『パーマネント野ばら』DVD鑑賞。
公開時気になっていたけど見逃してた。映画は観たいけれど、震災以降なんとなく映画館に行くのが怖い… ってことで、TSUTAYAでレンタルして、引きこもり鑑賞会を開催!
*ネタバレぎみ(笑) 一応オチは隠しました!
「離婚して故郷に戻って来たなおこ。母親が経営するパーマネント野ばらを手伝いながら、娘を育てている。男運の悪い友人達の世話も焼きつつ、自分は密かに高校教師のカシマとつき合っていた…」という話。これは良かった。淡々と進む中にもメリハリがあったし、大袈裟であざとくなりがちなシーンも、出演者の好演もあってウザいことにはなっていない。オチ部分が重要で、それを知ると今まで見ていた世界がガラリと変わるので、知らない方がいいと思う。とはいえ、自分は知っていたけど、やっぱり感動した。
原作は西原理恵子。未読なので、どのくらい忠実なのかは不明。映画では舞台となっている海辺の町が、具体的にどこであるという提示はなかった気がするけれど、ロケは高知県で行われているし、出演者達も土佐弁を話す。西原理恵子の出身地が高知県なので、監督がこだわったとのこと。小さな町で、強がって生きる女達の切なさをコミカルに描く作品なので、それはすごく効果的だったと思う。別に土佐弁が強がっててコミカルだというわけではないけど(笑) そして、やっぱり言葉ってアイデンティティだと思うし。
これは男運の悪い女性達の話。なので男性は基本的にダメ男。浮気相手の家に入り浸って帰ってこない、なおこの義父はまだしも、浮気を繰り返し、なおこの親友みっちゃんに轢き殺されそうになっても、まったく反省しないダンナ、ギャンブルにはまり、暴力を振るいお金をせびる、こちらもなおこの親友ともちゃんのダンナなど、ホントに最悪な男達ばかり(笑) キャバクラのママであるみっちゃんが、ほぼそのヒモ状態のダンナの浮気に怒り爆発して暴挙に出てしまうのはまだしも、地味な事務員のともちゃんが次から次へとダメ男をつかむ男性遍歴は一体どういうことかと思うけれど、「ダメ男でも彼氏がいた方がいい」と言われてしまえば、なるほどと思ったりする。上手く言えないけど、別に呆れてるわけでも、もちろん共感しているわけでもない。個人的にはこんな恋愛はイヤだし、そもそも彼氏じゃないんじゃないかとも思うけれど、人の恋愛観はそれぞれ。本人がよければそれでいいんだと思う。犯罪に走ったり、人に迷惑をかけなければ…
そういう意味ではみっちゃんのしたことは間違いなく犯罪だと思うけれど、警察沙汰にはならなかった様子。被害者が訴えなかったからでしょうけれど、そういうのをサラリとなおこのセリフだけで伝えてしまうのが上手い。前述のともちゃんのダメ男遍歴にしても、モンタージュ形式でコミカルに見せられるので、ジメジメしていないから、「だったらいいじゃない(笑)」と思えてしまう。
恋愛がドロドロしているかの度合いも人それぞれかと思うけれど、この2人のドロドロ恋愛をサラリと描く一方で、なおことカシマの"普通"の恋愛が描かれていく。理科の教師をしているらしいカシマとなおこが会うのは、ほとんどが放課後もしくは昼休みの理科教室。2人の関係は秘密の香がする。実はこの辺りのことは、全て伏線となっている。この見せ方は上手い。2人の恋愛はとっても自然で、あまり自分の感情を見せないなおこが、カシマにはごく自然に甘えている感じがすごくいい。あぁ分かるって思うし(笑) トンネル内でカシマのビーサンの鼻緒が切れて直しているのをなおこが覗き込んで、その横顔をカシマが見つめてキスとか! うーん。恋したくなる(笑)
でも、この2人のシーンが美しければ美しいほど、オチが分かった後の切なさが増してくる。何故2人の関係は秘密めいていたのか、何故いつも理科教室なのか… 見ていたことは別として、実際はどうだったのか… なおこは、前述したみっちゃんとともちゃんだけでなく、母親が経営するパーマネント野ばらに大仏パーマをかけにくるオバちゃん達が、いつも下ネタを繰り広げ、騒動を起こすたびに、一歩引いたスタンスでいながら気づけば巻き込まれて面倒をみている気がする。面倒見の良さは姐御肌というか、男前な母親の影響もあるかもしれないけれど、むしろ逆に受け身な印象。でも、そんななおこがカシマと2人のシーンでは控えめながらも積極的で、それがすごく色っぽい。男の人は好きだろうなと思っていたら… いろんな女性達の恋愛を通して女の性(さが)みたいのを見てきたけれど、実はなおこの情とか業が一番強かった。女達の恋愛話から一歩引いていたのは、離婚したばかりだからでも、新しい恋を密かに始めたからでもなくて、ずっと心に秘めた恋愛の中にいたから。決して結ばれない…
