2015.12.18 『独裁者と小さな孫』鑑賞@ヒューマントラストシネマ有楽町
試写会もいくつか見かけたけど応募したかな? その頃にはあまりピンとこなかった。TLなどで評判良くて急に見たくなり、テアトル系会員ハッピーフライデーに見に行ってきた
ネタバレありです! 結末にも触れています!
「独裁政権下の某国。大統領はクーデターで失脚。懸賞金をかけられ小さな孫と2人で逃避行。行く先々で国民の生活を目の当たりにすることになるが・・・」という話で、ストーリーとしては本当にこれだけ。でも、そこには様々なメッセージが詰まっている。重いテーマなのに、どこかユーモラスに描かれているので、重くなり過ぎずに見ることができる。それだけに見終わった後にズシリと来るものがある。これ好きとなる感じの内容ではないけど、見て良かったと思える作品だった。
『カンダハール』のモフセン・マフマルバフ監督作品。監督の作品を見るのは初めて。イラン出身で現在はヨーロッパで亡命生活を続けているとのこと。作品がイラン国内で問題視されたのかしら? 『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(感想はコチラ)と共に、ヴェネツィア国際映画祭オープニング作品(オリゾンティ部門)に選出された。シカゴ国際映画祭最優秀作品賞、東京フィルメックス観客賞、ベイルート国際映画祭観客賞を受賞。なるほど映画祭でも評価されているのね。
きらびやかなX'masイルミネーション風景から始まる。走行中の車のフロントガラス越しに見える街並みは、イルミネーションの華やかさの中に、どこか暗さを感じる。シーン変わって、大きなガラス張りの部屋。膝に幼い男の子を抱えた軍服姿の老人。大統領と呼ばれるこの男性(ミシャ・ゴミアシュウィリ)は、小さな孫(ダチ・オルウェラシュウィリ)と話しながら差し出された写真にサインしている。写真の男たちは政治犯で、大統領がサインしたことで、彼らの処刑が決定したのだった。人の命を奪う決断を片手間にしてしまう。さらに孫を喜ばせるため、電話一本で街中の電気を消して、また電話一本で点灯して見せる。孫にも同じことをさせる。大統領が独裁者であり、彼が人々の命を簡単に奪ってきた人物であることは、様々な人の口から語られるのだけど、実際に観客が独裁者らしいシーンを見るのはここのみ。このどこかほのぼのとした中に、彼が独裁者であることを感じさせるのは好きだった。街じゅうの電気を点けたり消したりしていた独裁者と小さな孫。何度めかに消灯した後、いくら命令しても明かりがつかない。不審に思っていると電話の向こう側から銃声が! クーデターが起きたのだった。クーデターで失脚してしまうことと、小さな孫と逃避行することは知っていたので、てっきりこのまま逃げるのかと思っていたら違っていた。
場面変わって宮殿と呼ばれる大統領官邸。着飾った女性たちが歩いてくる。彼女たちにハイヒールを履かせる使用人たち。小さな孫のそばには同じ年くらいのかわいらしい少女がいる。小さな孫はマリアという少女と離れたくない様子。車に乗るように言われても「マリア、マリア」と叫び、車から降りてしまう。でも使用人たちにガードされて彼女に近づくことはできない。この時小さな孫がどこまで理解していたのか不明だけど、この取り乱しぶりはマリアに二度と会えないことは知っていたのかも? 中年の女性と、若い女性2人、小さな孫、そして大統領がリムジンに乗り込み、空港へ向かう。沿道では多くの国民が大統領一家を見送っている。カーラジオから流れるニュースでは、大統領家族が外遊すると伝えている。姉妹と思われる若い娘たちはお互い口汚くののしり合っている。今回のクーデターには姉の夫が関係しているのかな? そういう主旨のことを妹が言っていたのだけど・・・ 中年の女性が誰なのか不明だけど奥さん? 大統領の身を心配して、しきりに一緒に来るように言うのだけど、事態を収拾するため残ると言い張る大統領。なんと小さな孫まで、ここに残ると言い張る。マリアとまた会いたいというのだった。いくら彼女を好きだからといってしつこ過ぎるだろうと、小さな孫に対してイライラするれど、後に彼には本当にマリアしかいなかったのだということが分かって切ない
