・*・ etoile ・*・

🎬映画 🎨美術展 ⛸フィギュアスケート 🎵ミュージカル 🐈猫

【cinema】『抱擁のかけら』(試写会)

2010-02-05 00:17:00 | cinema
'10.01.28 『抱擁のかけら』(試写会)@一ツ橋会館

yaplogで当選。いつもありがとうございます。ノーマークだったけど、試写会募集記事を見たらペネロペ・クルス×ペドロ・アルモドバルだったので即応募! 見事当選したので、バレエのお稽古サボって行ってきた。

トークイベントつきとのことで、楽しみにしてた。登場したのは山本モナ。うーん。特別好きでも嫌いでもないし、スキャンダルばかり起こしているのも、トーク中の彼氏いる発言も、正直あまり関心がない(笑) たぶん、映画のイメージから"恋多き女"つながりなんだと思うけど… というわけで、ネタバレをさけつつのトークも、そんなに盛り上がらず、個人的にはグッとこなかった。でも、遠かったので、あんまりよく見えなかったけど、映画のテーマカラーでもある赤の衣装で現れた姿はスタイル良くてキレイだった。おしまい(笑)

*ネタバレありです

「盲目の脚本家ハリー・ケインの元にライ・Xと名乗る男が仕事の依頼にやって来る。この依頼を断わり彼を帰えした後、ハリーから彼と面識があることを聞かされる助手のディエゴ。ハリーのエージェントである母親に、ライ・Xのことを話すと酷く動揺する。不審に思い尋ねても、母は答えてくれない。そんな時、不慮の事故で病院に搬送されたディエゴを見舞ったハリーが、彼に語り始める…」という話。これはアルモドバル映画だなという感じ。上手く言えないけど、全編を通して、生と死、性が描かれている。そして、様々な形の"愛" それはエゴであり、欲情であり、そして無償の愛だったりする。最終的に描きたいのは、傷つき苦しんだ末に辿り着く"赦し"という意味での愛なんだと思うけれど、そこに至るまでに登場人物たちが辿る軌跡は辛い。そして痛い。だからもう、見ている間は辛かった(笑) でも、やっぱり美しいと思ってしまう。

冒頭、ハリーの語りから始まる。本名はマテオだが、ある時からハリーになった。視力を失ったハリーは冒険家から転身して、脚本家になったというような主旨の事を語る。その間、ハリーの日常が描かれる。道で手を貸してくれた美女に新聞を読んでもらい、そしてその後… 彼のエージェントであるジュディットがやって来て、小言を言いながらも細々世話を焼く。この時点では、ジュディットが彼と個人的にどういう関係なのか分からない。冒頭のこの部分は導入部であり、今後の伏線でもあるので、この感じは上手い。ジュディットは彼と部屋にいた若い女性の間に何があったのかハッキリ分かった上で、彼の部屋をかたずけたり、買ってきた食料を冷蔵庫に入れたりする。かいがいしく世話を焼いているわけでもなくて、なんとなく習慣のような… 別れた妻みたいな感じ。彼女にはいろいろ秘密があるけど、そのうちのいくつかの伏線はここにある。彼女は、ハリーに苦言をていするけど、それはいい年して若い女性を引き込んだからじゃない。盲目のハリーが見知らぬ人を家に上げるのは危険だということ。そういう関心のしめしかた。それに対してハリーは、失うものは何もないと答える。何だかイヤなオヤヂだと思っていた彼に、何があったのかと気になるこの導入部はいい。

