豆豆先生の研究室

ぼくの気ままなnostalgic journeyです。

軽井沢・幻のホテル 1・グリーンホテル

2006年03月12日 | 軽井沢・千ヶ滝
 
 これから何回か、ぼくの記憶に残っている軽井沢のホテルを、“軽井沢・幻のホテル物語”と題して、綴りたい。 
 
 1. 軽井沢グリーンホテル
 
 国道18号の中軽井沢駅前交差点の右角に“桐万薬局”という化粧品店がある。
 あるときこの店のショーウィンドウに小林麻美のポスターが貼ってあったので、行きつけだった母親に、あのポスターをもらってきてほしいと頼んだが、もうすでに予約済みだといって断られてしまった。

 その交差点を鬼押し出し方面に右折して道なりにしばらく登っていくと、道路右手に、星野温泉、塩壷温泉、こけもも山荘といった宿がつづき、左手にスケートセンターのテニスコート、西武百貨店千ヶ滝店、東京医大の夏季診療所、藤田肉店などがある。
 この藤田肉店を右に曲がると角には貸し馬屋があり、馬や飼い葉の匂いが漂う奥行き3、40メートルの広くて埃っぽい道の両脇には店を閉じたままの建物が残っていて、西部劇に出てくるゴーストタウンの趣きがあった。少し奥には東京女学館の寮があった。

 さて、鬼押し出しへの道路をさらに上ると、道路正面に山小屋風のとんがり屋根の郵便局が見えてくる。ここを左に曲がると次第に登りがきつくなり、つづら折りの坂道をしばらく行くと、左手にグリーンホテルの白い建物、赤い屋根が見えてくる。
 グリーンホテルといいながら、外壁はグリーンではなく白だったように思う。帝国ホテルと同じライトの設計ということで、フィッツジェラルドの小説にでも出てくるアメリカの小都市の洒落たホテルの雰囲気があった。
 車寄せの脇に赤い郵便ポストがあって、石段を数段登ったところが玄関になる。玄関ホール周辺はあまり雰囲気のない土産物コーナーだったと記憶する。2階か3階にレストランがあり、一度ここでコースをとったらデザートに林檎が丸ごと出てきて、これに厚い刃のナイフとフォークがついてきたので、どうやって食べたらいいのか分からずに困ったことがある。
 ぼくたちの世代は、給食に丸ごとの林檎が出たら、半ズボンで散々こすってぴかぴかに磨きあげてから丸かじりするのが流儀だった。

 ホテルの道路を隔てた反対側には小さな展望台があり、双眼鏡で離山方面が眺められた。その真下あたりがD・キーン氏の別荘だった。
 ホテルの並びには打ちっ放しのゴルフ練習場もあった。ゴルフを始めた叔父に誘われて、ぼくがはじめてゴルフのクラブを握ったのもこの練習場だった。72ゴルフ場がオープンした前後のことである。
 
遠藤周作のエッセイの中に、自分の小学生くらいだった息子にこのホテルのドアボーイをさせているというのがあった。それではと見物に出かけたが、あまり制服の似合っていない太目の小さなドアボーイがいたが、その子だったかどうかは分からない。
 
 西武か国土の経営だから潰れるようなことはないと思っていたのだが、どういう事情があったのか、いつの間にか廃業となり、ホテルの建物はゴルフ練習場もろとも跡形もなく消えて、今はただ雑草が生い茂るだけになってしまった。
 きれいさっぱり跡形もなくなってしまったかつてのグリーンホテル前を通過するたびに、ぼくはスティーブン・キングの世界に迷い込んだ気分になる。

 * 写真はバス通りの西側から見た軽井沢グリーンホテル(1965年の撮影)。

 2006/3/12