一番落ち着いて安定しているように見えるなおこが、一番危うかったのだと気づいた瞬間に、それまで見ていた世界がガラリと変わる。なおこに迷惑ばかりかけているように見えるみっちゃんやともちゃんも、一見サバサバと突き放しているような母親も、下ネタだらけの大仏ヘア達も、実はなおこを見守っていたのだということが分かる。これはなおこが寂しくてたまらないと泣き叫ぶシーンの答えになっているのだとも思うけれど、実際このシーンよりも、その事実の方が切なかった。そういうことを母親の表情の変化やともちゃんやみっちゃんのさりげないセリフだけで伝えるのがスゴイ。
そして3人がまだ幼かった頃の自転車のエピソードが生きてくる。なおこが義父に新しい自転車を買ってもらって3人で走るシーン。最終的にはともちゃんとみっちゃんが取り合って、無人の自転車が坂を下って行ってしまい、トラックにぶつかってしまうので、見ている時には、なるほど当時からそういう関係なんだと思いながら見てたけど、実はその前に2人がどんなに待ってとお願いしても、ニコニコしながらどんどんこいで行ってしまうシーンがあった。見ている時はありがちな子供達の風景だと思っていたけど、よく考えてみるとふざけているのとも違った気がして、実はなおこは自分の世界に入りがちなタイプだということの伏線だったんじゃないかと思うのは考え過ぎかな… でも、そういう何気ないシーンだったり、みっちゃんのお父さんが電柱切り倒しちゃったりする過激なシーンが、サラリとコミカルに展開するけど、後から切なさがくる感じでいい。
とにかくキャストがよかった。ともちゃんの池脇千鶴が上手いのは知っていたけど、なおこが不審に思うきっかけとなる「何度でも聞いてあげるよ」がすごくいい。これも真相を知ってからグッとくるセリフなので、サラリとしつつ見ている側にも何か感じさせないといけない。なおこは"何度も"ともちゃんに話しているわけだけど、ともちゃんはそれを受け止めると言っている。それが分かった時、あらためて感動(涙) この演技はよかった。小池栄子もよかった。普段のキャラからやや役が限定されてしまう気がするけれど、発作のように電柱を切り倒してしまうお父さんを受け入れる切なさがよかった。なおこがデート中だと伝えると、心配する母親に「大丈夫!」って言うセリフもよかった。母親の驚きの意味を知った後に、余計にその「大丈夫」が染みてくる。母親の夏木マリがいい! あまりセリフは多くないのだけど、画面にいるだけでさすがの存在感。大仏パーマ専門かのようなパーマネント野ばらだけに、ご本人もアフロではあるけれど、下ネタだらけの大仏ヘア達のおしゃべりを適度にかわしながらチャキチャキ仕事をする姿が男前。もう何十年も夫と暮らしている愛人の髪を切っているという話しも、そういうシーンはないのに納得してしまう。そしてやっぱり前述の驚くシーンが上手い。この演技で見ている側がなおこの秘密に気づく仕掛けなので、この演技は重要。しかも、この演技で一見サバサバと突き放しているように見えた母親が、実は必死で"普通"に振る舞っているのだということが分かり切ない。
そして何と言っても菅野美穂でしょう。こういう役はホントに上手い。こういう系の役多いし、特別演技を毎回分かりやすく変えてる印象もないけれど、毎回そのキャラとして存在している気がする。今回もなおこなんだと思ってしまう。なおこは実はすごく危うくて、大きな秘密があるのだけど、それはオチが分かった時に「そうだったのか!」ってならないとダメなわけで、それまでのなおこは離婚の傷を抱えてはいても、むしろ周りの激し過ぎる感情を受け流しているような、"女"の部分を見せないようにした方がいい。でも、オチに説得力を持たせるためには、カシマとの恋愛では控えめながらも"女"を感じさせた方がいい。オチが分かった時に、その"女"部分が実は誰よりもなおこが強かったことに気づいて、より切なく悲しくなる。そういう演出になっているけれど、やっぱり菅野美穂の演技によるところは大きい。そして、彼女の持つふわっと自然な透明感が、なおこの女の性(さが)の強さを見せられても怖さを感じさせないのだと思う。これもっと女臭の強い人が演じたら、怖いと思う。特に男性は怖いと感じるんじゃないかな(笑)
海辺の小さな町の風景がいい。小さな田舎町の何気ない日常の中にも、いろんな切なさが詰まっている。先月の東日本大震災では、大津波がこういう"普通"の幸せや切なさを、一瞬で飲み込んだ… 画面に映る穏やかな海にやるせなさを感じた。でも、日常がこんなに危ういからこそ、誰の人生も美しいのだと思いたい。そう感じさせてくれる映画だった。そして、やっぱり女性は強いなと思う。
原始女性は太陽であった|平塚らいてう
今こそ、女性が"太陽"になってやりましょう
(笑)
『パーマネント野ばら』Official site
公開時気になっていたけど見逃してた。映画は観たいけれど、震災以降なんとなく映画館に行くのが怖い… ってことで、TSUTAYAでレンタルして、引きこもり鑑賞会を開催!
