まつたけ秘帖

徒然なるままmy daily & cinema,TV drama,カープ日記

蒼いリンゴに唇よせて

2020-09-08 | 北米映画 15~21
 「Fair Haven」
  シカゴの教会で同性愛矯正カウンセリングを受け故郷に戻ったジェームズは、息子に家業のリンゴ農園を継いでもらいたい父とのぎくしゃくした関係に苛立つ。そんな中、教会に行く原因となった元恋人のチャーリーと再会したジェームズは…
 BLもずいぶん市民権を獲得して、今や安定の人気ジャンルに。現実世界でも昔に比べると、LGBTへの差別や偏見もあからさまではなくなってきてるようですが、やはり今でも多くの国、地域では理解できない!許せない!という狭量さや不寛容さのほうがマジョリティです。特に田舎では、いまだに同性愛なんて“善き常識人”からしたら、逆さまの変態世界なのです。保守的な田舎、そこに宗教が絡んでくると、さらに同性愛否定、同性愛排斥は頑強化してしまいます。この映画、同性愛に苦悩する主人公が教会で矯正カウンセリングを受ける設定は「ある少年の告白」と同じですが、こちらの神父さまには人権無視な過激さ、非情さはなく、決して声を荒げたり何かを無理強いすることもなく、同性愛者の若者たちに穏やかで気さくなダンディ。でも優しい物腰、物言いの中でもしっかり、がっつりと同性愛を全否定してるんですよ。罪悪感を植え付ける手法は、教会の常とう手段のようです。

 同性愛は非生産的、男も女も結婚して子どもを作るのが人間の義務!という聖書の教えは、こんなにも世界中で人権の尊重、個人の自由と権利が声高に叫ばれ、守られているはずの今の時代に逆行してる!と思う人のほうが、実は少ないというのが虚しい現実です。この映画の主人公ジェームズも、同性愛は罪!悪!という聖なる圧で潰されそうになってる哀れな若者なのですが、あまり同情も共感もできないんですよね~。とにかく彼、いくら余裕がない切羽詰まった状況にあるとはいえ、いつも自分のことばかりで周囲の人たちの気持ちや立場への思いやりや配慮が全然なく、優しい人たちへの刺々しい態度には見ていてイラッムカっとするだけでした。

 ジェームズよりも、彼のパパのほうが哀れで痛ましかった。お父ちゃんも田舎のキリスト教信者なので、同性愛にはオープンマインドになれないけど、だからといって頭ごなしに息子を責めたりしないし、冷ややかに侮蔑したりもしないし、罪悪感を煽るように悲嘆に暮れたりもせず、不器用ながらも息子の意に添うように努力してる様子が、いじらしくも切なかったです。息子が家業の農園を継ぎたがらず、音楽の道に進みたがってることに不安を抱いたり賛成できないのは、親として当然のことだし。なのに息子は、農家なんかイヤだ!全部売って学費にしろ!とか言ってパパを陰に陽に責めたり蔑んだり、親不孝すぎて殴りたくなりました。同性愛者であることに苦しんでる、それを盾に何でも許してもらえるとでも思ってそうな振る舞いが不愉快でした。ジェームズに振り回され傷つけられる元カレのチャーリーも、ノンケのふりをするために利用される女の子も可哀想だったけど、彼女がBLに苦悩したり理解を示したりするような重いキャラではなく、“善き常識人”の一人だったのでちょっと安心。女がBLに絡んでくるの、苦手なんですよね~。

 ジェームズ役のマイケル・グラントは、ちょっと若い頃のトム・クルーズを地味にした感じ。チャーリー役のジョッシュ・グリーンは、ジョセフ・ゴードン・レヴィッドを地味にした感じの風貌。ラブシーンも地味でした。いつ誰が入って来るかわからない納屋でエッチするとか、大胆というか不用心というか。ラストがちょっと都合よすぎ。若い二人はルンルンなハッピーエンドでも、お父ちゃんはほんとにそれでよかったの?と、つくづく親って悲しい、報われないな~と、我が両親と自分たち兄妹の関係を顧みて、罪悪感に胸が塞がってしまいました。
 
 
コメント
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