映画の脚本の依頼に来たライ・Xは、短く刈り込んだ髪にヒゲ、カジュアルでありながらきちんとした服装。ゲイである自分を認めず、自分の人生をダメにした父親に復讐する映画を撮りたいと言う。断っても粘る彼は、ひたむきなのではなく、何か病的な陰湿さを感じる。ゲイであることが認められなかったため、2度も結婚し自分を憎む子供が2人いる。全て父親のせいだし、この気持ちはハリーなら理解してもらえるはずだと言う。そしてハリーは彼が誰なのか悟る。エルネスト・マルテルの息子だと。この部分にもいろいろ伏線がある。このちょっとキモイ男のこの不審行動も、実は意味があるし、おそらく最終的には彼なりの謝罪であり、彼なりには決着が着いたということなんだと思う。いずれにせよハリーにとっては今さらだけど、彼としてもきっかけはどうあれ、はき出してしまわないと救われなかったかもしれない。

ハリーの話が始まる前に、もう一人の主役レナのエピソードが挿入される。社長秘書として働く彼女には、末期ガンの父親がいる。バカンスに行くからと退院させられてしまった父親を、別の病院に入院させるお金はない。どうやら、この入院費も彼女が夜の仕事で稼いだものらしい。全身グレーの地味なスーツで、生活に追われやつれていても、なんて色っぽいんだろう… この、不幸になるほどにどんどん色っぽく、ますます美しくなって男心を刺激しちゃうことが、彼女にとって最大の不幸でもある。秘書である彼女が仕えているのが社長のエルネスト・マルテル。どうやら以前客として面識があるらしい彼には、ハッキリとした下心がある。レナも母親もそのことは十分承知しながらも、目の前で血を吐く父親を放っておけない。こんな場合いったい誰が悪いのか… まぁ、エロジジイだけど(笑) 父親を入院させた後、彼女を促すエルネストに対し、母に向かって一緒にいなくていいか尋ねるレナ。大丈夫だと答える母。この瞬間にレナの運命は決まった。見送る母の顔が辛い。でも、娘を売った母でもある。壮絶。でも、こんな話はいくらもあるんだろう…

そして、ハリーは静かにディエゴに語り始める。それは今から14年前、ハリーがマテオだった頃の話。彼は脚本家であり、映画監督だった。新作コメディー『謎の鞄と女たち』のオーディションに現れたのが、今ではエルネストの愛人として暮らすレナ。取り次いだジュディットから"美し過ぎる女"だと言われたレナは確かに美しく、彼は一瞬で恋に落ちる。ちなみにこの映画のベースになっているのは、アルモドバル監督の『神経衰弱ぎりぎりの女たち』 この映画は未見。見たことある人はニヤリなのかも。主役に抜擢されたレナは、以前から女優志願。マテオの期待に応えて、いい演技をし、現場も活気溢れる。唯一、レナを出演させるにあたり、自らプロデューサーとなったエルネストが、監視役の息子に回させるカメラが現場のリズムを乱している。初めはそんなに気にしていなかった彼が、レナとマテオの間に秘密が生まれると、迷惑で執拗なものに感じてくる。父親に忠実なダメ息子に感じるけど、この行動も彼がゲイであることを考えると、別の側面があるようにも思えたりする。彼はそんなにバカでも、キモイ人物でもないのかも。これは後の伏線でもある。この伏線は2つの事実に繋がって行く。見ている間はイライラしてたけど、見終わって見えてくると見事かも。ただ、2つの理由からレナに嫉妬していたのは間違いないので、結果的にあの日とうとう彼女がキレて、カメラの向こうの人物と向き合わせることになるほど、しつこかったのは確か。撮影に立ち会えないエルネストが、彼女を監視する目的。いくら支配的な父親に命じられたとはいえ、どこまで撮るかは彼のさじ加減。じゃまにされながらも撮り続けるのは、彼の異常性なのかと思ってたけど、父親に対する復讐もあるのかも。

