広島から延岡に向かうのに瀬戸内海と豊後水道を渡るルートで行く九州八十八ヶ所百八霊場。まずは広島宇品港から「スーパージェット」で松山観光港に上陸し、道後温泉行きのリムジンバスでJR松山駅に到着した。
松山駅は現在高架化工事が進んでいる。完成は来年秋頃の予定で、その時にはこの味のある三角屋根の駅舎もリニューアルされるそうで、このデザインもなくなるのだろうか。
さて、松山では次に乗る10時18分発の特急「宇和海9号」まで1時間ほどある。さすがにこのインターバルでは道後温泉や松山城に行くには足りず、駅近辺で過ごすことになる。
そこで行く前に目をつけていたのが、松山駅前にある「喜助の湯」。松山や今治でアミューズメント産業を手がけているキスケが運営しているスーパー銭湯で、私が四国八十八ヶ所めぐりをした時、松山近辺のしりーうで何度か利用したことがある。まだ汗はそれほどかいていないが、久しぶりに松山に来たことだし、いったんさっぱりしようか。
スーパー銭湯といいつつも、湯は道後温泉郷から湧き出す天然温泉で、道後温泉本館などとは異なりさまざまなスタイルの浴槽が楽しめ、サウナも充実している。
この後は湯上りでしばし休憩する。一瞬、このまま松山でゆったりして広島に帰ってもいいかなとすら思ったが、そこは予定の列車に間に合うように出発する。
湯上りのビールはこの後の楽しみとして、構内のコンビニで飲み物と保冷剤代わりのグラス入り氷を仕入れ、改札口横のうどんコーナーにて宇和島名物のじゃこ天を購入する。これをかじりながら海を渡るのもよいだろう。
松山駅の特徴として長い1番ホームがあり、高松・岡山方面の「しおかぜ」・「いしづち」と、八幡浜・宇和島方面の「宇和海」がホームの左右に停車して、同じホームで乗り継ぐことができる。平面式で改札口が1ヶ所しかない駅ならではの構造である。さすがに高架化されたらこの方式はなくなり、同じホームの向かい側での乗り換えとなるだろうが。
これから乗る「宇和海9号」。3両という短い編成でもあり、それぞれの乗車口にはそれなりの列ができている。あらかじめ指定席を確保していたが、3両編成のうち、3号車の後ろ半分だけの設定で、青のシートカバーに「指定席」の文字がある。残りの自由席も含めてほぼ満席で、連休中だからか、この先に向けても結構需要があるものだと思う。
工事中の高架橋に沿い、次の市坪駅を通過する。駅横にあるのは坊っちゃんスタジアム。ちょうど夏の高校野球の愛媛大会の期間中で、スタンドの上には朝日新聞の旗が並ぶ。試合をやっているのかなと検索すると、この時は松山学院対大洲高校の対戦とあった。この後の結果は4対0で松山学院が勝利した模様(ちなみに、この夏の愛媛大会を制したのは川之江高校=21年ぶり=であった)。
伊予市に停車後、向井原から内子経由の路線に入る。一方下灘、伊予長浜経由の「愛ある伊予灘線」が離れていく。特急はすべて内子経由で、「愛ある伊予灘線」は完全なローカル区間なのだが、観光列車「伊予灘ものがたり」が走る路線として人気である。以前、四国八十八ヶ所めぐりで松山を訪ねた時、真ん中の1日が雨ということもあって札所めぐりを休み、代わりに「伊予灘ものがたり」に乗り、途中下灘にも停車して伊予大洲まで行ったことがある。元より雨なので伊予灘の景色は今一つだったが・・今のような天気なら瀬戸内海の眺めも最高だろう。今回のプランニングで、リニューアルされた「伊予灘ものがたり」に乗ることも一瞬考えたが満席だった。
高架橋、トンネルで一気に快走し、観光地の内子で若干の下車がある。
10時52分、伊予大洲に到着。するとここで指定席、自由席とも多くの客が席を立つ。伊予大洲も観光地だが、乗客の多くが席を立つところとまではいかないはずで意外に感じる。
ただそれもすぐに納得した。反対側のホームにその「伊予灘ものがたり」が停まっており、客室乗務員が「宇和海9号」に向けて手を振っている。どうやら乗客の多くが、松山から伊予大洲まで「宇和海9号」に乗り、伊予大洲10時57分発の「伊予灘ものがたり 双海編」に乗り換えるようである。「双海編」はこの先車内で昼食を楽しみつつ、下灘駅にも停車して13時01分に松山に戻るというプラン。私が以前乗った時はキハ47の2両編成だが、現在はキハ185を使った3両編成に「グレードアップ」されている。そのことも新たな人気につながっているようだ。いずれ乗ってみたいものである。
一気にガラガラとなった「宇和海9号」。肱川の向こうに大洲城の模擬天守を見て、もう少し走って11時04分、八幡浜に到着。
八幡浜~臼杵間は宇和島運輸フェリーと九四オレンジフェリーの2社が交互に運航しており、次の便は11時45分発の宇和島運輸フェリーである。駅からフェリーターミナルまで歩くと時間的に結構ギリギリだし、またこの暑さである。ここは駅から(私にはめったにないことだが)タクシーに乗ることに決めていた。
他にもフェリーに乗るらしい客が何組かいたが、停まっていた最後の1台に乗る。運転手は「まっすぐ行っても信号にひっかかるんで、裏道を行きますよ」と、1本入ったとおりをグネグネと走る。八幡浜には以前、別府からのフェリーで着いた時に街中のホテルに泊まったことがあり、見覚えのある通りも見える。
裏道のおかげか?他のタクシーより心持ち早くフェリーターミナルに着いた。まあ、早く着いたといってもほんの1~2分の差で、フェリーの時間には十分余裕があったし、急いで乗船手続きをしなければ席が確保できないほどの客がいるわけでもなかった。
フェリーターミナルは2022年に新築された建物である。現在宇和島運輸フェリーの窓口が開いており、用紙に記入して乗船券を購入する。売店があったが、弁当は限定販売ということで早くも売り切れ。まあ、先ほどの飲み物もあるし、何ならじゃこ天もあるので航海中も何とか持つだろう。
待合室の一角にドアが置かれている。映画「すずめの戸締まり」にちなんだものだという。映画を観ていないのでよく知らないのだが、各地の景色が映画の舞台のモデルとなっているそうで、愛媛県からも八幡浜、伊予大洲などが登場するという。