豆豆先生の研究室

ぼくの気ままなnostalgic journeyです。

モーム “木の葉のそよぎ”

2006年02月22日 | サマセット・モーム
 
 I found out why the spot had such an unearthly loveliness. Here love had tarried for a moment. ~ It seems to me that the places where men have loved or suffered keep about them always some faint aroma of something that has not wholly died. It is as though they had acquired a spiritual significance which mysteriously affects those who pass. (W.S.Maugham,“Red”)

 1968年、東大に落ちて予備校生となった。駿台予備校の[前文]というのにまで落ちて、四谷にある[前総]というクラスに在籍することになった。四ッ谷駅を降りて新宿通りを丸正の角で左折すると、「シッポまであんこ・・」が謳い文句のたい焼き屋があって、その向かいに校舎があった。

 授業は出たり出なかったりで、迎賓館前の若葉町公園や上智沿いの土手のベンチで小説を読んだりして時間を過ごした。五木寛之の「ソフィアの秋」(最初は「聖者昇天」という題名だった)が載った文春かオール読物の増刊号をわざわざ近くの文春本社まで買いに行ったりもした。 
 あまり真面目な予備校生ではなかったが、奥井潔先生の英語の授業だけは欠かさず出席した。面白かったのはこの1科目だけだった(松山恒見先生の英文解釈もよかった)。
 奥井先生は東洋大学のフランス語の先生という話だったが、駿台では英語を教えておられた。枯れた感じを受けたが、当時はそれほどのお歳ではなかったのだと思う。後にテレビでセンター試験の解説か何かをしておられるのを拝見して、たいへん懐かしかった。

 実は息子たちが通っている武蔵中学高校の英語の先生に奥井先生という方がおられ、奥井潔先生のご子息だという噂を息子たちが聞いてきた。事実なら親子二代にわたり、先生の親子二代から教えを受けたことになる。
 奥井先生のテキストはモームの短編の、そのまた一部を抄録したものだった。残念ながらそのテキストは失くしてしまったので、どんな文章を読んだのか定かでないが、ぼくの記憶のなかでは、モームの達観したような言葉が奥井先生の雰囲気と重なっている。
 ※下の写真は奥井先生の著書「英文読解のナビゲーター」(研究社)。
             

 その後かなりの期間ぼくはモームが好きだった。紺色と草緑色のツートンカラーのカバーがかかった新潮文庫に収録されたものは全部そろえた。
 文庫から落ちたものは、古本屋で新潮社版のモーム全集を見かけたおりに買った。いずれにも入っていないものは英宝社の対訳本や筑摩の文庫などで揃えた。新潮社版の全集は文庫と同じ2色の装丁だが、色褪せたうえに汚れたものが多く、見つけてもあまり嬉しくなかった。話の中身も、文庫から落とされただけあってどれもあまり面白いものではなかった。
 神保町の北沢書店の棚の上のほうに置いてあったハイネマン版の全集をみて、あの紺色と草緑色の装丁の由来を知った。北沢では買わなかったが、あるとき開拓社の隣りの小さな洋古書店(後に確認したところ小川図書でした)の店頭に、ハイネマンの全集がどっと置かれていた。“早稲田大学商学部・某”という印が押してあった。ちょっと興奮したが、モーム熱はすでにかなりさめていたのと、値段がけっこう高かったので、一番好きな“The Trembling of a Leaf”だけ購入した。

 予備校時代に買った新潮文庫の「赤毛」(Red)には随所に傍線が引いてある。18歳の頃はこんなところが好きだったらしい。確かに場所によってはそんな雰囲気を感じるところがある。少なくとも自分が恋をし、悩んだ場所はそうである。
 ハイネマンの115頁、新潮文庫なら87頁にある。

 * 写真は、Heinemannのモーム全集版 “The Trembling of a Leaf” の表紙。本文中の小川図書の店頭で買ったものである。かつて北沢書店の棚の上のほうにあったやつは、黄緑の部分がもっと暗くて青みがかっていて、光沢もあったように思う。
 
 2006年02月22日

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