ちょっと前に「ダーク・ウォーターズ」という映画を見た。米国の大企業デュポン社に総額3億ドルの賠償が命じられた公害訴訟を描く社会派良心作である。主役の弁護士ロバート・ビロットを演じるマーク・ラファロが自ら製作も担当して、トッド・ヘインズに監督を依頼した。非常に力強い作品で、見ていて緊迫感もあるんだけど、既視感もある。フィクションなら驚天動地のどんでん返しがあるかもしれない。でも事実をベースにした法廷映画だから、被害者側が敗訴したら映画化されるはずがない。だから作中の弁護士らの苦労は報われるんだろうなと思って見る。そこら辺が弱いところで、2019年の作品だが賞レースには全く絡んでいない。
見た映画を全部書いてるわけじゃないので、映画的にはスルーしてもいいかなと思うけど、ここで書くのは「テフロン」をめぐる事件だったからだ。テフロンって言えば、「テフロン加工のフライパン」である。他には知らないけど、そもそも何? そしてテフロンのフライパンは有害なの? どうしても見ていてそんなことを思ってしまったので、それを調べて書いてみたいと思う。
オハイオ州の弁護士事務所でパートナーに昇格したばかりのロブ・ビロットのところに、ある日見知らぬ男がやって来る。祖母の知人だというウィルバー・テナントという農夫である。飼っていた牛が謎の死をとげてしまい、隣の土地にデュポンが埋め立てた物質が怪しいと思う。州や国の環境保護部局に連絡してもらちがあかないという相談だった。しかし、その段階ではロブはうちは企業側の顧問弁護士ですよというスタンスである。しかし、祖母の知り合いだから、一度は現地を見てみようと生まれ故郷のウエストバージニア州のパーカーズバーグを訪れた。実際に見てみると、牛が歯が真っ黒になって死んでいる。200頭近くの牛がほぼ全滅してしまった。車のラジオでは、もっともわが州らしい曲としてジョン・デンバー「カントリー・ロード」が流れている。
ロブは確信はなかったものの、取りあえず裁判所に資料公開の請求を出した。それは認められたが、会社は嫌がらせのように倉庫いっぱいの膨大な資料を送ってきた。ロブは意地になってその解読に取り組む。もはや他の訴訟を手掛ける余裕はなく、弁護士事務所のお荷物になっていく。給与も減らされていくが、長い時間が掛かって「PFOA」という単語がカギになると気付く。しかし、誰に聞いてもその正体が判らない。やがて判ってきたのは、デュポンは当初から製造ラインで従業員に被害が出ていたことを知っていたのである。そしてそれを知りながら、環境基準が設定される前に有害物質を埋め立ててしまったのだった。
(資料を解読するロブ)
しかし、それだけでは裁判には勝てない。地域住民の健康被害がデュポン社の責任と判断出来るのか。長い時間を掛けた疫学的調査が始まっていく。その間被害者の健康は悪化していくし、自分の家庭も困窮していく。もともと弁護士だった妻(アン・ハサウェイ)はなんとか夫を支えようとするが。事務所では彼の理解者は所長(ティム・ロビンス)だけになってしまうが、所長はこれはアメリカの製造業をよくするための裁判だと擁護する。アン・ハサウェイ(レ・ミゼラブル)とティム・ロビンス(ミスティック・リバー)という二人のアカデミー賞助演賞俳優はさすがの存在感で映画をキリッと締めている。
でもやはり主演のマーク・ラファロの映画というべきだろう。マーク・ラファロと言われても僕はよく判らなかった。「キッズ・オールライト」「フォックス・キャッチャー」「スポットライト」で3回アカデミー賞助演賞にノミネートされていた。また「アベンジャーズ」でハルク役を演じていたと出ている。以上4作全部見てるのに、マーク・ラファロを覚えてない。若い頃に見た映画の俳優はすぐ出て来るのに、最近の人は記憶できないのである。監督のトッド・ヘインズ(1961~)は今までに「エデンより彼方へ」「アイム・ノット・ゼア」で注目されたが、何といっても2015年の「キャロル」が最高に素晴らしかった。
(ロブ役のマーク・ラファロ)
さて、肝心のテフロンだが、物質名はポリテトラフルオロエチレンである。フッ素と炭素だけからなるフッ化樹脂で、化学的に非常に安定した物質で耐熱性に優れている。1938年にデュポン社の研究員ロイ・プランケットが偶然に発見した。その優れた化学的安定性を生かして、最初は軍事的に利用された。映画では戦車の装甲にコーティングすれば、雨の日や泥道などに役立つと言われていた。しかし、ウィキペディアを読むと、むしろ一番役立ったのは原爆の開発(マンハッタン計画)だったという。ウラン濃縮過程で出る六フッ化ウランという腐食性ガスの取り扱いが簡単になったという。
(テフロン)
戦後になって民生用に利用されるようになり、1960年にテフロン加工のフライパンが発売された。安全性という意味では、テフロン自体は安定していて毒性はないようだが、280度で劣化し350度以上で分解するという。普通の調理では出ない温度だが、分解後に出る物質は有害だとされる。一般的には非常に高温の調理は鉄鍋を使うもんだろう。テフロンそのものではなく、製造過程で出るペルフルオロオクタン酸という物質に発がん性があるらしい。デュポン社は従業員に被害が出るなど製造過程で有害な可能性を知りつつ、埋め立てによって地下水汚染をもたらした。そのことが立証され、デュポンは高額の和解金を支払うことになったのである。製造過程で有害物質が出て、被害者は「企業城下町」で黙ってしまう。その構造は先に見た「水俣曼荼羅」とそっくりだった。
