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【cinema】『ベンジャミン・バトン~数奇な人生~』(試写会)

2009-02-02 00:15:26 | cinema
'09.01.19 『ベンジャミン・バトン ~数奇な人生~』(試写会)@よみうりホール

yaplogで当選。ブラピ舞台挨拶つき試写会も応募したけど、こっちが当たってことはハズレだな(涙)しかも家に帰ったらシネトレからも試写状が届いてた。その日は旅行中で日本にいない。ということで、そちらは代わりにMッスに行ってもらうことにした。シネトレさんすみません

「高齢となり死の床にあるデイジーは、付き添いに来ている娘のキャロラインにある人の日記を読んで欲しいと頼む。日記の主はベンジャミン・バトン。老人として生まれ、成長するにしたがって、どんどん若返っていくという数奇な人生を生きた人物。次第に明かされる彼の生涯。そして母デイジーとの関係…」という話。知らずに見たんだけど、これはF・スコット・フィッツジェラルドの短編小説の映画化だった。フィッツジェラルドと言えば「グレート・ギャツビー」で、これは映画『華麗なるギャツビー』としての方が有名かも。1974年製作のこの作品の主演はロバート・レッドフォード。ブラピの出世作『リバー・ランズ・スルーイット』の監督がロバート・レッドフォードで、この時ブラピはレッドフォードの再来(健在だけど…)と言われて大ブレイクしたのだと思う。そう考えると、ちょっと感じるところがあったりする。まぁ、あまり関係ないのだけど… 原作を読んでいないので何とも言えないけれど、どことなく耽美で退廃的な感じがするのは、フィッツジェラルドならでわなのか?と思ったりもする。

話としてはベンジャミン・バトンという人物の一生ということになるのだけれど、とにかく彼自身が普通ではない。別にベンジャミンの一生として見ても、それなりに楽しめそうな感じもするけど、彼を通常とは逆の時間の流れで生きる人物としたことで、より時間の大切さ、誰のもとにも訪れる老いそして死について、素直に考えることが出来る気がする。ただ、特異な人物である主人公が、不思議がられながらも受け入れてくれる人がおり、生来背負ったハンデ以外は逆に結構恵まれていて、もちろん本人の努力もあるけれど、いつも誰かに救われたりする。そんな主人公に絡めて反戦や政治的な事をどこかユーモラスに描く感じは、どこかで見た気がすると思ったら脚本が『フォレスト・ガンプ』のエリック・ロスだった。正直『フォレスト…』はあまり好きではない。知的障害者フォレストがその真っ直ぐさで起こす様々な奇跡をお伽話的に描きつつ、反戦を訴える感じが自分にはあまりしっくりこなかった。この作品も少し同じ感じはしたけれど、主人公の設定のあまりの荒唐無稽さと、どこか退廃的な感じ、そしてベンジャミンが自分の運命を自覚している事が上手く作用して、逆にうそくさい感じがなくなっていたように思う。

前にも書いたけど原作は未読なので、実際はフィッツジェラルドがどんな意図でこんな運命を背負った主人公の話を書こうと思ったのかは分からない。でも、人は誰でも生まれた瞬間から死に向かっているし、そして年を重ねるごとに老いていく。それは怖いことだし悲しいこと。事実私も怖い。そして世界中に不老不死にまつわる物語があるということは、きっと皆そうなのでしょう。では死は避けられないとして、年を取るごとに若返っていくのはどうだろうか。この映画によれば必ずしもよいわけではないようだ。人は"若さ"に憧れたり、執着する傾向にある。それは単純に生命力に溢れているだけではなく、経験や知識の不足ゆえの無邪気さや無鉄砲さなんかもあるのかもしれない。勢いとうか… でも逆に経験を積んだからこそ見えてくる世界もある。たしか『ストレート・ストーリー』だったと思うけれど、主人公の老人に若者が「年を取るのはどんな感じか」と尋ねるシーンがあった。主人公は「記憶の積み重ねだ」と答えていた。楽しいことも、辛いことも背負って生きていく。記憶を積み上げて心もいっぱいになって、ほどよく疲れているのに体ばかり若くてもどうなのだろう。何より辛いのは気持ちと体が一致しないこと。そう考えると、経験を積んで老練し、穏やかになっていきながら、肉体もゆっくりと衰えていくのがいいのかもしれない。徐々に自覚できるし。

などと、いろいろ書いてみたのはフィッツジェラルドの言いたかったのはこうではないかと思ったこと。この映画自体が言いたいことは、いくつになっても困難な状況でも諦めるなということなんだと思う。そして、どんな人でも愛されるべきであるということ。正直に言うとその辺りの描写は少々ご都合主義的な感じがして、あまり心に響いてはこなかった。多分、この脚本家と感性が合わないんだと思う。ヒドイ脚本だと言うつもりはない。むしろ感動する人は多いと思う。2時間47分とかなり長いけど飽きずに見れた。このあたりはデビット・フィンチャーのスピード感ある演出と出演者の演技によるものだと思う。ただ、その割に心に残らなかったりするのだけど…

