白鷹山に雪のない季節に登るのは何年ぶりのことだろう。ここは標高も994mで、里山といった方がいいかも知れない。頂上には虚空蔵尊が祀られ、近隣住民の信仰の山である。頂上で、スキー場の方から登ってきた若い夫婦に会った。聞くと、白鷹町の住んでいるが、一度も登ったことがないので、意を決して登ったという。長靴を履き、軽装である。珍しそうに、山小屋や神社を眺め、お互いの記念写真を撮っていた。
そうするうちに、若い学生風の男性を伴って登ってきた人がいた。山道はスニーカーでも大丈夫ですよ、とこちらも軽装。地元の人たちは、気軽に登ってくる。この季節の見どころは何と言っても新緑の美しさだ。辛夷や山桜の花も、新緑のとのコントラストで、春山の雰囲気をいやがうえにも盛り上げる。
大平コースの登山口あたりからミズバショウの群落が渓流に沿って姿を見せる。この花は、ダークダックスが歌ったことで有名だ。「夏がくれば 思い出すはるかな尾瀬 遠い空霧のなかに うかびくるやさしい影 野の小径水芭蕉の花が 咲いている夢みて咲いている水のほとり」という歌を聞きながら、ミズバショウを見にいつか尾瀬に行きたいと思っていた。山登りをするきっかけは、この歌の記憶にあったのかもしれない。このミズバショウの大群落を見ると、尾瀬に行かずとも、白鷹山で十分にその美しさを堪能できる。
ミズバショウのそばにキクザキイチゲの可憐な花が咲いていた。この季節の山歩きは、花たちによって楽しみが倍加する。それに加えて、山菜が顔を出しているのもまた楽しみのひとつである。白鷹山では登山口の付近で、コゴミ、イワダラ、ゼンマイを少し採った。
大平コースは登山口から水飲み場を過ぎたあたりから、急登になっている。だが登りやすく階段があるし、所々の景色が身体を休めてくれる。尾根筋に着いてからは、そよ風に吹かれる快適なコースになる。木立の間から葉山や月山の残雪が見えた。1時間ほどで頂上の白鷹虚空蔵尊に着く。