'15.04.25 『セッション』@TOHOシネマズみゆき座
スゴイ見たくて試写会応募しまくったけどハズレ とにかく評判が良かったので、期待値MAXで行ってきた~
ネタバレありです! 結末にも触れています!
「世界的なドラマーになることを夢見て、名門音楽院に入学したニーマン。ある日、フレッチャー教授から彼のバンドへスカウトされる。彼に認められることが音楽界での成功への道でもあるため、意気揚々と乗り込むが・・・」という話。面白かったし、見応えもあったのだけど、ちょっと期待値上げ過ぎたかなぁ。見ている間は楽しめたし、見終わってニヤリでもあったんだけど・・・
デミアン・チャゼル監督、脚本作品。毎度のWikipediaによりますと、監督ご自身の高校時代の体験をもとに書かれた80頁の脚本は、2012年にブラックリスト(映画化されていない素晴らし脚本)に載り話題となった。今作がデビュー作。現在30歳で撮影当時28歳だったそうなので、スゴイ才能だと思う。ご自身の体験をもとにしているということだから、フレッチャー教授のような先生がいたってこと? それはスゴイ 一応、バディ・リッチ(Wikipedia)のようなバンド・リーダーを参考にしたとのことだけど、自分は恥ずかしながら詳しくないので、全く分からない。2010年ローリング・ストーンズ誌が選ぶ歴史上もっとも偉大な100人のドラマーの6位に選出されたそうなので、素晴らしいドラマーなのでしょう。スミマセン 製作総指揮は『JUNO/ジュノ』『ヤング≒アダルト』(感想はコチラ)のジェイソン・ライトマン。この映画ちょっと面白いのは、資金調達のため15頁分を短編映画化。ドラマーをジョニー・シモンズ、教師役をJ・K・シモンズが演じた。この18分の短編映画は、第29回サンダンス映画祭で絶賛され、資金獲得に成功 ボールド・フィルムズが330万ドル出資したという経緯があるのだそう。
2013年8月マイルズ・テラーがアンドリュー・ニーマンを、J・K・シモンズがテレンス・フレッチャーを演じることが確定。9月には主要撮影を開始。主にL.Aを中心に撮影したそうで、ホテル・バークレー、オルフェウム・シアター、パレス・シアターなどが使われたとのこと。ちなみに舞台となるシャッファー音楽院は、名門ジュリアード音楽院がモデルなのだそう。2014年1月第30回サンダンス映画祭で観客賞・グランプリをダブル受賞。第72回ゴールデン・グローブ賞助演男優賞、第87回アカデミー賞助演男優賞受賞など、各映画祭で142ノミネートで51受賞。Rotten Tomatoes批評家支持率96%、10点中8.6点、Metacritic 88/100を獲得。『ガーディアン・オブ・ギャラクシー』(感想はコチラ)ジェームズ・ガン監督は2014年お気に入り映画12本の内の1本に選んでいるとのこと。
と、輝かしい成功を収めた今作だけど、音楽映画として見ると賛否あるようで、スレイトのフォレスト・ウィックマン(スレイトもフォレット・ウィックマンも分からない)は、映画の中で語られる「1930年代カウント・ベイシーのバンドで、チャーリー・パーカーが演奏中にミスをしたため、ジョー・ジョーンズがパーカーの頭にシンバルを投げつけた」というのは間違いで、ジョーンズはシンバルを床に叩きつけたのであり、パーカーへの体罰ではないとしている。また、練習量で天賦の才能は判定できない。映画のは習うより慣れろであると語ったとのこと。まぁねぇ・・・ 日本でも論争が起こり話題となった。自分はその論争自体を見ていないし、ROCKは好きだけど好みも偏っているし、全然詳しくない。ましてJAZZは全く分からない。なので偉そうなことは言えないけれど、あくまで映画を見た感想としては、JAZZを描きたいわけでも、ミュージシャンを描きたいわけでもない気がする。もちろん、JAZZ演奏家を目指す青年と鬼教師の話なので、音楽の話であるとは間違いないけれど、それはあくまで手段であって、別にこれがサッカーであっても成立する話だと思う。仮にJAZZ映画だとしても、ドキュメンタリーでもライヴ映像でもなく、あくまで"映画"なのでねぇ・・・ と、論争内容も知らないし、どちらの肩を持つつもりもないけれど、あくまで一映画好きとしての感想。
なんとなく見る前は、ずっと学校内の音楽室で終始する映画なんだと思ってた。何故だろう(笑) 実際は結構移動するし、主人公たちの境遇も変わる。ただ、これ描きたいのは、ニーマンとフレッチャーの闘いってことだと思うので、通常は自分用備忘メモとして、時系列にそって場面描写をしつつ感想を書いているけど、今回は2人の関係とか人物像に重点を置いて、あえて時系列は関係なく書こうかな。とか言いつつ、結局同じになったりして(o´ェ`o)ゞ