主演はブラッド・ピット。ブラピは最初は演技を評価されて出てきた印象だけど、いつの頃からか"ブラピ様"みたいな位置付けになってしまい、あまり演技力を必要としないような娯楽作ばかりに出ている気がする。本人の意志なのか周りによるものなのか… まぁ、どちらもだと思うけれど、個人的にはあまりタイプではないので、美しいと思ったこともないし、むしろその事だけで騒がれている人という偏見もあった。このベンジャミン・バトンは特殊な役ではあるけれど、内面的に複雑な人物ではないので、特別難しい役とは思わないけれど、その外見から老人だと思われているのに実は子供という感じは良かったのではないかと思う。ずっと無邪気でいられたけれど、愛する人や守るべき人を得た時、初めて自分の運命と向き合う辺りの演技は、その演出も含めて少し物足りない気がしないでもないけれど、抑えた感じでよかったと思う。ただ全体的に特別ブラピじゃなくてもいいんじゃないかと思っていた。少し若返ったベンジャミンを回想するデイジーが「彼は美しかった」と言った時もそうは思わなかった。でも、おばさんになったデイジーのもとに現れた青年の姿のブラピを見た時納得。それほど美しく哀しい姿だった。

ベンジャミンの初めての恋の相手役でティルダ・スウィントンが出ていたのが嬉しかった。ティルダは好きな女優さん。このティルダとのシーンは退廃的でよかった。ロシアのホテルという設定だけど、それはあまり伝わらないし、何故ロシアなのかも謎。でも、夫の仕事に付き添って旅を続ける生活にも飽き、退屈し、空虚感を抱えた彼女が、ベンジャミンと夜中語り合うひと時にときめく気持ちはよく分かる。初めは警戒し距離を置くけど、次第に心を開き、そして恋に落ちる感じが自然でいい。夫人はもう若くはない。自分より年上に見えるベンジャミンに依存するわけでもなく、あくまで主導権を握ってる感じが、実は内面はまだ恋愛経験のない若者である彼のぎこちなさを際立たせつつも、2人の関係の違和感をなくしていたと思う。この恋は突然終わるけれど、その引き際も見事。一歩間違うと自分勝手だけれど、そうはなっていない。このエピソードはよかった。

老人ホームに捨てられたベンジャミンを、神からの授かりものと育てるクイニー役のタラジ・P・ヘンソンがよかった。まだ差別の残るニューオリンズの老人ホームで働く黒人女性。子供ができず悩んでいた時ベンジャミンと出会う。実の父にも見捨てられたベンジャミンに愛情をそそぐ肝っ玉母さんぶりがいい。船長もよかった。いい加減な酒飲みだけど憎めない。ベンジャミンはクイニーから母の愛情と、船長から父の愛情をもらったのだと思う。実の父も後に登場するけど、心の中では船長が父だったと思う。船長は事情を知らないから、そんな自覚はないと思うけれど。人に自然に接するだけで、その人を救うこともある。

そして何と言ってもデイジーのケイト・ブランシェットが素晴らしい。この映画ケイトが出ているから見に行った部分が大きい。10代の少女から死にゆく老婆まで演じきった。あのバランシンにも認められたバレリーナ。多分、遠景でのバレエ・シーンは吹き替えだと思うけれど、アップは実際踊っているっぽくて、動きが美しい。バレエ経験があるのかな? ピルエット(回転)で顔をつけるのは結構大変なのだけれど… 若い頃の奔放な感じと、ベンジャミンと再会してからの2人の幸せな感じもいいけれど、若返った彼と再会するシーンの演技が素晴らしい。幸せの絶頂で、幸せだからこそ訪れる悲しみを乗り越え、自らの居場所を築いた頃、老いた身を恥ながらも身をまかせる感じがいい。そしてお互いの晩年。ベンジャミンの運命よりもデイジーの強さに心打たれた。このケイト・ブランシェットは見事。

ベンジャミンが生まれた1918年から、時々現在の病室に戻りながら、亡くなるまでを一気に見せる。ベンジャミンが少年時代(体は老人だけど)を過ごしたニューオリンズがいい。ベンジャミンの実家となる老人ホームは時代を越えて度々登場する。このホームの周りはいつも晴れている印象。それは良かった。2人の心がすれ違うパリとニューヨークの感じもいい。ここのケイトの衣装は好き。あとロシアのティルダの衣装も良かった。

クイニーの無条件の愛情、実の父が果たす役割、晩年のベンジャミンなど、ご都合主義的な部分もあるし、時々差し込まれる笑えるシーンなど語り口全体がお伽話的だったりと、しっくりこない部分も多い。でも冒頭のセントラル・ステーションの時計のエピソードでも分かるように、これはお伽話なんだと思う。なので、そのように楽しめばいいのだと思う。そういう意味では、しっくりこない部分を補う役者達の演技でギリギリ気にならず、楽しめた。時計のエピソードが持つ意味とか、デイジーが事故に遭うまでのシーンとかは好きだった。人生は「もしもあの時」という事の積み重ねだから。

長々書いた(笑) 特別感動という事はないけど、楽しかった。少しあざといけれど感動を誘う台詞もたくさんある。単純に私がしっくりこないだけ。長いけど飽きないし、よくまとまっていると思う。ブラピ目当てだと前半かなり辛い姿だけど、ラスト近くとびきりステキな姿で現れるのでお楽しみに。

ホントはもっと早く感想を書かないといけなかったのだけど、遅い夏休みでバリ島に行っていたもので遅くなってしまった(涙)


『ベンジャミン・バトン ~数奇な人生~』Official site

コメント (4)
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