結局、小さな孫は大統領と国に残ることになる。楽団の演奏に乗り飛び立つ飛行機を見送り、市街地へ戻り始める。街じゅういたるところに大統領のポスターが貼られているけれど、そのポスターが焼かれたり、破られたりしている地区に差し掛かる。すると急に道が閉鎖される。本格的にクーデターが起きたということかな。兵士たちが銃を構えている。緊迫した場面。大統領の護衛(ラシャ・ラミシュヴィリ)は何とか説得を試みるけど、もちろん無駄。銃の撃ち合いとなる。いきなり銃を乱射しちゃうのも凄いなと思ったり。ここからしばらくカーチェイスが続く。狭い路地で車を取り囲む暴徒たちが恐ろしい。犠牲者もどんどん出ている。ハリウッド映画のような派手さはないけれど、なかなか迫力があった。地位は忘れてしまったけれど、空港で見送っていた男性は信頼できるということで、再び空港に向かうも、彼こそがクーデターの首謀者だったようで、ここでも銃を向けられてしまう。しかも、ここで護衛が撃たれてしまい、彼は大統領に家族のことを託し亡くなってしまう。大統領と小さな孫が命からがら逃げる話なのは知っているので、この段階では切り抜けるのだろうとは思うけれど、やっぱりドキドキする。
運転手は若い夫婦のバイクを奪い、大統領と小さな孫を乗せて走り出す。しばらく行ったところで小さな孫がトイレに行きたいと言い出す。不思議な場所。同じような形の家が並んでいるけれど活気は全くない。冬であることもあるかもしれないけれど、高い木や緑のほとんどない平地が続く。大統領が追っ手の目をそらすため、羊(だったかな?)の群れを追うふりをするシーンがあるので、この辺りではそういう暮らしをしている人が多いのかな? いずれにしても豊かさは感じられない。寒々とした感じ。小さな川のそばにあった廃墟で用を足す小さな孫。自分を大統領と呼ぶ孫に、これからは大統領と呼ばないように言う大統領(笑) かつて2人が暮らした宮殿では、小さな孫は殿下と呼ばれ、教育係の男性から祖父を大統領と呼ぶように躾けられていた。小さな孫はこの教育係から、いわゆる帝王学的なことを習っていたらしい? 小さな孫は大統領にお尻を洗ってくれと言う。当然そんなことはできないと断る大統領。でも、ぼく自分で洗ったことないという孫。要するにそういう係りがいたということで、独裁者一家のバカバカしさが感じられる。結果、小さな川の冷たい水で孫のお尻を洗うことになる。まぁ普通のことなんだけど、そこにユーモラスなものを感じてしまう。
大統領と孫がお尻を洗っている間に、運転手はバイクに乗って逃走してしまう。どうやらこの後運転手は軍に投降したらしい。廃墟に取り残された大統領と孫。廃墟の周りがやけに広々しているせいか、不思議と悲壮感はない。シーン変わってさびれた理髪店。皆生活が苦しくて散髪に来ないと話しながら、客の髪を切る理髪師(ズラ・ベガリシュヴィリ)。すると客が自分は客じゃないと言う。あなたが髪を切り出したので、言い出しにくかったのだけど、実はお金を借りに来たと言うのだった。コミカルに演じているわけではないけれど、こんなに悲惨な内容なのにどこかユーモラス。そのユーモラスな部分がダメだと、作品自体がダメかもしれない。自分はこのシニカルなユーモアみたいなのが好きだった。さて、この理髪店に大統領と孫が逃げ込んで来る。理髪師は大統領であることに気づき、感動している様子。クーデターが起きたとはいえ、一般の人々の中にはまだ大統領を崇めている人もいるのでしょう。そう簡単に洗脳がとけるわけでもないし。大統領は理髪師から着ている服を奪う。部屋には粗末なベッド。本当に貧しい。その理髪師から服を奪うことの傲慢さ。でも、大統領も命を狙われているからね。理髪師のまだ幼い息子はラジオで大統領が失脚し、逃亡していることを知り、父親に知らせようと部屋に入って来くる。そこにはまさかの大統領。この息子は子供ゆえの順応性か、大統領に反撃しようとするけれど、銃で脅かされて孫のために服を奪われてしまう。後に、この2人は大統領逃亡を幇助したとして逮捕されてしまったことが分かってさらに切ない