見た映画を全部書いてるわけじゃないので、映画的にはスルーしてもいいかなと思うけど、ここで書くのは「テフロン」をめぐる事件だったからだ。テフロンって言えば、「テフロン加工のフライパン」である。他には知らないけど、そもそも何? そしてテフロンのフライパンは有害なの? どうしても見ていてそんなことを思ってしまったので、それを調べて書いてみたいと思う。
オハイオ州の弁護士事務所でパートナーに昇格したばかりのロブ・ビロットのところに、ある日見知らぬ男がやって来る。祖母の知人だというウィルバー・テナントという農夫である。飼っていた牛が謎の死をとげてしまい、隣の土地にデュポンが埋め立てた物質が怪しいと思う。州や国の環境保護部局に連絡してもらちがあかないという相談だった。しかし、その段階ではロブはうちは企業側の顧問弁護士ですよというスタンスである。しかし、祖母の知り合いだから、一度は現地を見てみようと生まれ故郷のウエストバージニア州のパーカーズバーグを訪れた。実際に見てみると、牛が歯が真っ黒になって死んでいる。200頭近くの牛がほぼ全滅してしまった。車のラジオでは、もっともわが州らしい曲としてジョン・デンバー「カントリー・ロード」が流れている。
ロブは確信はなかったものの、取りあえず裁判所に資料公開の請求を出した。それは認められたが、会社は嫌がらせのように倉庫いっぱいの膨大な資料を送ってきた。ロブは意地になってその解読に取り組む。もはや他の訴訟を手掛ける余裕はなく、弁護士事務所のお荷物になっていく。給与も減らされていくが、長い時間が掛かって「PFOA」という単語がカギになると気付く。しかし、誰に聞いてもその正体が判らない。やがて判ってきたのは、デュポンは当初から製造ラインで従業員に被害が出ていたことを知っていたのである。そしてそれを知りながら、環境基準が設定される前に有害物質を埋め立ててしまったのだった。
(資料を解読するロブ)
しかし、それだけでは裁判には勝てない。地域住民の健康被害がデュポン社の責任と判断出来るのか。長い時間を掛けた疫学的調査が始まっていく。その間被害者の健康は悪化していくし、自分の家庭も困窮していく。もともと弁護士だった妻(アン・ハサウェイ)はなんとか夫を支えようとするが。事務所では彼の理解者は所長(ティム・ロビンス)だけになってしまうが、所長はこれはアメリカの製造業をよくするための裁判だと擁護する。アン・ハサウェイ(レ・ミゼラブル)とティム・ロビンス(ミスティック・リバー)という二人のアカデミー賞助演賞俳優はさすがの存在感で映画をキリッと締めている。
でもやはり主演のマーク・ラファロの映画というべきだろう。マーク・ラファロと言われても僕はよく判らなかった。「キッズ・オールライト」「フォックス・キャッチャー」「スポットライト」で3回アカデミー賞助演賞にノミネートされていた。また「アベンジャーズ」でハルク役を演じていたと出ている。以上4作全部見てるのに、マーク・ラファロを覚えてない。若い頃に見た映画の俳優はすぐ出て来るのに、最近の人は記憶できないのである。監督のトッド・ヘインズ(1961~)は今までに「エデンより彼方へ」「アイム・ノット・ゼア」で注目されたが、何といっても2015年の「キャロル」が最高に素晴らしかった。
(ロブ役のマーク・ラファロ)
さて、肝心のテフロンだが、物質名はポリテトラフルオロエチレンである。フッ素と炭素だけからなるフッ化樹脂で、化学的に非常に安定した物質で耐熱性に優れている。1938年にデュポン社の研究員ロイ・プランケットが偶然に発見した。その優れた化学的安定性を生かして、最初は軍事的に利用された。映画では戦車の装甲にコーティングすれば、雨の日や泥道などに役立つと言われていた。しかし、ウィキペディアを読むと、むしろ一番役立ったのは原爆の開発(マンハッタン計画)だったという。ウラン濃縮過程で出る六フッ化ウランという腐食性ガスの取り扱いが簡単になったという。
(テフロン)
戦後になって民生用に利用されるようになり、1960年にテフロン加工のフライパンが発売された。安全性という意味では、テフロン自体は安定していて毒性はないようだが、280度で劣化し350度以上で分解するという。普通の調理では出ない温度だが、分解後に出る物質は有害だとされる。一般的には非常に高温の調理は鉄鍋を使うもんだろう。テフロンそのものではなく、製造過程で出るペルフルオロオクタン酸という物質に発がん性があるらしい。デュポン社は従業員に被害が出るなど製造過程で有害な可能性を知りつつ、埋め立てによって地下水汚染をもたらした。そのことが立証され、デュポンは高額の和解金を支払うことになったのである。製造過程で有害物質が出て、被害者は「企業城下町」で黙ってしまう。その構造は先に見た「水俣曼荼羅」とそっくりだった。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます