まつたけ秘帖

徒然なるままmy daily & cinema,TV drama,カープ日記

娘を探して三千里

2017-12-26 | ドイツ、オーストリア映画
 師走のbeau garçon映画祭⑤
 「消えた声が、その名を呼ぶ」
 1915年のオスマントルコ。少数民族であるアルメニア人への弾圧が暗い影を落とす中、妻子と幸せに暮らしていた鍛冶職人のナザレットは、突然憲兵によって家族と引き離され、砂漠で奴隷のような労働を強いられる。瀕死の傷を負い、声を失いながらも虐殺を生き延びたナザレットは、死んだと思い込んでいた双子の娘が生存していると知り…

 生き別れた肉親を探して遠い異国へというお話は、「ライオン 25年目のただいま」と似ていますが、こちらの作品のほうが壮大で激動に満ちた波乱万丈映画でした。社会や生活、自然の過酷さや厳しさに心身ともボロボロになりながらも、挫けずに果敢に立ち向かい乗り越えるナザレットの姿は、まるでゲームオーバーのない冒険ものRPGみたいでした。

 トルコからリビア、レバノン、キューバ、そしてアメリカへと、気が遠くなるような移動を繰り返すナザレットの遥かなる旅路には、見ていて旅心を誘われるよりも、重い疲労を覚えました。苛烈で悲惨なことばかり起こるので、旅気分ではなく悪夢の追体験をしてしまうみたいな。とにかく気が滅入る展開、シーンのてんこ盛りな映画でした。

 壮絶な艱難辛苦の中、双子を探して三千里の旅を続けるナザレット。やっとたどり着いた外国の町で、不運なすれ違い。なかなか出会えないもどかしさもさることながら、絶対にあきらめないナザレットの執念深さは、崇高であると同時に狂気じみてもいました。私の親なら、すぐにあきらめてるでしょうし不屈の精神以上に、超人的な気力体力が必要。そして、運の良さも。まさに神も仏もない生き地獄を、神も仏もいる運の良さでサバイバルしてたし。神さまを呪いたくなる、神さまを信じたくなる人生です。傷ついたナザレットに手を差し伸べてくれる人たちの、掛け値なしの善意と優しさが心に沁みました。外国で優しくされたためしのない私には、羨ましいかぎりでした。優しくされる、愛されるって、やはり天性のものが必要なんですね。

 アルメニア人虐殺とか、本当にあったこととは信じたくない、世界最大の黒歴史のひとつです。虐殺と同じぐらい怖かったのが、ナザレットがアメリカで受けたいじめ。基本的には明るくておおらかなアメリカ人だけど、移民や異人種に対する狭隘で暴力的な差別偏見を目の当たりにすると、アメリカ人が世界で一番醜く愚かに思えてしまいます。トランプさんって、こういった連中に支持されてるんだろうな~。まさに憂国のアメリカです。すぐに弱い女性を輪姦しようとする、アメリカ映画ではお馴染みな、アメリカ人のレイプ好きなところも不愉快。
 ナザレット役は、お気にのボーギャルソンの一人、タハール・ラヒム。

 どの作品でも魅力的なラヒムくんですが、この映画の彼が今までいちばんイケメンに見えたかも!たくましくもナイーヴな役がオハコなラヒムくんなので、その究極系みたいなナザレット役は、まさに適役と言えましょう。台詞がほとんどない演技、エモーショナルな表情と仕草が切なかった。どんな時も悲しみに潤んだ瞳が美しくて胸キュン。若々しすぎて、あんな大きな双子のパパには見えませんでした。どう見てもお兄ちゃん。ピュアな少年っぽいところも彼の魅力です。チャップリンの映画を観て笑顔になるシーンのラヒムくんが、可愛いくて悲痛でした。

 フランス映画でパリに住む移民とか演じてるラヒムくんは、アラブっぽさが濃厚なのですが、この映画で生粋の中東人に囲まれれた彼は、西洋人っぽく見えたのが面白かったです。薄くない、でも濃すぎない、というのも彼の魅力です。不幸で悲しい役ばかりのラヒムくん。数少ないコメディ「サンバ」の時みたいな(といっても、この映画でもかなり逆境に苦しんでる役でしたが)明るくハッピーな彼にも会いたいものです。
 今年のカンヌ映画祭で、ダイアン・クルーガーが女優賞を受賞した「女は二度決断する」も楽しみな、ドイツの俊英ファティ・アキン監督の作品。過去の作品も高く評価されたものばかりみたいなので、機会があればぜひ観たいものです。

 ↑他のボーギャルソンに比べれば、日本で公開されてる出演作が多いタハール・ラヒム。そのほとんどが名匠の作品で、クオリティが高いのもボーギャルソンの中では群を抜いてます。最新作は、ルーニー・マーラとホアキン・フェニックス主演のキリスト映画“Mary Magdalene ”です
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