理髪師親子の服と、何故か長髪の白髪ヅラを入手した大統領と小さな孫は、採石場のような所にやって来る。孫を隠し、迎えに来るまで絶対に出てはいけないと言い残して行ったのに、マリアに似た少女を見かけて追いかけて行ってしまう孫。ホントにこの子は(笑) 大統領は民家に押し入り、必要なものを入手したらしい。何故かギターを手にしている。大統領のギターの腕前はなかなかのもの。以後、2人は祖父のギターで踊る孫娘として、旅芸人として追手から逃れることになる。少女を追って行ってしまった孫は、彼女たちと一緒に働かされていた。孫は5~7歳くらいだと思うけど、彼と同じ年くらいの子供たちが働く姿は切ない 話をつけたのか、勝手にもぐりこんだのか家畜小屋で一晩過ごすことにする。寒さをしのぐため、それぞれ箱に入って眠る2人。孫がお話をねだると、自虐ネタを話し始めて、孫にダメ出しされる大統領。ちょっと好きになってきた(笑) 箱に入って寝るのもちょっとカワイイ。
大統領は知り合いの女性に助けを求めることにしたらしく、なんとか彼女の家に辿り着く。すると若い男性がおり、大統領に次は自分の番だと言う。隣の部屋からは女性の喘ぎ声。なるほど。この男性は目の前の老人が大統領であることに気付く。幼い頃遊んでもらったことがあったようで、大統領の状況を分かった上で、助けてくれそうな感じだったのに、順番が来たので行ってしまう。その後、この男性が何をしてしまったのか不明だけど、追い出されてしまう。たしか、大統領の知人の女性はマリアという名前だったような気がしたけど違ったっけ? 公式サイトには、それぞれの役名がなく、彼女のことも売春婦としか書いていないので分からない。なので便宜上、売春婦と呼ばせていただく。売春婦(ラ・スキタシュヴィリ)は客を追い出してしまい、大統領たちのことなど気にする風でもなく、トイレでアソコをゴシゴシ洗い始める。大統領たちに気付いてからも、ずっとゴシゴシ洗っている。身に着けているスリップの裾は、なぜか血で染まっている。どうやら、後のセリフから生理中だったらしい。だから怒りっぽいのか? わざわざ記事に書かなくてもいいけど、かなり強烈なシーンだったので書いておく(笑) 大統領に対しても常にケンカ腰。どうやら、彼女はとても若い頃、大統領と恋に落ちたようで、そのことがきっかけで人生を踏み外してしまったらしい。何通も手紙を書いたのに返事がなかったと言う。大統領は受け取っていないと答える。その表情からするとおそらく本当だと思う。大統領としては、孫を彼女に預かってもらい、なんとか宮殿に戻り体制を立て直したいと思っているらしいけれど、子供が暮らす環境ではないと断られてしまう。確かに、子供が暮らす環境じゃないけど、懸賞金がどんどん跳ね上がっている人物と共に逃避行するのも、子供が体験することじゃない。大統領は彼女に借金をお願いするけど、その後、男たちが乱入して来たので、借りられたのかは不明。
役名がある女性として出てきたのは売春婦だけ。かなり不幸な暮らし。まぁ、今作に出てくる人で幸福な人はいないのだけど・・・ もう1人女性が悲惨な目に合ってしまう。ヒッチハイクして車に乗せてもらった大統領と小さな孫。しばらく行くと兵士たちに車を止められてしまう。鶏を抱えていた老婆から、鶏を奪う兵士たち。物品は全て奪われてしまう。大統領のギターも危うく奪われそうに。そこに結婚式帰りの一行が通りかかる。ガーマルチョバ!と声をかけ、彼女たちを祝福するかのようなそぶりの兵士たち。一番偉いと思われる兵士が、ウエディングドレス姿の花嫁と踊り出す。初めは楽しく踊っていたけれど、様子が変わってくる。危険を感じて抵抗する花嫁。花婿や親戚の男性たちも気付いているけれど何もできない。そのまま小屋に連れて行かれてしまう花嫁。しばらくして出てきた花嫁は、兵士たちはもちろん、助けてくれなかった男性たちにも怒りをぶつける。彼女の気持ちはとっても分かるし、我慢できることではないけれど、兵士たちに逆らえば、即殺されてしまっただろうから、抵抗できなかった気持ちも分かる。これはいたたまれないと思っていると、花嫁は兵士たちに自分を撃ってくれと叫びだす。そして銃声。辛い・・・ でも、こういう独裁政権下では、権力を持っている者が横暴なふるまいをすることは多々あるのでしょう。そして、それを糾弾しているのだと思う。売春婦と彼女のエピソードは、女性として辛かった
