2016.02.13 『キャロル』鑑賞@TOHOシネマズみゆき座
すごい見たくて試写会応募したけどハズレ。迎賓館赤坂離宮見学(記事はコチラ)まで時間潰す必要があったので、予定にはなったけど急遽見ることに。9:30AMの回だったけど、小さい劇場なこともあり満席。楽しみに見てきた~
ネタバレありです! 結末にも触れています!
「1950年代New York。カメラマン志望のテレーズは、クリスマスシーズンの高級デパートでアルバイトをしていた。ある日、娘のプレゼントを買いに来た上品な女性に目を奪われる。女性の忘れ物に気付いたテレーズは、これを郵送。後日お礼にランチに誘われる。すっかり彼女に魅了されるテレーズだったが・・・」という話で、これはパトリシア・ハイスミスの自伝的小説。これについてはちょっとした逸話があるのだけど、それについては後ほど。思っていたのとちょっと違って、わりと淡々としているので、早起きしたこともあり何度か落ちそうに でも、退屈だったわけではない。心地良かったのとも違うのだけど、とっても美しい映画だったからかな? もちろん主演2人もそうだし、衣装やセットなどの画的なこともそうだけれど、全体的に品がある。その感じは好きだった。
一応、毎度のWikipediaや公式サイトからの情報を載せておく。トッド・へインズ監督作品。監督の作品は『ベルベット・ゴールドマイン』と『エデンより彼方に』しか見てないけど、時代的なことや当時のタブーを描いていることもあり『エデンより彼方に』に似ている感じかな。パトリシア・ハイスミスの「キャロル」(原題「The Price of Salt」)が原作。前述したとおり、これにはちょっとしたエピソードがある。パトリシア・ハイスミスといえばサスペンス小説というイメージだけど、これはアルフレッド・ヒッチコック監督により映画化された「見知らぬ乗客」の大成功によるもの。この成功を手にする前の1948年、デパートのオモチャ売り場でアルバイトしていたハイスミス。そこに現れたエレガントな女性を見て、今作の着想を得たのだそう。ただし、原作はクレア・モーガン名義で出版されている。どうやら「見知らぬ乗客」の成功により、サスペンス作家というイメージがついてしまったことは本人的に不本意だったようで、女性同士の恋愛を描いた作品で新たなイメージがついてしまうことを嫌ったためなのだそう。また、当時は同性愛に対する偏見が強く、「見知らぬ乗客」の出版社は、出版を拒否している。実際は100万部を超える大ベストセラーとなった。主に同性愛者からの支持を得たとのこと。長い間クレア・モーガン名義だったけど、1990年にハイスミスによるものであることが公表され、その際に本人の希望で「Carol」にタイトル変更されたとのこと。ハイスミスは友人のフィリス・ナジーに自身の小説を映画用に脚色することを提案。これを受けて1996年に「The Price of Salt」の脚本の初稿を書き上げた。2011年エリザベス・カールセンが映画化権を獲得したのだそう。
2012年、監督にジョン・クローリー、主演をケイト・ブランシェットとミア・ワシコウスカが務めると報じられた。2013年クローリー監督が降板、トッド・ヘインズが監督に起用された。2013年8月、ミア・ワシコウスカが降板し、ルーニー・マーラが起用された。ルーニー・マーラにオファーが来たのは『ドラゴン・タトゥの女』の撮影直後で、脚本を気に入り、ケイト・ブランシェットと共演してみたいと思ったけれど、撮影の疲れで依頼を受けることができなかったらしい。ヘインズ監督が再度オファーし、ようやく契約書にサインすることができたのだそう。フィリス・ナジーの提案で本作のタイトルは『Carol』となった。理由としてはハイスミス自身が「Carol」というタイトルに強いこだわりを持っていたからだそう。
2015年5月に開催された第68回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に出品され、ルーニー・マーラが女優賞を受賞。第88回アカデミー賞主演女優賞、助演女優賞にノミネートされている。映画評論家のトッド・マッカーシーは2015年の映画ベスト10で第10位に挙げているとのこと。
冒頭、カフェ(?)で向き合って座る2人の女性。そこに乱入する男性。どうやら、若い女性の方の知り合いらしい。どう考えても招かれざる客なのに、空気を読めない男性は話し続ける。この後2人の共通の友人たちとの集まりがあるようで、彼女にそこに行くか尋ねる。若い女性は行くと答えるけれど、どこか含みがある。その含みを察したかのように、2人に楽しんでと言い残して、相手の女性が席を立つ。大人の対応。見ている側はこの女性がキャロルであることは分かっているので、ならば若い女性は恋人なのだと考える。この男性の存在が、2人にとってじゃま者なのか、救世主なのかは後に分かる。