冒頭、自習室(?)でドラムを叩くニーマン。そこへスキンヘッドの中年男性が入って来る。ニーマンのドラムに注文をつける。それに応えようとするニーマン。男性は満足したのか、しなかったのか謎めいた様子で去る。この男性はフレッチャー教授。J・K・シモンズが演じることは知っているので、見ている側にも彼が誰なのか直ぐ分かってしまうけど、映画としてはこの時点では謎の人物にしておきたかったのかな? ただし、ニーマンは当然分かっている。音楽学校での授業がどういう感じで行われるのか不明だけど、JAZZドラマーを目指すニーマンはバンド形式の授業を受けているのかな? ドラマーはメインとサブがいるようで、ニーマンはサブ。メインの楽譜めくりなどをしている。メインのコノリーは友人と言いつつもちょっと上からの態度で、ニーマンも不服な様子。そこへフレッチャー登場。彼はニーマンに明日の朝6時に自分のバンド練習に加わるように言い去って行く。どうやらフレッチャーのバンドに加われるのは、才能を認められたということで、プロへの近道でもあるらしい。これに自信を持ったのか、ニーマンは以前から気になっていた映画館の女性店員をデートに誘う。こちらも上手く行き意気揚々。男性は特に大きな成功を掴むと同時に、恋愛も充実させようとする傾向にあるようで まぁ、分かる気もするけれど(笑) 後にこの恋は悲惨な結果に。ただ、ニーマンの身勝手さやコンプレックスが感じられて、映画全体としては一見必要なさそうな、この恋愛エピソードは重要だったと思う。
さて、翌朝寝坊して慌てて音楽室に行くも誰も居ない。待てど暮らせど誰も来ず、皆がやって来たのは9時。これは一体何? フレッチャーは入って来るなりニーマンを一瞥するもほぼ無視。ニーマンはもちろんメインではないので、メインのターナーに場所を譲る。ピリピリした空気が漂う中、演奏スタート。一音でニーマンがいたバンドとの音の違いが分かる。これは間違いなくエリート集団。するとフレッチャーが演奏を止める。音がズレてる者がいる。自分だと思うものは? 反応なし。ただし皆ビクビク顔。再び演奏開始。直後に止めるフレッチャー。音がズレてる自覚がある者は? 反応なし。こんなやり取りが何度か続いた後、フレッチャーは太めの男子生徒(そういえばこのバンド女子生徒いたっけ?)に声を掛ける。音がズレてる自覚はあるか? はいと消え入りそうに答える太め。だったら何故まだここにいるんだ? 泣きながら出ていく太め生徒。ボー然とする残りのメンバー。うわーと思っていると、フレッチャーが同じパートの別の生徒に声を掛ける。音がズレていたのはお前だ。自覚はないのか? えー じゃあ、おデブちゃんはどうなるの? 何故長々このシーンを描写したのかと言うと、この理不尽さを書きたかったから! 確かにおデブちゃんが自分の音をきちんと聞けていて、自信を持って自分はズレていないと言えれば、逆にフレッチャーは彼を評価したのかもしれない。また、そうでなければ大成はしないということかもしれない。でもねぇ・・・ このフレッチャーの指導方法を、受け入れられるかってことが、この映画を好きかどうかが分かれるところかも? 個人的には芸術が生み出される背景とか、芸術家とはみたいな作品に弱い。多少、どうかと思うことでも、芸術のためなら仕方ないよ!と納得してしまったり、無条件で感動してしまう部分がある。そういう意味では、フレッチャーが言わんとしていることや、やろうとしていることは理解できるのだけど、これはさすがに理不尽な気がした。
後のシーンでフレッチャーがニーマンに、いわゆる天才型ではなく努力を重ねた中から、本当の才能を見出すことが出来る場合もあるんじゃないか? だから自分はそれを見つけたいというようなことを語る。この流れからラスト9分19秒に繋がることになるのだけど、そのラストも含めてどこまでフレッチャーの狙いなのか分からない。とにかく、フレッチャーが生徒たち、特にニーマンに対する行動をどこまで"指導"と言えるのかってことが問題。初日からドラムを叩かせてテンポが早いと言って止め、調整すれば遅いと言って止め。素人の自分には全く分からないその違いを、何度も何度も繰り返し、分からないと言えば椅子を投げつけ、テンポがつかめないからと頬を平手打ち。理解できるまで平手打ち。これは・・・ フレッチャーにしてみれば"彼"のテンポがあるのであって、それに合わせられるのが真のプロであるってことなのでしょうけれど、これは"指導"なのかと?
とにかく全てがこの調子で、いわゆる分かりやすい"指導"は一切ない。生徒の意見も全く受け付けない。食らいついてくるニーマンのことは見どころありと思っているようでありつつ、何故かメインのターナーの他に、元のクラスでメインだったコノリーもスカウトしてきて、3人でメイン争いをさせる。コノリーが叩いてダメなら交代、ニーマンが叩いてダメなら交代を繰り返す。その間他のメンバーは廊下で待機。スティックを握るニーマンたちの指からマメがつぶれて血が流れ、ドラムに血が滴る 結局ニーマンがメインを勝ち取り、メンバーが教室に戻されたのは深夜。ここまでしなければ"本物"にはなれないと言われればそうなのかもしれないけれど、逆にここまでする権利があるのかっていう気も・・・ もちろん、ニーマンたちだけでなくて、他のメンバーを待たせていることも含めて。ただまぁ、自分流を強制はしているけれど、バンドを抜けることを止めているわけではないと思うけど、初日のおデブくん以外、バンドを辞めた生徒はいなかったように思う。ただ、彼らがバンドを抜けた後、別のバンドに加われるのかは、前述したとおり授業体制が不明なので全く分からない。そもそも、このフレッチャーのバンドは授業なのか? それともあくまでバンドサークルとしてやっていることなのか?
さて、フレッチャーのことばかり書いてきたけど、この映画が面白いのは、主人公のニーマンも好青年とは言い切れないこと。彼は自分には才能があると思っているけど、家でもマメがつぶれるほど練習しているので、単純に根拠のない自信過剰な鼻持ちならない人物というわけでもない。ニーマンの父親は息子思いのいい人だけど、親戚からは離婚歴があることもあり、人生に失敗した人物と見られている。その息子であるニーマンも同じように見下している感じ。親戚の価値観では、アメフトの英雄 > ミュージシャンらしく、ニーマンが言うところの三流大学のヒーローである従兄の方が、有名音楽大学のエリートであるニーマンよりも上だという考え方。人の価値観はそれぞれだし、興味がなければ詳しく知らないだろうから、こんな感じの人もいるかもと思うけれど、本人に対して見下した態度には腹が立つ。でも、聞かれてもいないのに自慢話を始めたのはニーマンの方(笑) しかも、従兄を罵倒して、じゃあお前はどうなんだ?と聞かれれば、何も答えられずに席を立ってしまう。重複するけど、どんな理由があれ人を見下した態度をするのは失礼だけど、ニーマンもニーマンだと。さらに、恋人ニコルと別れることを決意。理由は練習の妨げになるから。人生の重要な時期に、恋愛よりも学業や仕事を選ぶってことはあると思う。それは否定しないし、絶対にダメだという気もない。でも、何もバカ正直に本人に言わなくても ドラムの練習に打ち込みたいから距離を置こうでいいのに、話してると止まらなくなっちゃうのか、いつか君はドラムと自分のどっちを取るかって言うことになると思うからって┐(´-д-`)┌ そりゃ、ニコルも見てる側も何様なの?って思うよ(笑) 要するにコンプレックスの裏返しでプライドが高く、攻撃的になったり自分を大きく見せようとして、従兄たちみたいな俗物に逆にバカにされてしまう典型的なタイプ。どうせ誰かに分かってもらおうなんて思ってないし、友達なんていらないって感じで友達もいない。いないんじゃなくて作らないだけだからみたいな感じ(笑) このタイプの主人公でこういうテーマの映画の場合、主人公の成長が描かれたりするけど、ニーマンは基本そんなに変わらない。ラストちょっと兆しが見えた感じで終わる。それは個人的に好きだった。