大統領と孫は再びヒッチハイク。元政治犯たちとトラックの荷台に乗せてもらう。彼らの中には拷問で足が膿み歩行困難な者もいる。そんな彼を背負って歩く大統領。彼らがこんな目にあったのは、体制に反対していたからで、そのトップにいたのが大統領。なんとも皮肉。彼らの中には大統領を恨んでいると言う者もいるけど、まさか本人とお酒やタバコを回し飲みすることになるとわ・・・ このシニカルでどこかほのぼのとしてしまうシーンは良かった。彼らとの間に不思議な一体感が生まれた頃、ある政治犯が小さな孫の両親、つまり大統領の息子殺害に関与していたことが分かる。ヅラをむしり取って、自分は大統領である、よくも息子を殺したと泣き叫ぶ姿が映し出される。でも、これは大統領の脳内再生で、実際は何も言わず足の悪い政治犯を背負って歩き続けている。生き延びるためという部分もあるかもしれないけれど、やっぱり自分が彼らにしたことを目の当たりにして、感じるところがあったのかもしれない。
名前がないので説明がしにくいのだけど、公式サイトによると、愛に生きる政治犯(ソソ・クヴェデリゼ)という彼には、大恋愛の末結婚した妻がいる。数年間投獄され拷問を受けた辛い日々を耐えたのも、再び妻と会う日を夢見ていたから。妻は絶対に待っていてくれると熱く語る彼の姿に、これはダメなパターンだなと思ってしまう。家に着くと、自分の力で行きたいと、不自由な足を引きずり、這いつくばって家に向かう。出てきた妻は彼の帰還に驚き、無事をよろこんでくれはしたけど、歓迎はしてくれなかった。彼が亡くなったと思っていた妻は、再婚して子供も生まれていたのだった。絶望した愛に生きる政治犯は、自ら命を絶ってしまう。なんということ・・・ 幸せだった彼らの人生を変えてしまう権利が、誰にあるというのか? やるせない。
政治犯たちと別れて再び2人きりになった大統領と小さな孫。列車に乗った兵士たちが通るため、畑でカカシの振りをする大統領と孫。それは(笑) でも、大統領は必死。でも、この光景を見ていた者が・・・ 彼はカカシの正体が大統領であるこを確信。どうやら皆に伝えたようで、大勢の人々が大統領を探しにやって来る。海岸へ逃げてきた大統領と小さな孫。砂浜に足跡を残してしまう痛恨のミス。横穴に隠れていたところを見つかってしまう。懸賞金狙いなのかなと思っていたら、人々は口々に大統領を殺せと言う。大統領の命令によって家族を殺された女性は、怒りで我を失っている感じ。そのくらい、政府が行った粛清が酷かったということなのでしょう。大統領は頭から血を流しており、引きずり回されている。前述したとおり、大統領が独裁者であることは、冒頭の死刑執行のサインと、電気の消灯くらいなので、見ている側には大統領に対する怒りはない。この辺りは出来る限りフラットな感覚で見て欲しいという意図があるのかな? フラットで見たからといって、民衆の怒りが理解できないわということはない。
民衆はますますヒートアップして行き、大統領をただ普通に殺しただけでは満足できないと言い出す。この頃には政治犯の2人が騒ぎを聞き駆けつけている。政治犯として酷い目にあった2人が、民衆をなだめようとしている。公式サイトで寛大な政治犯(ダト・ベシタイシュウィリ)と書かれている人物だと思うのだけど、彼は必死に解放を訴え続ける。でも、民衆の怒りは止まらない。その怒りは小さな孫に向けられる。大統領に痛手を与えるためには、彼の孫を目の前で殺すべきだというのだった。大統領がその死を許可した人々は、きっともっと酷い殺され方をしたのでしょう。そして、残された者の心には計り知れない傷を残したのでしょう。