気ままに

大船での気ままな生活日誌

虫めづる日本の人々 サントリー美術館

2023-09-05 18:47:33 | Weblog

こんばんわ。

六本木のサントリー美術館で”虫めづる日本の人々”という珍しいテーマの展覧会が開催されている。

たしかに日本人は虫好きである。数学者の藤原正彦があるエッセイで書いていたことだが、外国人を自宅に呼んで、庭の秋の虫の声を聴いてもらいながら食事をしていたら、このうるさい音は何だ?と聞かれたそうだ。うるわしい虫の声も欧米人には騒音にしか聞こえないのか、と嘆いていた。

虫の声だけではなく、日本人は蛍狩りも大好きだし、子供の頃はだれも蝶や蜻蛉を追い回し、雑木林にかぶと虫を取りに行き、虫籠で飼育までしたものだ。大人になっても、蝶を追い回す人は多く、養老せんせいのように甲虫類を専門に追い回す人もいる。

こんなに身近な昆虫を文芸や芸術が取り込まないわけはなく、中世の源氏物語や伊勢物語にも登場する。堤中納言物語には”虫めづる姫君”が現れる。ただこの姫君は蝶の幼虫である毛虫の方が好きという変わり者である。

本展では、中世に中国から草虫図が入り、それが拡がり、絵師たちにも拡散していく様子や、前述の伊勢、源氏の物語絵も紹介される。また、”虫文化”は当初、高貴な方のものだったが、江戸時代には一般庶民に広がり、浮世絵などにも描かれるようになる。明治以降も脈々と繋がり、美女と一緒に蛍や秋の虫が描かれる日本画もある。また、ここでは、”うごめく小さな生き物たち”も人々に好かれたとし、蜘蛛、蛙、蛇なども虫に含めている。

次のような章立てになっている。本展は写真撮影は禁止で、ぼくは重たい図録も買わない主義なので(笑)、以下、写真が少ないが、概要を記録しておこうと思う。

第一章 虫めづる国にようこそ
第二章:生活の道具を彩る虫たち
第三章:草と虫の楽園 草虫図の受容について
第四章:虫と暮らす江戸の人々
第五章:展開する江戸時代の草虫図  見つめる、知る、喜び
第六章:これからも見つめ続ける  受け継がれる虫めづる精神

。。。。。

第一章 虫めづる国にようこそ

本章では、虫たちが主人公の物語、きりぎりす絵巻や虫歌合図巻、また蛍や鈴虫、マツムシなどが脇役となっている伊勢物語や源氏物語(賢木)の場面が開かれている。また、嵯峨野の野々宮は光源氏がお忍びで六条御息所を訪ねた場所だが、庭のマツムシ(鈴虫)がしのばれる野々宮蒔絵硯箱などもここ。きりぎりすを歌に詠んだ西行物語もここ。前述の堤中納言物語も虫めづる姫君のページが開いている。

きりぎりす絵巻(部分)住吉如慶 二巻のうち 江戸時代 17世紀 美しい玉虫姫をめぐる、蝉の右衛門督や、きりぎりすの紀伊守、蜩の備中守などの虫たちによる恋愛物語。頭だけが虫であとは人間の姿になっている。

第二章:生活の道具を彩る虫たち
 
江戸時代を中心に、生活に用いる道具類、酒器、染織品、簪などの身近な道具に、文様として、蝶、蜻蛉、鈴虫、蜘蛛など様々な虫たちがあしらわれてきた。とりわけ蝶は、散らし模様として意匠化しやすいこともあり、着物などの文様として幅広い発展を遂げた。これら作品が展示される。

舞踊図 蜻蛉 江戸時代 17世紀

白綸子地梅に熨斗蝶模様打掛 一領 江戸時代 19世紀 

鈴虫蒔絵銚子 江戸時代 17世紀

第三章:草と虫の楽園 草虫図の受容について

中国で成立した画題の草虫図、ここでは南宋、元、明の時代の作品と、これらを受け入れた室町時代の日本の画家の作品が展示されている。

重文 竹虫図 (伝 趙昌) 一幅 南宋時代 13世紀

重文 草虫図 双幅 元時代 14世紀

第四章:虫と暮らす江戸の人々

本章では、江戸時代、蛍狩、虫聴が娯楽として広まり、やがて江戸の年中行事として息づいていく様子が紹介される。

夏姿美人図 喜多川歌麿 一幅 寛政6~7年(1794~95)頃 足元に団扇と小さな虫籠が置かれている。これは薄布を貼った蛍籠。お化粧している娘さん、蛍狩りはどなたと行かれるのかな。

夜商内六夏撰 虫売り 三代歌川豊国(国貞)

第五章:展開する江戸時代の草虫図  見つめる、知る、喜び

江戸時代は本草学が発展した。特に18世紀以降、八代将軍徳川吉宗による洋書の輸入制限の緩和、全国的な動植物の調査などにより、優れた博物図譜が制作されるようになった。そして、この学問の進展が狂歌や俳諧などの文芸と結びつき、歌麿の『画本虫撰』のように優れた狂歌絵本が生み出された。一方で、中国から伝来した草虫図も尊重され、西洋技術に影響を受けつつ、草虫図という枠組みを越えた多彩な虫の絵が制作された。伊藤若冲、酒井抱一、喜多川歌麿、葛飾北斎などこの時代を代表する絵師たちが虫をモチーフとして取り上げた。

重文 菜蟲譜(部分)伊藤若冲 一巻 寛政2年(1790)頃

画本虫撰(部分) 喜多川歌麿 二冊のうち下 天明8年(1788)

虫豸帖(部分)増山雪斎 四帖のうち「夏」 江戸時代 19世紀

南瓜花群虫図 葛飾北斎 江戸時代 天保14年(1843)

第六章:これからも見つめ続ける  受け継がれる虫めづる精神

明治時代以降も虫たちは頻繁に美術作品のモチーフになった。江戸時代に年中行事として人々の生活に溶け込んだ虫聴、蛍狩は、明治時代以降より一層広がっていった。この”虫文化”は当時日本を訪れた小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)などの海外の人々を大いに驚かせたようだ。。現代において多少、人気は衰えたが、蛍狩、虫聴はつづき、虫を見つめる手法はより進化を遂げ、今も絶えず新しい表現が生み出され、虫めづる精神は脈々と受け継がれている。

甜瓜図 土田麦僊 一幅 昭和6年(1931)

むしの音(上村松園)大正3年(1914)頃

虫の音 鏑木清方 昭和22年(1947)(これは後期出展だが特別出演

とても面白い展覧会でした。

では、おやすみなさい。

いい夢を。


フラセン瓢箪展より

 

コメント (4)
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