異常なのは彼の父親。お金の力でレナを手に入れ、自分のものにしたけど、初めから彼など愛していないレナが退屈するのは時間の問題。女優になりたいという愛人の夢を叶えるというと、才能もないワガママ女に振り回されるバカオヤヂパターンか、彼女の才能を認めて育てる素敵なおじ様パターンが映画で見かける代表か思うけど、彼はどちらでもない。彼は彼女を女優になどしたくない。でも、彼女には才能と情熱があった。でもそれは、彼にとってはどうでもいいこと。そもそも"レナ"を愛したわけじゃない。だから本当には彼女のことを見ていない。彼は彼なりに愛しているのは間違いないけど、やっぱりそれは"愛"じゃない。自分がこんなに好きなのに、どうして振り向いてもらえないのかと思うことはある。でも、自分がこれだけ愛しているのだから、思いどおりになってくれるのが当然だと思うのは、ただのワガママだし、駄々っ子だろうと。レナとマテオの会話を読唇術で読み取らせるのにはビックリ。そして、出て行くというレナを階段から突き落とす。完全なDVだけど、駄々っ子という印象。まぁ、DVする人はきっと駄々っ子なんでしょう。自分の思い通りじゃないと気に食わないのだから。

ただ、この駄々っ子エルネストと、その息子の異常な監視のおかげで、レナとマテオの関係は急速に進展してしまう。2人が激しく愛し合っている場面ばかりが映し出されて、精神的な結び付きを感じるシーンが少なくて、なんとなく女子として腑に落ちない部分も感じたりする。大嫌いな男に肉体的に支配されている場合、本当に愛する相手には精神的な繋がりを求めるんじゃないんだろうか。でも、その辺りのことはラストでスッキリ腑に落ちる仕組み。そして、冒頭のマテオと美女、レナとエルネストの絡みでは、体だけでなく顔すら映さないのに、2人が愛し合うシーンではペネロペの美しい裸身や恍惚の表情を映し出す。そういう部分が作用して、2人が本当に愛し合っていることが伝わってくる。再び暴力をふるわれたレナとともにランサロテ島へ逃げる。つかの間、幸せな時を過ごす2人は、穏やかな表情。ソファーでテレビを見ながら、抱き合いながら死にたいと語るレナが切ない。でも、幸せは長く続かない。『謎の鞄と女たち』が何者かの手によって完成し公開され、批評家から酷評された記事を目にする。1人マドリードに戻ることにしたマテオを見送るため、車で出かけた2人に悲劇が… レナと光を失ったマテオが浜辺に佇む後ろ姿が辛い。全てを失ってしまった。

マテオの話はここで終了。ここからはジュディットの告白になる。あまり書いてしまうのはどうかと思うし、勘のいい人ならなんとなく分かると思うけど、それはエルネストの復讐。しかし、ホント幼稚。そしてジュディットにはもう1つ秘密がある。これも、冒頭からの彼女の態度をずっと見てたら分かること。そして、全てを聞いた(正確には全てじゃないけど)マテオはライ・Xこと、エルネストJrと対峙する。あれは本当に事故だったのか… 最後までサスペンス・タッチなのも飽きさせない。ライ・Xが彼に見せたかった映像を彼は見ることができない。事故直前の2人の姿が美しい。レナは幸せなまま逝った。

そしてラスト、マテオはジュディットが大切に守っていたフィルムを元に、14年ぶりに『謎の鞄と女たち』を完成させる。ディエゴと共に。全て聞いたわけじゃないけど、多分彼は知ってた。彼は全てを失ったわけじゃない。そして彼とディエゴによって蘇ったレナがとってもキュート。レナの違う一面。もちろん彼女が演じてる役の女性なので、ホントの彼女とは違うと思うけど、レナにとってはすごくうれしいと思う。女優としても1人の女性としても。このラストは感動。

キャストはみんな良かった。ライ・Xのルーベン・オチャンディアーノのキモくて怪しい感じが、この作品をサスペンス調にしていたし、ホセ・ルイス・ゴメスの駄々っ子エロジジイぶりが見事! 大嫌い(笑) でも、彼が見事に駄々っ子エロジジイだったおかげで、2人の悲恋が際立ったのは間違いない。ディエゴの素直な若者らしさが全体を通して救いになっている点では、タマル・ノバスも良かったと思う。そして、読唇術の通訳の女性役で『ボルベール(帰郷)』のあの、平凡でちょっと鈍感な、でも憎めないお姉さん役の人! 今回も愛人の不貞でキリキリするエルネストの隣で、淡々と通訳する女性を好演、とぼけた感じがおかしい(笑)