ここからは回想シーンということになるのかな? 2人の出会いはクリスマスシーズンの高級デパート。全体的に画面は割と暗めの印象。テクニカラーっぽいというか、昔のカラー映画を見ているような感じ。舞台となっている1950年代はミッドセンチュリー。この感じは好きだった。テレーズ・ベリベット(ルーニー・マーラ)は、このデパートでアルバイトしている。このデパートの感じも面白い。ウエストの高さくらいのガラスのショーケースが並ぶ店内は、クリスマスシーズンなのに色抑えめ。これはキャロルの美しさを引き立たせるため? それとも当時はこんな感じだったのかな? 今でも宝飾品などはショーケースに入っているけど、オモチャ売り場もこんな感じだったのかな? 不思議。そんな売り場は華やかな女性客で溢れている。その中にひときわ目を引く女性が。ウェーブをかけた金髪に真っ赤な口紅。毛皮のコート姿のゴージャスで品が良い。でも、どこか寂しげな印象。このシーンは本当に美しい。
この女性キャロル・エアード(ケイト・ブランシェット)が忘れた手袋を郵送すると、後日キャロルから連絡があり、お礼のランチに誘われる。キャロルの優雅で堂々とした身のこなしに魅了されるテレーズ。キャロルの方も彼女を気に入ったらしく、家に招待してくれたりする。郊外の豪邸で楽しいひと時を過ごすと、キャロルの夫ハージ(カイル・チャンドラー)が帰って来る。夫との仲は冷めており、離婚するつもりだと聞いていたとはいえ、自分に対して嫌悪感丸出しの夫に戸惑う。この時点でハッキリ言っていたのか忘れてしまったけど、キャロルには友人の女性アビーと親密になった過去があった。ハージとしてはキャロルを愛しており、"普通"の妻になって欲しいと心療内科にも通わせているけど、もちろんそんなことで治るはずもない。キャロルがこの時点でどこまで自覚があって、どこまで覚悟していたのか不明だけど、夫のことを男性としてだけでなく、人としても愛せない以上は離婚するしかないかも。でも、離婚するなら親権は渡さないと宣言されてしまう。うーん。離婚理由は別として、この時代女性が親権を取るのは大変だったかもしれない・・・
テレーズにはリチャードという恋人がいる。2人の会話から彼女はまだ男性経験がないらしい。リチャードはテレーズに何度もプロポーズするけれど、テレーズにはその気はない。自分はキャロルと出会うまで、テレーズには同性愛者である自覚はなかったように思ったけど、見る人が見ると最初から分かるのかもしれない。ただ、テレーズがキャロルと恋に落ちることを知って見ていたせいか、彼女がリチャードとの結婚に乗り気になれないのは、無意識に男性との恋愛に違和感があるからなのかなとは思った。それは新聞社で働くリチャードの友人に社内を見学させてもらった帰りに、部屋に寄った彼にキスされた時にも感じているらしいことでも見せている。こういう見せ方は上手いと思った。
テレーズを招待した時、夫と口論になったことで、つい彼女に八つ当たりしてしまったキャロル。そのことを詫びる電話を入れ、今度はキャロルがテレーズの家を訪ねてくることになる。普通に考えてデパートの店員が忘れ物を送ってくれたくらいでは、せいぜいお礼の電話をする程度だと思うので、そもそもランチに誘うこと自体テレーズに興味があったのだろうし、ましてや自宅に招いたのは彼女のことが気に入ったからなのでしょう。一方のテレーズもランチや自宅への招待を受けたのはキャロルに惹かれたからなのでしょう。ただ、それが恋に変わったのは、やっぱりこのケンカからの仲直りなのかなと思う。そう考えるとダンナさん逆効果
2人はキャロルの運転で旅に出る。そして、この旅が2人の仲を決定的なものにする。ゴージャスなホテルに泊まるなど楽しい旅。ある夜、モーテルで2人は一線を越える。そのシーンは美しく、でも生々しく描かれる。このまま精神的なつながりで終わるのかなと思っていたので、この描写は意外だった。特にそれが生々しく描かれたのは軽くショック。でも、このシーンがあって良かったと思う。しかし、幸せの絶頂から一転、翌朝キャロルは隣室の男性が昨夜の行為を盗聴していたことに気づく。この男性は夫が雇った探偵だった。ダンナ酷い・・(ll゜∀゜) 今なら盗聴は罪だよね? 事件の捜査としてならOKなの? よく分からないけど、卑劣な手段であることは間違いない。
娘の親権を争っているキャロルとしては、これは致命的。ということで彼女はテレーズを置いて帰ってしまう。代わりに迎えに来たのはキャロルの親友であり、かつては恋人関係であったアビー・ゲルハルト(サラ・ポールソン)。彼女からキャロルとの関係などいろいろ聞くことになる。この感じはよく考えると微妙。元カノが今カノを助けに来て、過去の自分たちのことを話してるってことだものね。でも、アビーの大人な態度によって修羅場感はない。結局、キャロルとテレーズの関係はここで一度終わる。
