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【cinema】『桐島、部活やめるってよ』

2012-09-05 01:36:18 | cinema
'12.08.24 『桐島、部活やめるってよ』@丸の内ルーブル

気になってた映画。試写会応募したけどハズレ いろんな方にオススメされたので、楽しみに行ってきた~♪

*ネタバレありです! 長文(o´ェ`o)ゞ

「金曜日。いつもと同じ放課後。バレー部キャプテンで学校一の人気者桐島が部活を辞めるというニュースが駆け巡る。バレー部はもちろん、彼女、親友、そして一見桐島とは関係なさそうな映画部員まで、桐島に振り回されることになる・・・」という話。原作は第22回小説すばる新人賞受賞した朝井リョウの同名小説。監督は『パーマネント野ばら』の吉田大八監督。うん。おもしろかった。これは映画好きの人は好きでしょう! 個人的にも好きだった。でも、ちょっと期待値が上がりすぎたかなぁ・・・ 皆さんのおっしゃるように「スゴイ!!」とは思えなかった

うーん・・・ まず、見る前にガス・ヴァン・サント監督の『エレファント』に似ているというのは聞いてて、期待値がとっても上がってしまってた。『エレファント』は大好きなので・・・ 『エレファント』に似てるというのは、ニュースが走った"金曜日"が、視点を変えて何度も繰り返されるという手法のこと。この手法が今作品の最大の見せ所。学校という小さな社会の中で、それぞれの立場や世界があるわけで、見ている世界が違えば、同じ"事件"を体験してもそれぞれ影響も違う。そういう意味でこの手法はとっても有効だったと思う。もちろん、それだけではないでしょうけど、おそらくこの手法が衝撃的だったのかと思う。ただ、個人的には『エレファント』で衝撃を受けてしまっていたので、そこまでではなかったかなぁ・・・ キリキリした青春を描くという点でも『エレファント』の方が好きだった。もちろん、あくまで同じ手法を使っただけで『エレファント』のような作品を作ろうとしたわけではないと思うので、比べるのはおかしいと思うし、両方見て今作の方が好きという方もたくさんいらっしゃると思う。あくまで好みの問題!

ただスゴイ!!とは思わなかっただけで、とっても面白かったし、好きな映画であることは間違いない! 前述したけど学校という狭い社会での、それぞれの立場や世界がきちんと描かれていた。『ヤング≒アダルト』の記事にも書いたけど、集団社会はピラミッド型の人間関係を作りがち。視野の狭い高校生のピラミッドは"イケてる"か"イケてない"かで決まってしまう。その頂点にいるのが桐島。容姿が良く、成績も良く、スポーツも万能。万能型。この万能型には、野球部のユーレイ部員宏樹がいる。原作もあるし、いろいろなところでも書かれているので、書いてしまうけど、桐島は登場しない。なので、物語を引っ張る"主人公"となる人物が必要ということで、そのうちの1人がこの宏樹。

宏樹は前述したとおり野球部のユーレイ部員。キャプテンが何度も彼を呼び止めては、野球部の現状や次の試合の情報などを遠まわしに報告する。宏樹は自分が必要とされているのは分かっているけど、キャプテンの誘いに乗る気にはならない様子。親友である桐島と一緒に塾へ行くため、帰宅部の竜汰と友弘とバスケをしながら待っている。簡単にシュートを決める彼に、女子生徒も熱い視線を送る。特別努力をしなくても、ある程度できてしまう万能型。背も高く容姿もいいので人気がある。ピラミッド型の頂点。でも、万能型であるために、何に対しても熱くなることができない。"彼女"の沙奈ともズルズルと付き合っている。宏樹の何に対しても熱くなれない感じは、現代の若者の象徴でもあるのかなと思うけれど、彼自身はそのことに焦りのようなものを感じているらしい。そして、それを認めたくないと思っている感じ・・・

帰宅部の沙奈は宏樹の"彼女"であることと、桐島の彼女で学校一の人気者、帰宅部の梨紗の親友であるということで自分の存在価値を示そうとしている。こういう子いたなぁ・・・ とっても苦手だった(笑) 演じた松岡茉優ちゃんのことを言っているわけじゃないけど、決して美人じゃないし、髪型や化粧や雰囲気で見せているほどかわいくもない、スタイルもそれほどいいわけじゃない。原作ではどう描かれているのか不明だけど、映画だけで言えば宏樹の"彼女"じゃない。実際2人がどこまでの関係なのかは描かれていないけれど、校舎の裏で宏樹に恋する亜矢に見せつけるためキスするシーンでは、宏樹にとってキスすること自体に違和感がなかったことから、ある程度の関係はあると思われる。でも、宏樹は沙奈に恋しているわけではないと思う。単純に誘われたからデートしてるだけ。デートって感覚もないかも・・・ でも、それでも沙奈にとって宏樹の"彼女"であることが重用なんだよね。でも、自信がないから前述のような行動をとるし、自分よりも下だと思っている人に対して必要以上に攻撃的になる。梨紗の"親友"であるということも重用だから、彼女にはとっても気を使っているのも分かる。いつもテンション高くて攻撃的で、自己アピールが激しいから苦手だったけど、彼女のようなタイプの人もそれなりに大変だったんだな(笑)

沙奈のそういう感じや、外見は完璧な美女だけど中身のない梨紗を、実はとっても冷ややかに見ているけれど、自分の立ち位置を冷静に計算しているのがバトミントン部のかすみ。彼女のようなスタンスになりたいといつも思っていた。ムリにそうなろうと思って裏目に出てた部分もあるかも(笑) 彼女も実はピラミッド型では上の人。美人だしバトミントンも上手い。万能型の人なんだと思う。でも、目立たないようにしているっぽい。梨紗や沙奈のご機嫌を損ねないように気を使っている。でも、彼女達といることで存在価値を示そうとしているわけではないと思う。上手く言えないけど、面倒を起こしたくないというか・・・ 多分、本当は彼女は群れなくても大丈夫なんだと思う。同じグループに実果という親友もいるし、密かにつき合ってる彼氏もいるし・・・ でも、クラスという狭い社会で上手くやっていくには、この形を崩さない方がいいと思っている。彼女が一番冷静に人を見ているのは間違いなくて、もしかしたらそれは誰よりも冷たいかも? でも、彼女が一番公平な気もする。彼女も沙奈とは別の意味で"女"を感じさせる存在でもあった。日曜日、偶然会った映画館(この時、2人が見たのが『鉄男』(笑))で、涼也にとった態度は見ている側にも彼を好きなのかなと思わせる。彼女のようなイケてる人が、サエない男子を好きになるっていうのは、いくつかあるパターンの1つではあるし、中学も同じなら説得力がある。でも、違う(笑) 実は彼女は彼氏とケンカした直後で、寂しかっただけ。恋愛で傷ついた時には、擬似恋愛で癒すって女子にはある。イヤ、男性にもあるのかもしれないけれど(笑) このエピソードはちょっと残酷な気もするけど興味深かった。でも、彼女は涼也をバカにしているわけじゃない。まぁ、ちょっとバカにしている部分はあるかもしれないけれど、沙奈の攻撃とかには憤りを感じている。その感じは実香とはちょっと違う・・・ 実香はもう少し身近というか、自分寄りに感んじていると思う・・・

実果は優秀だった姉を亡くし、自分が姉ほどには両親の期待に応えられないことを知っている。だから、愛されていないと思っている。自分は万能型ではないことも知っている。決してピラミッド型の下層ではないけれど、上層に行けないことも分かっている。一番多くの人が属するであろう、ピラミッド型中層部の人達は、平凡な自分のことは自覚しているけれど、平凡だからこそ努力すれば上にいけるのではないかと夢を見る。でも、この年齢くらいから自分限界を自覚する。そのことを実果と、バレー部リベロの風助、そして野球部キャプテンで描いている。バレー部副キャプテンもかな・・・ 好きでやっているのだから少しでも上手くなりたい。でも、自分が何十回やっても出来ないことを、たった1回でサラリとやってのける人がいる。それを認めることはとっても辛い・・・ 彼と自分、彼女と自分・・・ リベロの風助は同じくリベロだった桐島が部活を辞めたことで、試合に出ることが出来た。でも、思うようなプレーはできなかった。桐島の穴を埋めることは自分にはムリだし、みんなもそう思っているに違いない。その思いが彼を苦しめる。その姿を見つめる実果の思いも痛いほど伝わる。自分もこの位置だもの(笑) でも、嫌いじゃないけどねこの位置。だって、野球部キャプテンみたいに、自分の限界はちゃんと分かっているけど、ドラフトまでは諦めないって気持ちで、勝手に努力すればいいんだもん! 本当は。