*ネタバレぎみ(笑) 一応オチは隠しました!

原作は西原理恵子。未読なので、どのくらい忠実なのかは不明。映画では舞台となっている海辺の町が、具体的にどこであるという提示はなかった気がするけれど、ロケは高知県で行われているし、出演者達も土佐弁を話す。西原理恵子の出身地が高知県なので、監督がこだわったとのこと。小さな町で、強がって生きる女達の切なさをコミカルに描く作品なので、それはすごく効果的だったと思う。別に土佐弁が強がっててコミカルだというわけではないけど(笑) そして、やっぱり言葉ってアイデンティティだと思うし。
これは男運の悪い女性達の話。なので男性は基本的にダメ男。浮気相手の家に入り浸って帰ってこない、なおこの義父はまだしも、浮気を繰り返し、なおこの親友みっちゃんに轢き殺されそうになっても、まったく反省しないダンナ、ギャンブルにはまり、暴力を振るいお金をせびる、こちらもなおこの親友ともちゃんのダンナなど、ホントに最悪な男達ばかり(笑) キャバクラのママであるみっちゃんが、ほぼそのヒモ状態のダンナの浮気に怒り爆発して暴挙に出てしまうのはまだしも、地味な事務員のともちゃんが次から次へとダメ男をつかむ男性遍歴は一体どういうことかと思うけれど、「ダメ男でも彼氏がいた方がいい」と言われてしまえば、なるほどと思ったりする。上手く言えないけど、別に呆れてるわけでも、もちろん共感しているわけでもない。個人的にはこんな恋愛はイヤだし、そもそも彼氏じゃないんじゃないかとも思うけれど、人の恋愛観はそれぞれ。本人がよければそれでいいんだと思う。犯罪に走ったり、人に迷惑をかけなければ…
そういう意味ではみっちゃんのしたことは間違いなく犯罪だと思うけれど、警察沙汰にはならなかった様子。被害者が訴えなかったからでしょうけれど、そういうのをサラリとなおこのセリフだけで伝えてしまうのが上手い。前述のともちゃんのダメ男遍歴にしても、モンタージュ形式でコミカルに見せられるので、ジメジメしていないから、「だったらいいじゃない(笑)」と思えてしまう。
恋愛がドロドロしているかの度合いも人それぞれかと思うけれど、この2人のドロドロ恋愛をサラリと描く一方で、なおことカシマの"普通"の恋愛が描かれていく。理科の教師をしているらしいカシマとなおこが会うのは、ほとんどが放課後もしくは昼休みの理科教室。2人の関係は秘密の香がする。実はこの辺りのことは、全て伏線となっている。この見せ方は上手い。2人の恋愛はとっても自然で、あまり自分の感情を見せないなおこが、カシマにはごく自然に甘えている感じがすごくいい。あぁ分かるって思うし(笑) トンネル内でカシマのビーサンの鼻緒が切れて直しているのをなおこが覗き込んで、その横顔をカシマが見つめてキスとか! うーん。恋したくなる(笑)
でも、この2人のシーンが美しければ美しいほど、オチが分かった後の切なさが増してくる。何故2人の関係は秘密めいていたのか、何故いつも理科教室なのか… 見ていたことは別として、実際はどうだったのか… なおこは、前述したみっちゃんとともちゃんだけでなく、母親が経営するパーマネント野ばらに大仏パーマをかけにくるオバちゃん達が、いつも下ネタを繰り広げ、騒動を起こすたびに、一歩引いたスタンスでいながら気づけば巻き込まれて面倒をみている気がする。面倒見の良さは姐御肌というか、男前な母親の影響もあるかもしれないけれど、むしろ逆に受け身な印象。でも、そんななおこがカシマと2人のシーンでは控えめながらも積極的で、それがすごく色っぽい。男の人は好きだろうなと思っていたら… いろんな女性達の恋愛を通して女の性(さが)みたいのを見てきたけれど、実はなおこの情とか業が一番強かった。女達の恋愛話から一歩引いていたのは、離婚したばかりだからでも、新しい恋を密かに始めたからでもなくて、ずっと心に秘めた恋愛の中にいたから。決して結ばれない…