でも、ずっと見てきたこの小さな孫には何の罪もない。なんとか彼の命が助かって欲しいと思ってしまう。実の祖父を大統領と呼ぶように躾けられ、自分でお尻も拭けない、両親を殺害された小さな孫も、ある意味被害者と言えるのではないか? 印象的なシーンがあった。難民たちが集まる国境。用心のため子供連れの女性と共に行動するよう孫に言いつける。孫は意図は理解できないながらも、彼女のそばにいた孫は、マーチングソングが流れて来ると、急に立ち上がり敬礼しながら行進を始めてしまう。きっと彼はそう訓練されていたのでしょう。何してるのとイライラしつつも、おかしくもあり、切なくもあり。このシーンは強烈に印象に残った。
2人の政治犯の説得で、孫は解放される。でも、大統領への怒りは収まらない。寛大な政治犯は憎しみの連鎖を断ち切るべきだと説得する。では、大統領をどうすればいいのだ?と聞く民衆に、踊りを踊らせようと言う。その後、大統領がどうなったのかは見せない。寒々しい冬の海に、美しく澄んだ孫の瞳が印象的。この結論を見せない終わりは良かったと思う。これだけ重い選択は、どちらが正しくて、どちらが間違っているのか結論を出すのが難しい。大統領を赦すほうが、民衆にとっても良い選択だとは思うけれど、ならば大統領は何の裁きも受けないのか?とも思うし・・・ かといって、懸賞金目当てに彼を政府に引き渡せば、おそらく大統領は処刑されるのでしょうし・・・ ズッシリ重くなってしまったわけではないけど、心にズーンとくる作品だった。
キャストは全く知らない人ばかり。前述したとおり役名がないので、誰が何の役なのかサッパリ。公式サイトには、大統領役のミシャ・ゴミアシュウィリしか紹介がない 愛に生きる政治犯のソソ・クヴェデリゼの濁りのない瞳が印象的。辛い日々を過ごした彼が、唯一心の支えとしてきた妻への愛。その純粋さが感じられた。彼にとっては純愛だけど、妻にとっては日常を生きなきゃならないわけで・・・ 結果愛に殉じてしまう感じを好演していたと思う。売春婦のラ・スキタシュヴィリも良かったと思う。最悪の人生を生きつつ、強さを失わない感じを表現していたと思う。寛大な政治犯のダト・ベシタイシュウィリも良かった。彼は正論を言っているわけだけど、それが押しつけがましくも、虚しい理想論にもなっていなかったと思う。それだけに切なかった。
孫息子のダチ・オルウェラシュウィリがかわいい。ちょっとワガママだったりするけど、それはそう育てられたからで、ある意味洗脳されているとも言える。でも、そんな中に感じられる純真さが印象的。彼の瞳に映るものは、悲惨な現実だけれど、宮殿にいたころから実は本当に美しいものを見ていたわけじゃない。唯一、本当に美しかったのはマリアだけ。そのマリアにあれだけ固執するというのは、とっても意味が深いのかもしれない。大統領のミシャ・ゴミアシュウィリが素晴らしい! 大統領は結構サバイバル能力が高いので、独裁者になる前かなり苦労したのではないか?だから、独裁者になってやり過ぎてしまったのではないか?と感じさせた。決して愛情表現豊かな人物ではない大統領にも、息子や孫に対する愛情があることも伝わって来る。それらが、ほぼ無表情ながらきちんと感じられるのがスゴイ。
人が簡単に殺されたり、暴力を振るわれたりするけれど、決定的な場面は映されない。それが逆に想像させて辛かったりする。その見せ方も良かったと思う。重いテーマを、寓話的に見せる感じが好きだった。不思議儀な言葉。花嫁をレイプした兵士が「ガーマルチョバ」と挨拶していたので、どこの国の言葉だろうと調べてみたら、グルジア語(現ジョージア語)だった。架空の国ということになっているけど、ロケ地はジョージアなのだそう。暗い街並みと、寂し気な村の風景が印象的。実際のジョージアがどうなのかは不明だけど(o´ェ`o)ゞ
重めのテーマだけど、ズッシリ重くない作品見たい方(←何それ?(笑))オススメ。ジョージアに興味がある方もオススメ?なのか?(笑)
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