前の記事ではバファローズのクライマックスシリーズ勝利を祝い、翌日には神仏霊場めぐりで京都を訪ねたのだが、それはまた次の機会で書くとして、まずはその前週に訪ねた中国四十九薬師めぐりである。
旧国鉄特急色「やくも9号」、この夏登場した観光列車「Saku美Saku楽」乗車から帰宅した翌日の10月10日、今度は山陽線を西に向けて出発する。岡山県内を回った翌日に下関に行く、JRの「秋の乗り放題パス」ならではのことである。
下関に行くのは中国観音霊場めぐりでのお出かけで、目的地は下関駅近くの東光寺である。札所番号は第31番ということですでに半分以上過ぎているのだが、地理的にはちょうど本州の西の端で、ようやく山陽から折り返して山陰に入る足掛かりとなる。一時は、クルマを使って下関からその後の長門市、萩市までぐるり回ろうかとも思ったが、とりあえず下関まで行って山陽側の一区切りにしようと思う。
西広島を6時に出発して、岩国で下関行きに乗り換える。この夏も何回か通ったパターンである。さすがに夏の「青春18きっぷ」のような座席の争奪戦もなく、晴天の中を進んでいく。下関まで3時間あまりの車内は読書のひと時ともなる。読んでいるのは太平洋戦争に絡んだものだが、広島から山口東部にかけてはその歴史に関するスポットも数々あるところで、改めて訪ねてみたいと思いを膨らませる。
10時01分、終点下関到着。このすぐ後には山陰線の「○○のはなし」もやって来る。中国四十九薬師めぐりに先行して乗車したが、また楽しみたい列車であるが今回はそのまま改札を出る。
東光寺は駅から徒歩10分くらいということで早速向かうことにする。まずは、韓国料理や雑貨を扱う店が並ぶグリーンモール商店街の入口にある釜山門の前を過ぎる。下関のグルメといえばフグに代表される海の幸が連想されるが、韓国料理も名物である。
長く石段が伸びる大歳神社の前に出る。せっかくなので上ってみる。石段は全部で115段あるそうで、その途中に「本厄」や「還暦」、「喜寿」など、人生の節目に対応する数の石段にプレートが刻まれている。階段を上る苦労と人生を掛け合わせているようだ。
大歳神社は、源義経が壇ノ浦の戦いを前に、関門海峡を望むこの高台に上がり、戦勝祈願を行ったのが由来とされる。それ以来、武運長久の神として崇敬され、幕末に奇兵隊を結成した高杉晋作も軍旗を大歳神社に奉納している。奇兵隊を支援していた下関の商人・白石正一郎が大歳神社の氏子だった縁もある。今は建物が並ぶのでそれほど景色は望めないが、関門海峡から彦島、そして九州を見るにちょうどよい場所である。下関の神社で手を合わせられても神様が当惑するだけだろうが、武運長久ならバファローズのクライマックスシリーズ勝利を願う・・。
国道9号線から1本中に入った豊前田通りに入る。山口県最大の歓楽街ということで、ふく専門店やバーが入るビルも並ぶが、現在は月曜日(祝日)のまだ午前中。さすがに開いている店はなく、時折クルマが通るくらいの静けさである。
その一角に、東光寺の入口がある。あらかじめ目的地とするのでなければそのまま通過するだろう。鉄の門の先に坂道がある。この辺りはすぐ裏が高台になっており、東光寺もそうした立地である。石段の途中に墓地もあり、その先に門が現れる。ちょうど後ろを振り返ると海峡ゆめタワーがそびえている。こちらも、現在のように建物が並ぶ前なら関門海峡を眺めることができただろう。
本堂、そして棟続きとなる庫裏も新しい建物である。扉が閉まっているので外でお勤めとする。
東光寺という名前の寺は他にも各地にあるそうだが、私が知る中では西宮の門戸厄神・東光寺がある。東光とは「東方瑠璃光」のことで、薬師如来を示している。下関の東光寺は鎌倉時代に文覚上人により開かれたとされ、後に時宗を経て禅宗の寺院になっている。現在地には江戸時代中期に移ったそうだ。幕末には高杉晋作や伊藤博文が長州藩内での挙兵を行った際、一時陣を置いたという。
本堂の向かいに変わった塚がある。庖丁塚というもので、役目を終えた庖丁が奉納されており、毎年供養祭も行われるとある。下関といえばフグ料理で、身を薄く引いたフク刺し(てっさ)が有名。それ専用の庖丁もあるそうだ。ちょうどフグの初競りも終わり、これから本格的に市場に出回る頃。うーん、食べたくなってきたぞ。
さて、朱印をいただこうと、本堂の扉が閉まっているので、棟続きの庫裏のインターフォンを鳴らす。このパターンはローカル札所ではよくあることで別にどうということはないが・・応答がない。たまたま不在なのかな。ちょうど石段を一人の男性が上がってきたが、寺の方ではなく、奥の墓地にお参りに来た様子だった。
ちょっと慌てる。ここで朱印なしとなるとまた出直しか・・。幸い、この日はその先の札所まで行ってしまう行程ではなく、この後関門海峡の向こうを訪ねるにしても、下関駅から再び山陽線で戻る予定になっている。ならば帰りにもう一度のぞくことにして、ここはいったん寺を後にする。
そのまま国道9号線に出て、ちょうどやって来たバスに乗り込んで唐戸に向かう。カモンワーフの飲食店はそろそろ開店という時間帯だが、その一角を抜けて唐戸市場に向かう。
ここに揚がったばかりの魚が寿司や刺身、揚げ物などでいただけるということで観光客にも人気のスポットである。ちょうど昼前、どの店にも多くの客が群がっており、長い行列ができる店もある。私は特にどの店というお目当てがあるわけではないのだが、「ふく専門」という看板がある店でまずはフク刺しのパックを買い求める。その後、別の店で寿司をあれこれ指さしてパックにしてもらう。
これを唐戸市場外の関門海峡沿いの歩道に持ち込む。市場で買ったものをここで広げるのが観光の楽しみで、多くの人が舌鼓を打っている。なお、市場の中でもアルコールは売っているが、こればかりは近くのコンビニで入手したほうがよい。
先ほどのフク刺しに、寿司のパックを広げる。ネタは大トロ、フク、のどぐろ、ヒラメ、クジラベーコンといったところ。そして昼からの一献とする。そりゃ、寿司だけでもそれなりの値段がするし、観光客価格なのかもしれないが、そこは唐戸に来て、関門海峡を行き交う船舶など眺めながらいただくということでよしとする。
されこれからどうするか。先ほど東光寺で朱印をいただいていないのが気になるが、それは帰りにもう一度訪ねるとして、まずは目の前に広がる九州、門司に渡ってみよう・・・。