そもそも、最初にニーマンがメインドラマーになったのも、メインだったターナーから預かった楽譜を不用意に置いて無くしてしまったから。ターナーは暗譜が出来ていないため、楽譜が無いと演奏が出来ない。自分は演奏できると申し出てメインとなった。まぁさすがにワザとやったわけではないし、大切な楽譜を人に預けるのも不注意。そして、暗譜出来ていないのも致命的ではあるけど、メンバーは白けた感じに。中盤のハイライトでもある、コンペティションに出演するため、バスで現地へ向かうニーマン。なんと車両トラブルで遅刻しそうになってしまう。慌ててレンタカーを借りてギリギリ会場入りするも、レンタカー会社にスティックを置き忘れてしまう痛恨のミス。メインはコノリーで行くと言われてしまうが、何とか食い下がり、絶対時間までに戻るし、失敗したらバンドを辞めると言い切ってしまう。無事にスティックを見つけて戻る途中、何とトラックと衝突 ニーマンは頭から血を流しながらも、走って会場へ向かう。もはや、これはコメディなのか?(笑) 血まみれのままステージに上がり、ドラムを叩くけれどケガの痛みでスティックを落としてしまう。終わりだとフレッチャーに告げられて、逆上してステージ上で殴り掛かってしまい。退学処分。これがニーマンとフレッチャーの公開バトル第一弾。そもそものニーマンの資質もあると思うけれど、やっぱりフレッチャーに振り回された部分はあると思う。そもそも、バスのトラブル発生時に連絡しなったのも、自分のポジションを奪われると考えたからでしょうし・・・ でも、バンド全体のことを考えれば、代役を立てて演奏することが最善策なわけで。こんなの見せられた観客や、巻き添えになったメンバーのことは考えているのか?お2人?(笑)
退学処分となったニーマンは、穏やかではあるけれど満たされない日々。回想シーンで女性弁護士との会話。父親が退学を不服とし接触したこの弁護士は、フレッチャーの元教え子で先日亡くなったミュージシャンの両親に雇われている。フレッチャーの指導で鬱病になってしまった彼は、その後も苦しみ続け、自ら命を絶ってしまったのだった。両親は直接フレッチャーを訴えることが出来ないが、彼の指導が行き過ぎであるという証言が得られれば、彼を辞職させることが出来るというのだった。ニーマンは悩むけれど、また彼の指導による被害者を出さないためだと言われ、匿名で証言してしまう。実は、前述の3人のメイン争いとなる練習前にフレッチャーにも連絡が入っていた。彼はその死を悼み涙ながらに、ニーマンたちに話した。ただし、死因は事故死だと語った。これは自己保身だったのか、教え子の名誉のために伏せたのか? まぁでも、自分が追い込んだという自覚はあったのではないかと思う。その後あの狂気じみたポジション争いを3人にさせたというのは、彼の罪悪感の裏返し? セリフがあまりなくて、画で見せる感じなので、登場人物たちの心理は自分で汲み取って行くしかない。それにしてはフレッチャーは謎過ぎる・・・ この辺りも好き嫌いが分かれるところかも。