マテオは最初は頑固そうなエロジジイ・・・ と、思って少々げんなりしてたけど、ちょっと若返ってからは少しだけ素敵に。愛する人が足の骨を折られたというのに、その太ももにキスをして、その唇はどんどん上へ。そんな場合じゃないだろう!と腹が立ったし、マテオが彼女を本当の意味で愛しているのか、レナの女性的な魅力に目がくらんでいるだけなのか、最初のうちは分からなくて、あんまり彼のことを好きになれなかった。正直、そんなに魅力的な男性にも思えなかったし。でも、全てを失った後の浜辺の後姿はスゴイ! このシーンは泣けた。ジュディットのブランカ・ボルティージョが素晴らしい。冒頭での距離感のある世話焼きぶりも、マテオがレナに夢中になっていくのを見つめている感じにも、2人はかって恋愛関係にあったこと、彼女はまだ彼を愛していることが伝わってくる。でも、それはちゃんと変化している。そこに14年の歳月を感じる。彼女が背負うことになった秘密のうち、1つはこの嫉妬から生まれたもの。それが腑に落ちるのは、表情できちんと伝わっていたから。そして激白・・・ このシーンは辛い。この告白は自己満足なんじゃないのかとも思うけれど、本当の自己満足は告白しない秘密の方だから、やっぱりこれはマテオのためにしたことなんでしょう。彼女も『ボルベール(帰郷)』に出ていた。あの主人公の母を執拗に疑う女性だったと思う。あれもすごかったけど、この演技はスゴイ。シミも隠さない熱演は必見。

そして、ペネロペ・クルス! なんて魅力的なんだろう。美しいけど完璧な美女かっていうと違うと思う。彼女より整った顔立ちの女性はいる。でも、なんだろう・・・ 女というか・・・ すごく色っぽくて妖艶。でも下品じゃない。愛人になっていない時から、この映画の中でレナはずっと追い詰められている。その追い詰められた美しさがスゴイ。正直、お金を稼ぐ手立ては夜の仕事や、愛人になる以外にもあるだろうと思うし、なんでそんなに激情的なんだと、いろんな面で思うけれど、それでもレナが魅力的で、こんな女性なら、こんな風に愛されてしまうのは仕方ないんじゃないだろうかと思ってしまう。これはペネロペ以外にあり得ない役。確かにマテオは失明してしまったので、あの日以来どんな女性の姿も見ていないし、記憶の中にのみ存在しているとはいえ、14年間思われ続ける女性であることに説得力がある。強くて弱い、激しくてもろい、妖艶で可憐。カメラテストでのオードリー風、マリリン・モンロー風のコスプレがかわいい。チラシの振り向き顔はまさにオードリー。こんなに似てると思わなかった。あえて、これがチラシっていうことがレナという人を表している。

とにかく見ていていい気持ちはしないし、意外にサスペンスだったり、伏線がたくさんあって追うのが大変だったりするけど、ラスト完成した映画のレナの姿を見れば、2人が本当に愛し合っていたことが分かる。その感じはいい。そしてアルモドバル独特の映像美。マテオの家のスタイリッシュな感じもいいし、レナとエルネストのゴージャスだけど品のない家、そしてちょっと安っぽいけど、レトロでかわいいランサロテ島のコテージが、それぞれの人や場面を象徴している。テーマカラーの赤はほとんどの場面で使われている。

切なくて美しい、そしてちょっと毒のある映画だった。辛いけどやっぱり好き。ペネロペの美しさを見るだけでも見る価値あり!


『抱擁のかけら』Official site

コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする