国道10号線を南下し、都農町に入って第35番・行真寺を目指す。カーナビはこの先の道を示すが、目の前に駐車場があり、こちらが正面のようである。本堂までは少し歩くようだが、一帯の森も含めて境内のようだ。
途中、「白水の滝」に続く道がある。そういう名勝があるのかと思うが、ともかく向かうのは本堂である。
緩やかな坂を上っていると坂の上から「お参りの方ですか~」と呼ぶ声がする。境内の掃除か除草作業をしている様子の方だが、まあ、こう言っては失礼だが観光客が訪ねる寺院でもなさそうで、来るとすればお参りだと思うが・・。
「住職を呼んできますので、どうぞこちらへ!」と本堂に案内される。八角形の、夢殿を連想させる建物である。いや、本堂の扉が閉まっているので開けましょうというのはこれまでにもいくつかの札所であったが、それにとどまらず住職を呼んでくるとは大仰だ。
本堂は2階建てで、1階は空手の道場、そして2階が本堂である。扉が開いて中に入り、さてお勤めというところで住職が入ってこられた。納経帳を預け、内陣の灯りをつけてもらい、本尊大日如来に向けてのお勤めとする。まあ、ローカル札所で小ぢんまりした寺院が多いので、住職直々に対応いただくこともたまにある。ご丁寧なことだ。
お勤めを終えるとテーブルに納経帳と、パンフレット、そして寺で発行している「黎明 心の古里」という会誌が置かれていて、扇風機とお茶を勧められる。「今日は何かそういう日なのか、今日だけでお参りが3人目ですよ」と言われる。九州八十八ヶ所百八霊場めぐりで訪ねた人のことかな。そうした参詣者が来る都度、住職自ら対応しているように思われたが、それにしても、先ほどはまるで私が来るのが、係の人を含め事前にわかっていたかのような出迎えに感じた。
お茶を勧められるとともに「少し時間ありますか?」と訊かれ、住職からの話が始まる。そこで出たのは「霊性」という言葉。
住職はこの寺の先代住職の子として生まれたが、寺の後を継ぐのが嫌で、大学は仏教とは関係のない学部に入った。ところがある時、人間の持つ「霊性」というものに目覚め、これを研究しようと寺に戻り修行を積んだ。そこで「霊性」とは本性=神性の愛、仏の慈悲であると感得し、思想、宗教、国境を越えて宇宙真理に生きるとした。
「霊性開発」というと何だか大丈夫か、ナントカ教会みたいに高いお布施を取られやせんかと身構えてしまうが、住職としては、釈迦の教えを一言で示すなれば、というところのようだ。人には元々「五智」が備わっているが、生まれた瞬間にそれを忘れてしまう。そこでさまざまな修行や徳を積んで能力(霊性)を開発し「五智」を備えた完全な存在になる・・・。
・・・神妙な顔をして聞いていたが、正直、一度聞いてすぐに理解できる内容ではない。
現在の本堂は先代住職の設計をもとに今の住職が建てたそうで、その霊性、真理についてさまざまな仏像を通して表しているという。本堂の外に新たに建つ美恵観音や弥勒菩薩、金剛薩捶もその一つである。御年82歳という住職、自分としてはやるだけのことはやったという思いがあり、次の代に引き継ぐ準備はできているという。
その中で、「神武天皇ゆかりの都農の地で霊性を開発することに意味がある」という言葉が印象に残った。近くに都農神社というのがあり、神武天皇を祭神とする日向国の一ノ宮である。住職によれば、「霊性」の目覚めによる地球黎明祝福の事業は、神武天皇による大和の国造りから始まったという。そして、釈迦如来、イエス・キリスト、役行者、そして弘法大師へと継承されているとしている。釈迦如来の前に神武天皇ありというのは、私にとっては初めての世界観である。
都農神社とは名前だけは聞いたことがあるかなという程度のスポットだが、神武天皇の東正にも登場するところで、行真寺の住職から名前が出るくらいなら、せっかくなのでこの後で行ってみることにしよう。それにしても、日向シリーズの今回、寺参りといいつつ神社、神話の色合いが濃くなったと感じる。
30分ほど住職の話を伺った後、見送られて本堂を後にする。先ほど看板があった白水の滝だが、行願寺の奥の院に当たるとはいえ、到着には時間がかかりそうだ。その代わり、都農神社に行くことにする。近隣の道を走り、再び国道10号線との交差点に出ると、正面に石の鳥居が出迎える。
都農神社は神武天皇の東征の際、ここに大己貴命を祀り武運長久を祈ったことが始まりとされている。また、神功皇后の三韓征伐に際して海の安全を祈り、その凱旋の時に社殿を設けたのが始まりともされている。その後は日向の伊東氏の保護もあり栄えたが、戦国時代の島津氏、大友氏の争いの中で社殿も焼失した。江戸時代に高鍋藩の秋月氏により再興され、明治以降は国幣小社に列せられた。
そして皇紀2600年の記念事業として、神武天皇ゆかりの地として社域も拡大された。
これで日向市に続いて都農町も訪ねたが、都農町にはもう1ヶ所、第36番・貫川寺がある。こちらは国道10号線沿いで、都農神社からもほど近いということでそのまま向かうことに・・・。