偶然パブで演奏するフレッチャーを見かけたニーマン。フレッチャーは彼を飲みに誘う。彼は音楽院を辞めたことを語り、今度音楽祭で指揮をするバンドでドラムを叩いてくれないかと誘う。最初は戸惑うものの結局これを受ける。初めて腹を割ってフレッチャーと話せた安心感か、偉大なミュージシャンを育てるという彼の夢を奪った罪悪感か、単純に自分が必要とされる喜びか? 多分その全部(笑) 練習を再開すると、やっぱりドラムが好きだったと生き生きする。なるほど、そういう話かと思っていると・・・ ここで何を思ったかニーマンはニコルに電話を掛けて音楽祭を見に来て欲しいと誘う。名声と恋愛両方手に入れたくなる相変わらずな感じや、他に友人のいない孤独感、自己中心的な感じを表しているのかな? 結局、彼氏がいることをほのめかされて玉砕。本当のところはどうなのは分からないけど、ニーマンのあの別れ話に対して、ニコルの大人な対応が見事。一矢報いた
さて、いつも通り長文になってきたけど、ここから例の9分19秒のバトルへ! 音楽祭当日ドラムの前に座るニーマン。フレッチャーが現れ演奏開始。と、始まったのは自分の知らない曲。1人だけ全く違う楽譜を渡されていたのだった! デミアン・チャドル監督は『グランド・ピアノ 狙われた黒鍵』の脚本担当だったそうだけれど、あの時もいくらなんでもこんなのあり?な事多くて、音楽詳しくないのかと思ってたけど、今作が実体験ベースなのだからむしろ詳しいってことだよね。 でも、バンド演奏なのにニーマンだけ一緒に練習してない曲を演奏するって、メンバーが不思議に思うでしょ普通。メインドラムと合せて練習しないってありなのか? というツッコミはしてはいけないんでしょうね(笑) 戸惑うニーマンの所へフレッチャーがやって来て、「告げ口したのはお前だな」と告げる。えー 復讐ってこと? じゃ、バンドメンバーは巻き添え? 結局、ニーマンはグダグダ。フレッチャーになじられてステージを降りてしまう。舞台袖には心配そうな父親の姿。そして、ニーマンは決意してステージへ戻る。フレッチャーを無視してドラムを叩き始め、戸惑うピアノ担当に「CARAVANだ!」と指示。そして、演奏が始まる。ニーマン渾身のドラムは、この名曲と共に感動的 それは素晴らしい演奏とかいう生やさしいものではなく、ニーマンとフレッチャーの復讐であり闘い。プロレスだと称する方もいるけど、確かにそんな感じ。ただねぇ・・・ 結果的にとてつもなく素晴らしい演奏を、他のメンバーも観客も体験できたわけだけど、グダグダ演奏のままドラムが退場で終わる可能性もあったわけで。フレッチャーの最後の表情を見ると、ニーマンに賭けたのだろうとは思うけれど、いずれにしても巻き込まれた方はたまらない(笑)
フレッチャーの行動を復讐と取るか、ニーマンに賭けたと取るかは人それぞれでしょうし、どちらに解釈しても映画として面白いと思う。個人的にはどちらもあったのかなと・・・ フレッチャーは音楽を愛しているのだろうし、それを生み出すミュージシャンも敬愛しているのだと思う。ニーマンと飲んでいた時に語った、才能を埋もれさせたくないというのは本心だと思う。その為には0.1秒のテンポのズレも許さない厳しさが必要なのも分かるし、生徒に怖がられようが憎まれようが信念を貫くのもスゴイと思うけれど、生徒個人に対する愛情は感じなかったかな・・・ まぁ、結果彼らが世に出て成功すれば、自分は憎まれてもOKという考え方なのかもしれないけど、そういう風にも取れなかったような・・・ 挫折してもそれも含めて生徒の実力ってことなんだろうけど、何となくスッキリしない。いつもなら、こんなの見せられたらボロボロ泣いて、やっぱり芸術って素晴らしい! と感動しているハズなんだけど・・・ 何故だろう?
