日向の国に来たのはいいが、この宮崎県、これまでじっくり回るというのはほとんどなかったところである。延岡から宮崎に向かうのだが、途中の日向市に立ち寄ることにする。
今回、日向市のホームページを見て立ち寄ることにしたのは細島半島、その先にある日向岬。まず通るのは細島港である。北側の工業港と南側の漁港に分かれるが、昔から開かれた港であり、南九州と瀬戸内海を往来する船の中継地点として栄えた。明国やポルトガルの船も立ち寄ったともいい、江戸時代には参勤交代の大名も行き交ったそうだ。またかつて、日向市行きの長距離フェリーも運航されていたが(JR時刻表の巻末で見たような)、そのフェリーが発着していたのはこの細島港である。
こうして振り返りの記事を書くうち、そういえばかつて近鉄バファローズの日向キャンプというのがあったなというのも思い出す。
この先は岬に続く丘。坂道を上ったところに観光案内所兼売店と駐車場がある。景観スポットということでクルマが結構停まっている。レンタカーも目立つ。
一角に、日向を代表する歌人・若山牧水の歌碑がある。「樹は妙に 草うるはしき 青の国 日向は夏の 香にかをるかな」。正に今、青の国、夏の香にいる。
この先は遊歩道を行くが、その途中にあるのが細島灯台。昔から細島は日向の海の要衝ということを書いたが、明治時代に近代的な港の整備が行われたのに合わせて建設された灯台である。
そして広がる日向灘。「太平洋」を眺めるのも久しぶりである。西日本の札所めぐりで海を見る機会もあるのだが、このところ瀬戸内海や日本海、東シナ海などが続いていた。前日は豊後水道をフェリーで渡ったが、豊後水道はまだ瀬戸内海の延長のイメージがあり、いわゆる「黒潮」という意味だと今回が久しぶりである。
せっかくなので岬の先端まで行ってみるが、その前に現れたのは「馬ヶ背」という奇勝である。日本最大級という柱状節理は高さ70メートルほどある。その上に岬があるのだが、岩肌の色や形が馬の背中に似ていることからその名がついたという。
遊歩道からその柱状節理を見ることができるのだが・・・遠くを見る分にはまだしも、近くで見下ろすとその高さに身をすくめてしまう。そうしたスポットだが、「スケルッチャ!」なる展望台がある。その名の通り、足元がガラス張りで透けて見える。安全なのはわかっているが、真下が見えるとビビってしまう。この時親子連れが居合わせたのだが、小さい子どもは真下の景色を見た瞬間に泣き出し、「いやだ帰る!」と親の足を必死につかんでいた。
遊歩道をもう少し進み、日向岬の先端に出た。ちょうど、灯台から見えていた陸地である。この先は危険防止のため柵が設けられている。正面の水平線、その先は果てしない。
こうした景勝地だが公共交通機関は通っていない。今回レンタカーだからこそ訪ねることができたと言える。この先も、公共交通機関で回りたいと思いつつ、現実にはレンタカー、あるいは広島から軽自動車で訪ねる札所が多いのだろうな・・。
もう1ヶ所、今度は細島半島の南の付け根にあるスポットに行ってみる。伊勢ケ浜という、相撲部屋のような海岸に着く。
ここで訪ねたのが大御(おおみ)神社。案内に「日向のお伊勢さま」とあったので訪ねてみた次第である。やはり日向の国というと神話の印象が強いので。天照大神の孫であるニニギノミコトが高天原に降り立ち、後に神武天皇が東征して熊野から大和に入り、橿原にて初代天皇となる・・という正統派の流れである。
社殿は伊勢神宮と同じ神明造り。正面は高千穂を向いているそうで、背後には太平洋の波が広がる。こういうスポットがあったとは知らなかった。
神社創建の時期は定かではないが、高千穂の地に降り立ったニニギノミコトが当地を訪ねた際、さざれ石が広がる大海原を見て、天照大神を祀り平和を祈念したのが始まりとされる。後に神武天皇が東征した際、この地に立ち寄り、武運長久と航海安全を天照大神に祈願したという。以後、日向を治めた歴代の武将、大名をはじめ、土地の人たちからも篤い信仰を集めた。
最近では、ラグビーの日本代表がワールドカップ前に宮崎で合宿を行った際、大御神社に必勝を祈願した。そのおかげかどうか、2015年大会では南アフリカを破る金星、そして2019年大会では予選リーグを突破したことから、縁起がよい神社としても知られているそうだ。今年はワールドカップ開催年で、宮崎でも合宿が行われたそうだが、大御神社にも必勝祈願に訪れたのかな。
大御神社の奥にもう一つ、鵜戸神社というのがあるので行ってみる。鵜戸といえば日南の鵜戸神宮が有名で、これまで行ったことがないのでこの九州八十八ヶ所百八霊場めぐりではぜひ訪ねたいところだが、ここに同じ名前の神社があるとは。
岩伝いに進み、最後は細い階段を下りる。フナムシが無数にうごめくその向こうに海の景色。ここじたい、隠れ家のような佇まいである。
振り返ると洞窟があり、その奥に鳥居と祠が見える。石が転がる中、洞窟の中に入って奥に向かう。そこで海のほうに向きなおると、岩の間に光が差し込むのが見える。これが「昇り龍」の形に見えるとして、龍神信仰スポットしての歴史を持つ。また、天照大神を祀る神社の脇の洞窟ということで、天岩戸に比されることもあるそうだ。
日向というとなだらかな海岸線が続くのかなというイメージがあったが、こうして訪ねてみると、特に北部は先ほどの日向岬の馬ヶ背といい、リアス式海岸からの複雑な地形に加え、柱状節理が織りなす景色が多い印象を持った。
満足した一時を過ごした後、再び国道10号線に戻り、市街地から少し離れた第34番・中野寺に向かおう・・・。