離婚調停の話し合いにやって来たキャロル。彼女の弁護士はなんとか親権を得ようと頑張っているけど、キャロルは夫に親権を譲る代わりに、確実に娘に合わせて欲しいと懇願する。盗聴させたり、アビーの家に怒鳴り込んだりヒドイ仕打ちのダンナに対して、もう少しなんとかならないかと思ったりもするけれど、当時の女性の社会的地位や、同性愛者に対する偏見からすれば、キャロルが圧倒的に不利なのは間違いないわけで、悔しいけれど最善策だったかもしれない。苦しみ悲しみながらも毅然とした後姿は、なりふり構わず醜態を晒したダンナとの対照的。このケイト・ブランシェットは素晴らしい まぁ、ダンナも気の毒ではあったけれど・・・
新聞社でカメラマンとして働き始めたテレーズのもとにキャロルから会いたいと連絡が入る。そして、冒頭のシーンにつながる。冒頭では楽しいシーンに見えていたけど、これは悲しいシーンだった。テレーズ側からすると怒りかも?(笑) あの旅行からどのくら時間が経過したのか忘れてしまったのだけど、捨てられるような形で放り出されたテレーズとしては、心中穏やかではないと思う。どんな話なのかといぶかしんでいる部分もあると思う。するとキャロルがある提案をする。今は働いていて、2人で暮らせる部屋を借りた。だから一緒に暮らさないかというのだった。そして、今でもテレーズを愛していると言う。テレーズとしては新たな生活を始め、ようやく気持ちの整理をつけたのに、今更元には戻れない。その申し出は受けられないと断ったところで、件の男友達乱入。となれば、じゃま者だと思っていた彼は、むしろ救いだったということかも。この印象の変化は上手いと思った。キャロルは食事の約束があるからと席を立つ。この大人な対応も素晴らしい。
その後、男友達と共に出かけたパーティーで心から楽しめずにいたテレーズは、ある場所へ向かう。高級店に集う上品な人々。そこに現れたテレーズはちょっと野暮ったい。でも、きっとこの感じがキャロルの心をとらえたのかも。無垢な感じ。そして、店の奥にいたキャロルの前に立つ。それまで周囲に愛想笑いを振りまいていたキャロルが、思わず微笑む顔で映画は終わる。この余韻を残した終わりも素敵。
キャストは全員良かった。夫役のカイル・チャンドラーは損な役だったけど、でも悪あがきであってもダンナさんとしては必死だったわけで、かわいそうではあるけどと思わせて良かった。後はもう主演2人に尽きるというくらい、ほぼ2人芝居。少々野暮ったいテレーズをルーニー・マーラが魅力的に演じていたと思う。テレーズが同性愛者であることに自覚があったのかについては、自分は自覚がないまま恋に落ちて目覚めたと考えているのだけど、それはルーニー・マーラの無防備なあやうさによるものかなと思う。この感じは良かった。アカデミー賞では助演女優賞にノミネートされているけど、テレーズ目線で描かれているからむしろ主演でもいいかも? でも、キャロルより出しゃばらない感じも良かったと思う。
そして何といってもキャロルのケイト・ブランシェット! この役でアカデミー賞主演女優賞に2年連続でノミネートされているけど、本当に素晴らしかった。とにかく圧倒的な美しさ! 同性愛は精神病であるとされていた時代に、自らの性癖を受け入れ、戦う強さ。でも、耐え切れなくなるあやうさ。それらを全て背負う威厳。あまりセリフであからさまに語らない分、背中や表情で見せる。その背中の演技が素晴らしかった。街角でテレーズを見かけて、思わず目で追ってしまう時の震えるような表情と、ラストの微笑みが印象的。素晴らしい
撮影は2014年3月12日にオハイオ州シンシナティで始まったそうで、他にもハミルトン郡のワイオミングとシェビオット、ケンタッキー州のアレクサンドリアで行われたのだそう。物語の舞台はNew Yorkだけど、ロケは行われなかったのかな? 今作はスーパー16mmフィルムで撮影されたのだそう。なるほど、それでちょっと昔の映画っぽい画像なのかな? 全く詳しくないからよく分からないけど(o´ェ`o)ゞ 細部までこだわったセットも良かったし、『オルランド』、『ブーリン家の姉妹』(感想はコチラ)のサンディ・パウエルの衣装が良かった! テレーズのちょっと野暮ったい感じも地味に良い仕事をしているし、何よりキャロルの体のラインがハッキリと出るスーツが素敵 キャロルには赤など原色を着せて、テレーズには茶系が多かったのも印象的。
とにかく、美しくて品があって、切ない映画。大人で美しい恋愛映画見たい方オススメ。ルーニー・マーラ好きな方是非。ケイト・ブランシェット好きな方必見です!
【追記】
Wikipediaでは自伝的小説ということまでしか分からなかったけど、町山智浩氏の解説(町山智浩が『キャロル』を語る|YouTube)によると、かなりの部分でパトリシア・ハイスミスの体験に基づいているらしい。ハイスミスは死後に暴露された日記により、レズビアンであったことが明らかになったそうで、「見知らぬ乗客」も「太陽がいっぱい」も同性愛の話であるとのこと。特に『太陽がいっぱい』については、映画評論家の淀川長治氏がずっと言い続けていたそう。淀川さんも同性愛者だったそうなので、やはり通じるものがあったのかもしれない。ちなみに、自分もテクニカラーっぽいと書いたけど、町山氏によるとやはりテクニカラーを再現しようとしていたとのこと。当たってた