うーん、例えばボリショイ・バレエ団は、バレエ学校入学の時点で、本人だけでなく両親の骨格も調べられ、基準を満たさないと入学許可されない。どんなに練習しても、ボリショイ・バレエ団で踊れるようにはなりませんってこと。ボリショイって女性も男性も大柄なこともあるかもしれないけど・・・ 厳しいと思いつつも、それを理不尽とは思わない。そうしなければ守れない芸術と伝統もある。JAZZを芸術じゃないと言ってるわけじゃなく、フレッチャーの指導にしっくり来ないものを感じてるってだけ。ただ、脚本も担当したチャドル監督は、ニーマンのような体験を経て、結果音楽の道には進まなかったわけで、フレッチャーを肯定的に描いているわけでもないのかも。あくまで欠点を抱えた、天才ではない者たちの闘いってことなのかな? そういう意味ではとっても納得だし、素晴らしい作品。でも、同じ師弟の闘いの話なら『4分間のピアニスト』(感想はコチラ)の方が好き。まぁ、内容も違うし、比べても意味ないけど(笑)
キャストは人数的にはそれなりに出演しているけど、ほぼ2人芝居のような感じ。2人が強烈過ぎるし、基本2人のことしか描いていないので、他の作品以上にその他大勢感があるのは仕方なし。そんな中でも良かったのは、ニーマンの父親役のポール・ライザー。友人もなく、従兄とも対立してしまう息子の唯一の味方。親戚にはバカにされている父親だけど、息子のためには教師を訴えようとする面もある。その加減が絶妙。フレッチャーのJ・K・シモンズが助演男優賞を受賞しているのだから、主演はニーマンのマイルズ・テラーなのでしょう。変な言い方だけど、どちらが主役でもありな感じなので・・・ でも、話はちゃんとニーマン中心に進む。撮影時19歳だったそうなので、そういう意味ではニーマンと近い感覚の部分もあったのかも? ドラムを演奏するシーンは吹替えなしで演じたそうで、血も本物なのだとか ケガをして欲しいわけではないけれど、画面から受ける気迫のようなものが感じられたのは確か。見ていて感じの良い青年ではないニーマンを、それでも自分の夢に向かって、例え人に嫌われても突き進んで行くがむしゃらさと、夢破れた後の自信喪失感。そして、再び闘志を燃やすラストまで素晴らしい演技だったと思う。
そして、何といってもフレッチャーのJ・K・シモンズ! この役もニーマン以上に良い人とは言い切れない。狂気ってことはないけど、これは完全にパワハラ。だって、頭から血を流している生徒を、ステージ上でいたぶるって・・・ それだけ真剣勝負なのだと言われればそうかもしれないけど、自己満足と言えばそうなわけで。ただ、暴君であることは間違いないけど、ついて行く生徒もいるわけだし。まぁ、慕われている感じはしないけど(笑) でも、ニーマンが密告するのをためらったのは、フレッチャーの手腕を認めている部分があったからだと思う。そういう敵か味方か、最後までつかめない人物であったのは素晴らしかったし、とにかく顔力と言いたくなる迫力の表情で、画面から受けるパワーがスゴイ。見ている側まで緊張させる。そして、ちょっと面白くなって来たりする(笑) 大好きなサム・ライミ版『スパイダーマン』シリーズ(『スパイダーマン3』の感想はコチラ)の編集長J・ジョナ・ジェイムソンとはまた違った顔力を見せてもらって大満足
うーん。好きかと聞かれると微妙かなぁ・・・ "芸術"を生み出す苦悩を、斬新な試みで描いた作品ならば、『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(感想はコチラ)の方がしっくり来る。前述のフォレスト・ウィックマンが「映画のは習うより慣れろだ」と評したのは分かる気がする。凡人が天才と同じ土俵に立つには、それしかないのかなと思うけれど、最近「100分 de 名著」で"涅槃経"を学んだ身としては、凡人として天才を支え、その恩恵を享受するのもありかと思ったり・・・ そう考えちゃうのは、もう若くはないからか?(笑)
とはいえ、スゴイものを見たとは思ったし、面白かった。ラスト9分19秒が素晴らしい! 見終わって疲れたけどニヤリだった。ちなみに、この時演奏された"CARAVAN"はバディ・リッチ版とのこと。そうそう、ニーマンが初日にダメ出しの嵐を浴びる際、バンドが練習していたのは、ハンク・レヴィの"Whiplash"で、原題も『Whiplash』。これは鞭打つという意味だそうで、なるほど納得( ̄ー ̄)ニヤリ
見てから3週間以上経ってしまった でも、まだ上映していると思うので、これは映画館で是非。ある意味観客も真剣勝負なので(笑) 普段あまり映画を見ない人はどうなのかな? JAZZ映画や音楽映画を求める人はダメかも。殴り合わない格闘技見たい方是非!
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