宏樹に恋するブラスバンド部の亜矢は、彼がバスケットをしている姿が見える屋上でサックスの練習をする。彼女は地味だけどかわいいし、部長として後輩の詩織に慕われてもいる。でも、彼女は自分に自信が持てない。告白する勇気はないけど、自分に気づいて欲しいとは思っている。この行動は若干イライラするけど、とっても良く分かる。でも、彼女がサックスを吹く姿を見て欲しいと思っているってことは、やっぱりそこが一番のアピールポイントだから。詩織に「一生懸命やっている先輩を好きになる男子は多いと思います」って言われるけど、そのとおりだと思う。一生懸命やる姿しか伝えられないから、一生懸命やってるんだけど、それがとっても遠回り。でも、分かる(笑) 結局、彼女は例の沙奈のキス見せつけ事件(←大袈裟(笑))で、思いを断ち切って、部長として部活に専念するわけだけど、若い頃はそういう時があってもいいと思う! 彼女と、映画部涼也との屋上の取り合いは笑えた(笑)

で、もう一人の"主人公"が映画部の涼也。華奢な体型で、スポーツは苦手、成績も普通。いわゆるピラミッド型では下層。演じているのが神木隆之介くんなので、本当はイケてなくはないんだけど、見事にイケてない(笑) 映画好きって大人になってしまえば、そんなにサブカル感もない気もするけど(←そうでもない?)、スポーツ万能であるということが、ピラミッド型社会の上層部にいることの条件である学生時代においては、映画部っていうのはものすごくサブカル。個人的にはサブカルは大好きだし、自分もサブカルな人間だと思っている。大人になってしまえば尊敬するMJのように、サブカルであることがステータスにもなる。でも、学生時代はねぇ・・・ もちろん、映画部=サブカルだから、もれなくピラミッド型下層というわけでもないけれど、少なくとも涼也と友人の武之は下層だと思われている。それは本人達も分かっている。何度か繰り返される"金曜日"のうちの彼らバージョンでは、映画コンクールでよい成績を残した彼らを讃えるため、全校集会で壇上にいるシーンがある。でも、彼らにとってはうれしいことではない。何をしてもバカにされる彼らにとって、目立つことは逆に迷惑なことだったりする・・・ もちろん、素直に彼らを讃えている生徒も多いのだけど、バカにされることの方がどうしても拾いやすい。拾わなきゃいいじゃんとも思うし、何卑屈になっているのかと言われればそうだけど、この気持ちもよく分かる。涼也には撮りたい映画がある。親友の武之や部員達も賛同している。覇気はないけど・・・(笑) でも、顧問は自ら書いた脚本を使うと主張する。今回のコンクールで認められたのも自分の脚本ではないかと・・・ゾンビは学生にそぐわないテーマかもしれないけれど、まずは生徒のやりたいことをやらせて、彼らが軌道から外れるようであれば、正してやるのが理想だと思うけれど、この顧問は実は自分の夢をかなえようとしちゃってる。まぁ、無意識にしていることだと思うし、気持ちは分からなくもないけれど・・・ で、そんな涼也は武之の励ましもあって、ゾンビ映画を撮ることを決意する。天気も時間帯も絶好のロケ日和なのに、屋上では亜矢がサックスを吹いている。おどおどと卑屈な態度なのに、自己主張の激しい涼也に、本当の理由は言えないけれど、引き下がりたくない亜矢。ここは2人のやりとりに若干イライラしつつ、おもしろかった(笑) 卑屈な態度なのに自己主張が激しいって言い方はどうかと思うけれど、当時そう感じていたことは事実で、彼らは彼らなりに秘めた思いがあって、バカにされていることを感じていたし、それに対して怒りも感じていることは武之の発言でよく分かる。考えてみれば当たり前だけど、狭い視野ではそういうことに気づかない・・・ こういうことがいじめを生むんだなと思った。そして、これは伏線。

