事件」はどう見えているんだろうか。
(グレッグ・ケリー被告)
会見に新味がなかったというのは、それ自体は正しいと思うが、それは「すでに事件の概要を知っていた」からだ。事件について書かれた文献の多くは日本語だから、世界の人は読めない。会見に出席したジャーナリストたちも、日産とルノーの問題は知っていたかもしれないが、日本の司法制度はほとんど知らなかっただろう。日本で逮捕されるということがどういうことか。それは有無を言わさず手錠を掛けて連行され、弁護人の同席もなく一日8時間にも及んで「自白」を迫られるという体験だった。
いや8時間もやってない、弁護人とは面会できるとか、法務大臣が2回も反論(釈明?)の談話を出したこと自体、制度的な側面に関しては世界に知られたくないことが語られたということだ。ゴーン捜査の実情は知らないけれど、会見で語られた取り調べの実態はほぼ事実だと思う。違っていたとすれば、それはゴーンが要人として優遇されたということで、普通はもっとひどいだろう。日本では「代用監獄」(留置場)が存在するなど、刑事司法の国際水準からはほど遠い。「弁護人の同席」が国際レベルだろうが、「弁護人と面会」できるなどとヌケヌケと言っていて、恥ずかしいレベルというほかない。
注目すべきは、1月8日にあった安倍首相の謎の発言だ。それは「日産のなかで片付けてもらいたかった」というものである。キャノンの御手洗会長との会食時に出た言葉だという。そもそもゴーン事件は、日産から司法取引で特捜部に持ち込まれたものだとされる。安倍首相発言を見ると、やはり日産内部で解決すべき問題を無理に刑事事件化したという側面があったのか。司法取引が認められてから、大きく注目される大事件はまだ手掛けていなかった。「司法取引」によって、ここまで大きな事件を摘発できるのか。それを検察当局が狙った側面は否定できないだろう。
2回にわたって「金融商品取引法」で逮捕され、2回目の逮捕では10日間の勾留延長が認められなかった。その後、「特別背任」で再逮捕、保釈後にオマーンでの「特別背任」でまた逮捕された。数多くの書類を精査して、ようやく事件化できるものを見つけ出したということだろう。「特別背任」は重大ではあるけれど、日産=ルノーの経営を揺るがすようなものではなかった。会社が倒産して、調べてみたら長年にわたって不明朗な支出がなされていたと言った事件ではない。会社が破綻した場合だったら、悪質性を問われて実刑判決が出る可能性があるが、ゴーン事件では「執行猶予」が確実だ。
日本政府はゴーンに2004年に藍綬褒章を贈っている。解任されたから、「再犯可能性はゼロ」である。それを考慮すると、有罪でも実刑は考えられない。とことん闘って無罪になったとしても、今後日本でゴーンを経営者として迎える企業はなかっただろう。だから、もう日本はゴーンにとって何の意味もない。この程度の事件で何年も家族に会えないなど、ゴーンからすれば常識外れの迫害だ。事実上、裁判前に無期懲役刑になったようなものだった。
日本では「司法取引」を制度化したときに、「有罪答弁取引」は取り入れなかった。司法取引というのは、争いの片方には「不起訴」など有利な扱いをするわけだから、慎重な扱いが必要だ。相手の責任にして自分は罪を免れる冤罪が起こりやすい。だから、争いのもう片方の側にも「取引」の可能性を認める方が公平だと思う。この場合は、日産から入手した資料を開示して、「執行猶予付き有罪」を認めるように取引するわけである。もう日本にいても仕方ないんだから、さっさと終わらせるために受け入れた可能性はあると思う。
まあ、それはともかく、今後レバノンから日本へ移送されることはない。引き渡しを求めるなら、順番はまず岡本公三の方が先だろう。誰だって言う人は自分で調べて欲しい。亡命を認めて今はレバノン国籍も取ったという岡本公三を保護している国が、元々国籍を所有しているゴーンを引き渡すわけがない。レバノンでは昨年来反政府デモが続いていて、ゴーンを擁護する人ばかりではないともいう。だが、だからこそレバノン政府に強い圧力を加えても、かえって日本に引き渡すことは出来ないだろう。
何でもレバノンの面積は岐阜県程度だという。テレビ番組なのでは、日本を出ても今度は「レバノンという牢獄」を出られないなどと言ってる人がいる。日本の保守派はすぐに「国」「家族」というくせに、ゴーンが自分の祖国に逃げ帰って家族に会いたいという気持ちが判らないのだろうか。僕はこの程度の事件で裁判がどうなろうとあまり関心はない。ゴーンが言ってる日本の司法制度批判に関しては、非常によく判ると思っている。逃げたヤツが何を言うかなどという八つ当たり的反応は間違っている。
ゴーンの逃亡を批判できるとしたら、それは一緒に逮捕されたグレッグ・ケリーだけだろう。一体彼はどこで何を思っているのだろうか。自分を置き去りにして逃げたゴーンに怒っているんじゃないか。まあ、その程度の権力者にくっついていた自分の責任ではあるけれど。ケリー被告は逃げてないんだろうから、今後いつの日か裁判が待っている。特別背任は無関係で、金融商品取引法の従犯なんだから、今さら内容を争わず「すべてはゴーンの指示」とでも言って裁判は早期に終わるんじゃないか。そんな気がするが、ケリーの立場から見たら「ゴーン事件」はどう見えているんだろうか。