一番落ち着いて安定しているように見えるなおこが、一番危うかったのだと気づいた瞬間に、それまで見ていた世界がガラリと変わる。なおこに迷惑ばかりかけているように見えるみっちゃんやともちゃんも、一見サバサバと突き放しているような母親も、下ネタだらけの大仏ヘア達も、実はなおこを見守っていたのだということが分かる。これはなおこが寂しくてたまらないと泣き叫ぶシーンの答えになっているのだとも思うけれど、実際このシーンよりも、その事実の方が切なかった。そういうことを母親の表情の変化やともちゃんやみっちゃんのさりげないセリフだけで伝えるのがスゴイ。

とにかくキャストがよかった。ともちゃんの池脇千鶴が上手いのは知っていたけど、なおこが不審に思うきっかけとなる「何度でも聞いてあげるよ」がすごくいい。これも真相を知ってからグッとくるセリフなので、サラリとしつつ見ている側にも何か感じさせないといけない。なおこは"何度も"ともちゃんに話しているわけだけど、ともちゃんはそれを受け止めると言っている。それが分かった時、あらためて感動(涙) この演技はよかった。小池栄子もよかった。普段のキャラからやや役が限定されてしまう気がするけれど、発作のように電柱を切り倒してしまうお父さんを受け入れる切なさがよかった。なおこがデート中だと伝えると、心配する母親に「大丈夫!」って言うセリフもよかった。母親の驚きの意味を知った後に、余計にその「大丈夫」が染みてくる。母親の夏木マリがいい! あまりセリフは多くないのだけど、画面にいるだけでさすがの存在感。大仏パーマ専門かのようなパーマネント野ばらだけに、ご本人もアフロではあるけれど、下ネタだらけの大仏ヘア達のおしゃべりを適度にかわしながらチャキチャキ仕事をする姿が男前。もう何十年も夫と暮らしている愛人の髪を切っているという話しも、そういうシーンはないのに納得してしまう。そしてやっぱり前述の驚くシーンが上手い。この演技で見ている側がなおこの秘密に気づく仕掛けなので、この演技は重要。しかも、この演技で一見サバサバと突き放しているように見えた母親が、実は必死で"普通"に振る舞っているのだということが分かり切ない。
そして何と言っても菅野美穂でしょう。こういう役はホントに上手い。こういう系の役多いし、特別演技を毎回分かりやすく変えてる印象もないけれど、毎回そのキャラとして存在している気がする。今回もなおこなんだと思ってしまう。なおこは実はすごく危うくて、大きな秘密があるのだけど、それはオチが分かった時に「そうだったのか!」ってならないとダメなわけで、それまでのなおこは離婚の傷を抱えてはいても、むしろ周りの激し過ぎる感情を受け流しているような、"女"の部分を見せないようにした方がいい。でも、オチに説得力を持たせるためには、カシマとの恋愛では控えめながらも"女"を感じさせた方がいい。オチが分かった時に、その"女"部分が実は誰よりもなおこが強かったことに気づいて、より切なく悲しくなる。そういう演出になっているけれど、やっぱり菅野美穂の演技によるところは大きい。そして、彼女の持つふわっと自然な透明感が、なおこの女の性(さが)の強さを見せられても怖さを感じさせないのだと思う。これもっと女臭の強い人が演じたら、怖いと思う。特に男性は怖いと感じるんじゃないかな(笑)
海辺の小さな町の風景がいい。小さな田舎町の何気ない日常の中にも、いろんな切なさが詰まっている。先月の東日本大震災では、大津波がこういう"普通"の幸せや切なさを、一瞬で飲み込んだ… 画面に映る穏やかな海にやるせなさを感じた。でも、日常がこんなに危ういからこそ、誰の人生も美しいのだと思いたい。そう感じさせてくれる映画だった。そして、やっぱり女性は強いなと思う。
原始女性は太陽であった|平塚らいてう
今こそ、女性が"太陽"になってやりましょう