さて、運命の火曜日! って、そんなに大袈裟なものではないけど、でも彼らにとっては重大。金曜日以降、学校に姿を現さない桐島。彼女の梨紗も、親友の宏樹も連絡が取れない。少なくとも彼の身近にいた子達は、桐島を心配する気持ちはもちろん、彼にとって"自分"はどういう存在なのか気がかりでキリキリしている。そんな中、屋上にいる桐島を見たという情報が! それぞれの思いが一気に屋上に向かう! でも、そこに居たのは桐島とは対極の映画部たち・・・ 吐き出し場所を失った彼らの感情は、映画部へ向かう。バレー部副キャプテンは彼らが作った隕石を蹴る。この隕石作りのエピソードは好きだった。後輩が作ってきた隕石の色が気に入らない武之、後輩の気持ちを気遣って強く直せとはいえない涼也は、ヒモを取り付けてくれれば大丈夫みたいなことを言う。何でそれで大丈夫なの?(笑)と思ったけど、それで丸くおさまってる感じがおもしろかった。話がそれたけど、たしかに副キャプテンが蹴った隕石はゴミにしか見えないけれど、映画部にとっては大切なモノ! たかが小道具だろうと言うのであれば、ボールを潰されたらどう思うのか?

で、とうとう涼也がキレる。そして彼はカメラを回す! こだわりの8mmのファインダーを通して見えた映像が素晴らしい! 分かる分かる!! これは映画好きなら絶対好きだよ! 彼にとって映画とは何なのかがとってもよく分かる。単純にストレス発散とも違うし、現実逃避でもない。上手く説明できないけれど、何かに夢中になったことある人なら絶対分かる。この映像はその質感ともに好きだった! 実際との対比も好き。涼也にはそう見えてるってことよりも、それが撮りたいんだっていうのが伝わってくる。ここは是非、大画面で見て欲しい!

大乱闘の末、乱入者たちは潮が引いたように去って行く。でも、胸に何かがよぎった人がいる。ずっと感情を出さないようにしていたかすみは、涼也たちをバカにする沙奈を平手打ちする。その後、自分でもビックリという感じで謝っていたけれど、ここはちょっとスッキリ(笑) そして宏樹。乱闘で涼也の8mmは壊れてしまうけれど、その部品を持って戻ってくる。「夢は映画監督?」宏樹にとっては何気ない言葉だったかもしれない。キッカケみたいな・・・ でも、涼也の意外な答えに驚く。このシーンも好き。何に対しても熱くなれずにいた宏樹。自分の限界を知りながらも、好きなことに熱中している涼也や、キャプテンの姿から何かを感じている。このシーンは良かったなぁ。誰かの何気ない一言で自分の中に光が射すことってある。自分は歌詞だった。仕事と人間関係に苦しんでいた時、ある歌詞を口ずさんだ瞬間、閉じてた目が開いたように目の前が急に明るくなった。何だ簡単なことじゃないかと思えた。もちろん、それはずっと悩んでいたからこそ訪れる瞬間なんだけど・・・ 宏樹があの時感じた思いは、自分のそれとは違うかもしれないけれど、あのラストからすると、そう遠くもない気もする。

主要なキャストはみんな良かったと思う。時々一本調子になったとしても、それが登場人物たちの若さゆえの不器用さに感じられたりもする。既にかなり長文になっているし、一人一人批評するのもヤボな気がするので、特に良かった人達のお名前だけご紹介。涼也の神木隆之介くん、かすみの橋本愛ちゃん、沢島の大後寿々花ちゃんはやっぱり上手かった。野球部キャプテンの高橋周平くんも、少ない出番ながら印象を残したし、武之の前野朋哉くんもよかった。ちょっと蛭子能収似(笑)

よく考えると桐島くんが部活を辞めただけの話。それをきっかけとして、ここまで見せるのはスゴイ! って、やっぱりスゴイと思ってたね(笑)

彼らと同じ世代よりも、同じような青春を過ごした大人の方がグッとくるかも? 映画好きの方、是非!

『桐島、部活やめるってよ』Official site


コメント (4)
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