まつたけ秘帖

徒然なるままmy daily & cinema,TV drama,カープ日記

モラハラ夫の罠!

2019-08-18 | 北米映画 20s~50s
 「ガス燈」
 有名歌手の伯母が殺され遺産を相続したポーラは、留学先のイタリアでピアニストのグレゴリーと恋に落ち結婚し、事件のあったロンドンの屋敷で新婚生活を始める。事件の影に怯えるポーラに次々と奇妙な出来事が起き、グレゴリーに病気扱いされるうちにポーラは精神のバランスを崩し…
 イングリッド・バーグマン初のオスカー受賞作。モラハラ夫から精神的DVを受け、自信喪失と自己嫌悪で情緒不安定に陥り、追い詰められて本当に狂いかけるヒロインをデリケートに力演しています。

 それにしても。“ただキレイ、カワイイ女優”と“大女優”の格と質の違いを、この映画のイングリッド・バーグマンを見てあらためて思い知りました。当時バーグマンは29歳ぐらいなのですが、綾瀬ハルカとか深田キョウコより年下って事実に驚かされます。いい年してかわいこぶりっこな気持ち悪い日本のアラフォー女優にはない凛とした落ち着き、怜悧な知性、そして何より圧倒的なまでに神々しい美貌。バーグマンの美しさの素晴らしい点は、クールビューティなのに冷たさも高慢さもなく、高嶺の花だけど優しそうで誠実な人間的なぬくもりがあるところでしょうか。

 高貴さと優美さ、今の女優にはない尊い魅力で映画史上屈指の大女優として今なお崇められているバーグマンですが、その卓越した演技力もオスカーを3度も受賞という形で高く評価されています。夫に貶められ蔑まれ、じわじわと心が蝕まれていく繊細なコワレ演技にも惹きこまれます。キョドった目つきとか、かなりヤバい人です。こまやかな表情の変化や体の動きで、不安や恐怖にたゆたう心を表現するテクニックには、台詞を覚えるのが精いっぱいな女優とはやっぱ違うな~と感嘆させられます。

 バーグマンって大柄(180㎝近くある?)だし、か弱い女には見た目だけだと見えないのですが、たおやかな風情のおかげで世間知らずなお嬢様、夫の言いなりになる妻の役にも違和感がありません。同じデカい女でも、米倉涼子とか天海祐希とかにポーラ役は無理です。だいたい、今の女優ってみんな見た目も性格も強いキツいので、ポーラみたいなヒロインは似合わないし、演じたくもないでしょう。me,too運動とかの社会情勢もあるし、モラハラ野郎などフザケンナ!と鼻息荒く一蹴しそうな女優ばかりなのも、何だか味気ないですね。

 それにしても。モラハラ夫に支配され委縮して病んでしまう女なんて、多くの女性からしたらイライラするダメ女に思えてしまいますが、実際には世の中たくさん存在してるんですよね~。モハラハ男に操られて凶悪事件を起こした女たちもいます。北九州一家殺人事件の緒方純子や、長崎・佐賀保険金殺人事件の山口礼子を思い出しました。私もどちらかといえば依存心が強く言いなりになるタイプですが、グレゴリーみたいな男には早い段階で耐えられなくなると思います。女性の権利!を声高に叫び求める勇ましい戦士にはなれないけど、モラハラ男に付け入るスキを与えるような自己肯定感の低い人間にはなりたくないです。

 モラハラ夫役は、フランス出身の美男俳優シャルル・ボワイエ。真綿で首を絞めるような、遠まわしでさりげない、かつ執拗で陰湿なモラハラが腹ただしく怖いです。狡猾な手口が中年男のイヤらしさ。優しげに接しながらも、目つきは氷のように冷たい。妻への蔑み方、侮り方が優雅で慇懃なのが庶民のモハラハ男との大きな違いでしょうか。ポーラを助けようとする刑事役は、「第三の男」や「市民ケーン」などで有名なジョゼフ・コットン。バーグマンとは「山羊座のもとに」でも共演してましたね。懐かしのTVドラマ「ジェシカおばさんの事件簿」で人気を博し、最近は「メリー・ポピンズ リターンズ」で元気なお姿を見せてくれたアンジェラ・ランズベリーが、ちょっと感じの悪い、けど何か笑えるメイド役を好演してます。「マイ・フェア・レディ」などハリウッドの大女優主演作を数多く撮った名匠ジョージ・キューカー監督作品です。
コメント (4)
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